上 下
78 / 145
太宰府・二日市編

篠崎さんと私の『旧い縁』。

しおりを挟む
 二人ともスーツ姿で、見るからに二十代のお若い方と、いかにも役職付きのような紳士の方の二名だ。
 二人とも武道の心得があるのか、どことなくスッと背筋が伸びていて凛々しい。まるで武者だ。

 特にアラフォーくらいの紳士の方は、背も高くて端正な顔をなさっていて、いわゆるイケメンだ。美しすぎる○○!とかに使われてもおかしくない、男女ともに好かれそうな不思議な魅力の男性だった。

 私たちは通り一遍の挨拶を交わし、席に着く。

「弊社篠崎から既にご案内がお済みかと存じますが、今回はこちらのお寺の御住職としてお勤めいただきます。雇用契約につきましてはこちらにーー」

 タブレットと書類を前に、スムーズに確認と手続きが進んでいく。若い方の男性と紳士の二名のうち、今回入職するのは若い方の男性の方だ。
 紳士は笑顔を浮かべて私に言った。

「私は単なる付き添いだ。まあ気にしないでくれたまえ」
「いや~殿、拙者が慣れてないばかりにご足労いただき申し訳ない」
「なに。たまには人里に出て人と話す口実が欲しいものだよ、気にするな。……ほら、そこはフリガナ欄だ。片仮名で書けよ」
「はっ!」

 書類に書き込んでいく様子を見ながら、私はタブレットの情報を見やる。お二人とも400年前くらいに亡くなった武士の方と書かれている。あ、本物のお武家さんか~。

 そう言えば太宰府天満宮の宝物殿に収蔵されている菅原……名前を申し上げられない公の刀も焦げ焦げだった。確か戦国時代に天満宮の本殿が燃えたとき、一緒に燃えたって書かれていた気がする。
 きっとその頃にご存命だったあやかしさんなのだろう。 あやかし?

「あ、あの…不躾だったら申し訳ないのですが」
「構わぬよ。どうした?」

 殿と呼ばれる紳士が柔らかく私に返してくれる。

「恥ずかしながら私、まだ『あやかし』の基準がわからないでいるのですが……。お二方は元々人間としてお過ごしだったのですよね。今は……区分としては…?」
「まあ、神仏に近い存在だろうね。私もどう表現すれば良いのか分からぬのだ」

 殿は苦笑いして、コーヒーをゆったりと口にする。代わって隣で部下の方が話してくれた。

「いやあ、『子孫が元気にやってるかなー、ちょっと見守ってから逝こうかなー』とか思ってたら、意外と手厚く祀られちゃって、そのまま神霊となる者も多いんですよ。ま、せっかくこうして永く『此方』に居られるのだから、少しは働いて人々の助けになれればと」
「輪廻に入る魂もあれば、祀られる事により魂が分離して、神仏に近い存在として残ることもある。私たちはそういう存在だ」
「へー」
「こうして戴く珈琲も美味いし、甘味も美味い。長生きするに越したことはないな」
「なるほどですね……」

 元人間の神様から狐まで、全部網羅!ーー『あやかし』は、奥が深い。

「弊社篠崎からの紹介のお寺は、宗派など障りはありませんか?」
「念仏は任せてください。生前に殿に倣って出家もしましたし!」
「あは……」
「幽霊ジョークだ。気にしなさんな」

 殿が少し困った顔をして笑う。その漂う気品に私はつい緊張してしまい、愛想笑いもぎこちなくなってしまうのだった。

ーーー

「それでは、次にお会いするのは一週間後、お寺でですね」
「はい、よろしくお願いします」

 不意に、殿が涼しげな目元を細めて私を見た。

「ところで楓殿。紫野しのは息災か? 実は、私は彼に会いたくて来たようなものだったのだが」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

坂本小牧はめんどくさい

こうやさい
キャラ文芸
 坂本小牧はある日はまっていたゲームの世界に転移してしまった。  ――という妄想で忙しい。  アルファポリス内の話では初めてキャラ名表に出してみました。キャラ文芸ってそういう意味じゃない(爆)。  最初の方はコメディー目指してるんだろうなぁあれだけど的な話なんだけど終わりの方はベクトルが違う意味であれなのでどこまで出すか悩み中。長くはない話なんだけどね。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...