こちら、あやかし移住就職サービスです。ー福岡天神四〇〇年・お狐社長と私の恋ー

まえばる蒔乃

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太宰府・二日市編

筑紫野の、紫野

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 飲み会の夜から、週末が終わって月曜日。今日のお仕事は篠崎さんの同行だ。

 篠崎さんは私を助手席に乗せ、社用車で博多駅へと向かった。二日市にあるあやかし御用達温泉宿に、住み込み就職を希望する女性を送迎するためだ。
 車を博多駅筑紫口の駐車場に停めると、篠崎さんはシートを引いてタブレットを開き、各所へと連絡を始める。
 作業をしながら、助手席の私に話しかけてきた。

「こういうとき、楓が入社してくれて助かってるんだ。男と二人で車移動は抵抗があるあやかしは多いから」
「まあ、知らない男性と一緒なのって不安な人も多いですしね、女性って。……お役に立てて、よかったです」

 私は普通の顔で、普通の返事ができているだろうか、と思う。
 先日のキス、そして友達との飲み会の夜以降。
 篠崎さんと二人きりの時はどうしても、普通に振る舞おうとしてもぎこちなくなってしまう。

「……今日お連れするのは二日市温泉ですよね」
「ああ。大宰府政庁時代から続く古い湯だ。古いあやかしも知っていてネームバリューもあるから人気の案件だ」
「ですよね。求人出した瞬間にお問合せ溢れて、ちょっとびっくりしました」
「竹取物語で宣伝されるくらいだからなー」

 今回の求人は1名。それに求人に対して驚くほどの問い合わせが入っていた。メールや電話だけでなく霊力で手紙が届いてきたり、言霊が飛んできたりするだけでなく、此方の頭に直接飛ばされてくる思念まであって対応が大変だった。

「人気の求人でもあるんだが、まあ一つ面倒があるんだ」
「……面倒、とは?」
「近場の商売敵が勝手にスカウトして引っ張っていくんだよ、別の温泉宿に」
「べ、別の温泉宿? 商売敵さん……?」

 篠崎さんは苦い顔をして頷く。

「博多駅で待ち構えて、勝手に交渉して引っ張っていくんだ。あっちはオーナーも有名人だから、名前を出されると強くてな」
「そんなに有名な人ですか?」

 篠崎さんは深く頷く。

「佐賀だしなあ……」
「佐賀ですか」

 私は話を聞きながら、手元のタブレットで地図を開く。

 福岡県は北部の筑前と南部の筑前の境目、ちょうど太宰府がある位置で逆の字に折れ曲がった形をしている。その曲がったところに嵌っているのが佐賀県だ。福岡を南北に繋ぐJR鹿児島本線も九州新幹線も九州自動車道も、ちょうどそこで佐賀県を通過する。

 近場だから余計に、「コチラで就職はどうですか」と引っ張っていくのが容易いのだろう。

 ーーあ。
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