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太宰府・二日市編

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 皆が口々に人生プランについて盛り上がっている中で、黙り込んだ私に声をかけてくれたのは旬ちゃんだった。

「すこし、一緒に風にあたろうか」
「……うん」

 私は旬ちゃんと一緒に席を立つ。そして居酒屋の外で二人で空を見上げた。
 空は星ひとつ見えない。
 街灯と商店街の光と、夏の夜の虫の音と、往来する車の音、他店の喧騒。全部他人事のようだ。

「……私もっと恋愛とか、してくればよかったなあ」

 空を見上げながら呟く私に、旬ちゃんは何も口を挟まない。
 じっと、私の言葉を待ってくれている。

「私……今日、旬ちゃんや皆と話して気づいたんだ。多分、社長のことが好きなんだと思う」

 言葉にすればあまりにもシンプルで、明快な答えだった。
 旬ちゃんは、静かに頷いた。

「おめでとう。恋心を知ることは素敵なことだわ」

 でもね、と旬ちゃんは付け加える。

「覚えておいて。住んでる世界が違う人と、『好き』って気持ちだけで一緒になろうとすると不幸になるわ」

 これまで私の気持ちを受け止め続けてくれた旬ちゃんが、私を真剣に見つめて語る。

「旬ちゃん……」
「楓ちゃんは「普通」になりたいんでしょう? ずっと、普通じゃない人生するってしんどいよ。好きって気持ちだけでは解決できないことも多いし。それに」
「それに?」
「……相手の人が、『普通』じゃない人なら。楓ちゃんの好きを受け止めてくれる人かどうかもわからないし……楓ちゃん以外に、大切な人がいるとしたら?」


 胸が貫かれるように、痛い。
 そうだ。篠崎さんには大切な人がいる。400年も前からずっと繋がり続けている、絆の相手が。

「ありがとう。旬ちゃんと話すと、いつも色々見えてくるわ。ありがとう」
「ううん。また近々会いましょうね。約束よ」

 私ははっと時計をみる。

「あ、ラストオーダーの時間だ! 戻ろう、旬ちゃん」

 私の言葉に旬ちゃんは首を横にふる。

「先に行ってて。私、お手洗いに行ってからいくから」
「そう? わかった。何か頼むものがあったらメッセージおくって!」

 私は一人、慌てて店内の明るい光に飛び込んでいった。
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