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中洲編

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「誾千代姫が身罷られたわ」

 姉の言葉が、鐘が響くように紫野の体いっぱいに反響する。
 わかっていた。彼女がここに来た時点で、紫野は悪い予感をすでに察していたのだから。

「去年から病に伏しておいでだったのだけれど、稲荷神の御加護を全て殿の再士官の為に差し出して。お一人でずっと耐えていらっしゃったわ。加治祈祷もお医者様も駆り出して、できる限り尽くしたのだけれど……先日、寒い日が数日続いた時に体調を崩されて、そのまま」
「……そうか」

 頭がぐらぐらする中で、紫野はつぶやく。
 明るく気丈で美しかった、強い姫の笑顔が通り抜けていく。

「もう一目だけでも、誾千代姫様にお会いしたかった」
「姫もずっと、紫野ちゃんに会いたがっていた。……あなたと桜を引き裂いたのは自分のせいだと、ずっと後悔なさっていたわ」
「そんな後悔なんて、いらないのに」

 自分たちの決断は自分たちの決断だ。誾千代姫が何も気を遣うことは無いというのに。

「桜は?」

 ハッとして、紫野は顔をあげた。

「桜はどうした。あいつは」

 尽紫は目を見開き、そして唇を噛み締める。深く深呼吸をして、彼女は続けた。

「誾千代姫より少し前に、桜は逝ったわ。……誾千代姫にかけられた呪いを身代わりに一身に受けて、正気を失いながら井戸で……そのまま……」
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