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太宰府・二日市編
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雄狐はそれから数百年を生きながら考えた。
雄狐は賭けた。
巫女がもう一度魂だけでも、自分の元に戻ってきてくれることを。
雄狐は立花の霊狐として与えられた「紫野」の名を改め、篠崎と名乗るようになった。
あっという間に400年の月日が流れ、人間社会にすっかり順応した霊狐篠崎はある日運命の出会いを果たす。
「え、ええと…私は本当に、お金が無くて……それに、ただ普通に、就職をして、親を安心させて、人生無難に過ごせたらそれでよくて…」
「『井の中の蛙大海を知らず』と古来より言う。まずは挑戦だ」
「話聞いてください……」
最近マークしていた不法営業の黒猫又の男が、くたびれた作り笑いでたじたじになった女を相手している。
気づいた瞬間、意識するより先に体が反応した。
身体中の毛が逆立つ。
灰色の世界で一箇所だけ、まるで春がきたように鮮烈に浮かび上がるその姿。
甘い匂いがあたり一面に漂うような、だだもれの霊力。
「さくら、」
篠崎は意識するより前に駆け出していた。思い切り真っ直ぐ近づいてきた篠崎に驚いた顔をして挙動不審になるリクルートスーツ姿の女。
「き、きつね……?」
露骨に怯えていた癖に、篠崎の尻尾と耳に気づいた瞬間、わずかに顔が緩むその図太さ。
ーーああ、見覚えがある。
篠崎は熱くなる涙腺を堪え、彼女を睨みつけて一瞥し、すぐに黒猫又へと目を向けた。
魂が同じといえど、生まれ変われば他人かもしれないと恐れていた。
けれどーー篠崎は確信した。
この変な女に、また同じように自分は身も心もめちゃくちゃになってしまうと。
雄狐は賭けた。
巫女がもう一度魂だけでも、自分の元に戻ってきてくれることを。
雄狐は立花の霊狐として与えられた「紫野」の名を改め、篠崎と名乗るようになった。
あっという間に400年の月日が流れ、人間社会にすっかり順応した霊狐篠崎はある日運命の出会いを果たす。
「え、ええと…私は本当に、お金が無くて……それに、ただ普通に、就職をして、親を安心させて、人生無難に過ごせたらそれでよくて…」
「『井の中の蛙大海を知らず』と古来より言う。まずは挑戦だ」
「話聞いてください……」
最近マークしていた不法営業の黒猫又の男が、くたびれた作り笑いでたじたじになった女を相手している。
気づいた瞬間、意識するより先に体が反応した。
身体中の毛が逆立つ。
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「さくら、」
篠崎は意識するより前に駆け出していた。思い切り真っ直ぐ近づいてきた篠崎に驚いた顔をして挙動不審になるリクルートスーツ姿の女。
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けれどーー篠崎は確信した。
この変な女に、また同じように自分は身も心もめちゃくちゃになってしまうと。
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