72 / 145
中洲編
挿話・千年マイナス、六〇〇年の狐
しおりを挟む
時は慶長七年(1602年)。
筑紫野の霊狐、紫野は夢をみていた。
立花山城の麓に建てられた居城で、普通の子供のように遊んでいた頃の夢だ。
「紫野ー!!! 見て! 尻尾が生えちゃった!」
巫女の少女が帯に薄を何本か挿し、紫野の尻尾の真似をして腰を振る。
「何やってるんだよ、桜……」
「これこれ、桜よ。尻尾だけでは狐には成れぬぞ。私が耳もつけてやろう」
「わぁ、姫、ありがとうございます!」
紫野は呆れながら、誾千代姫へと声をかける。
「……姫も付き合ってやらなくてよろしいんですよ」
「ふふ、楽しいのだから良いではないか。ほら尻尾も、紫野の真似なら五本だ」
「ひゃーくすぐったい」
隣で楽しそうにお手玉を選び、巫女の頭にくくりつけようとしたり、尻尾を増やしたりする誾千代姫。
二人の周りには侍女や他の雌の霊狐も控えていて、皆、幼い戯れを温かな目で見守っている。
紫野と主従関係を結んだ主人である巫女の名は桜。「人の話をよく聞く」という意味を持つ「誾」の字を与えられた誾千代姫が、父似で自我のはっきりした姫君に成長したように、「桜」という儚い名を与えられた巫女はどうにも元気いっぱいで、多少のことでは動じない元気な娘に成長していた。
「しかし桜。なんで、狐の真似なんかしているんだよ」
「だって私、いつか紫野のお嫁さんになるんだもん。今から練習!」
「練習って……」
嫁になりたいと、あどけなく笑う幼い主人。
六百年を生きた霊狐・紫野は立花山城城督・戸次道雪に導かれ彼女と主従を結んだが、当初はただ可愛らしく無邪気な子供でしかなかった。
だったのに。
夢の景色が歪む。
筑紫野の霊狐、紫野は夢をみていた。
立花山城の麓に建てられた居城で、普通の子供のように遊んでいた頃の夢だ。
「紫野ー!!! 見て! 尻尾が生えちゃった!」
巫女の少女が帯に薄を何本か挿し、紫野の尻尾の真似をして腰を振る。
「何やってるんだよ、桜……」
「これこれ、桜よ。尻尾だけでは狐には成れぬぞ。私が耳もつけてやろう」
「わぁ、姫、ありがとうございます!」
紫野は呆れながら、誾千代姫へと声をかける。
「……姫も付き合ってやらなくてよろしいんですよ」
「ふふ、楽しいのだから良いではないか。ほら尻尾も、紫野の真似なら五本だ」
「ひゃーくすぐったい」
隣で楽しそうにお手玉を選び、巫女の頭にくくりつけようとしたり、尻尾を増やしたりする誾千代姫。
二人の周りには侍女や他の雌の霊狐も控えていて、皆、幼い戯れを温かな目で見守っている。
紫野と主従関係を結んだ主人である巫女の名は桜。「人の話をよく聞く」という意味を持つ「誾」の字を与えられた誾千代姫が、父似で自我のはっきりした姫君に成長したように、「桜」という儚い名を与えられた巫女はどうにも元気いっぱいで、多少のことでは動じない元気な娘に成長していた。
「しかし桜。なんで、狐の真似なんかしているんだよ」
「だって私、いつか紫野のお嫁さんになるんだもん。今から練習!」
「練習って……」
嫁になりたいと、あどけなく笑う幼い主人。
六百年を生きた霊狐・紫野は立花山城城督・戸次道雪に導かれ彼女と主従を結んだが、当初はただ可愛らしく無邪気な子供でしかなかった。
だったのに。
夢の景色が歪む。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~
七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。
冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??
神様の学校 八百万ご指南いたします
浅井 ことは
キャラ文芸
☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:
八百万《かみさま》の学校。
ひょんなことから神様の依頼を受けてしまった翔平《しょうへい》。
1代おきに神様の御用を聞いている家系と知らされるも、子どもの姿の神様にこき使われ、学校の先生になれと言われしまう。
来る生徒はどんな生徒か知らされていない翔平の授業が始まる。
☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:*・゜☆。.:
※表紙の無断使用は固くお断りしていただいております。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる