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中洲編
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その後。
主任は蛇神様と福田先生と一緒に、あやかし自治会の皆さんに向けて謝罪した。
迷惑をかけたあやかしに弁償をすること、霊力で一定期間の奉仕活動をすること。一旦島に帰り、今後について改めて家族会議を行うことが決まったらしい。
私はと言えば夜の仕事は終わりを告げ、いつもの日中業務に戻っていた。
通り魔巫女騒動から数日後、真夏の事務所に福田先生がやってくる。
篠崎さんと一緒に応接間に入ったので、私は冷蔵庫に入っていた例の「あかくて、まるくて、おおきくて、うまい」な苺がまるごと入った大福とお茶をお出しした。
私をみて福田先生は軽く会釈してくれた。
軽く結んださらさらの長い銀髪に金の丸眼鏡、それに背中に大きく広がる梟の羽。ものすごく目立つ容姿だけれど、鏡に映る姿はごく普通の黒髪短髪の男性だ。こういうの、まだよく慣れない。
あま……大きな苺入りの大福を遠慮なくもぐもぐと口にしながら、福田先生は私に話しかけた。
「災難でしたね、菊井さんも」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ転職の時に助けていただいていた福田先生にご挨拶もしないままで失礼いたしました」
「私も色々飛び回っているので捕まりにくいですし、こちらも仕事ですから気になさらないでください」
梟だけに、飛び回ってらっしゃるんですね!というアホなツッコミはなんとか口の中で押し留めた。
「あの、福田先生。これから主任はどうなるんですか?」
「少なくとも向こう数十年は、福岡での就職は難しいでしょうね」
「ひえ」
「そういうものです。あやかしだから何をしてもいいと思って暴走する輩もたまにいますが、『こちら』にいるあやかしは基本的に人と影響し合ってますので」
その後、篠崎さんと福田先生は別の仕事の話があるというので、私は応接間を後にする。
扉を閉める直前、福田先生の声が聞こえた。
「ーーでは、しの殿のご相談の件について始めましょうか」
しの?
閉ざされてしまった扉を振り返り、私は盆を抱えて息を殺す。
やっぱり篠崎さんは色んな人に「しの」と呼ばれている。愛称なのだろうかと思ったけれど、今の会話で確信したーーきっと、篠崎さんは「しの」なのだ。
「私は、篠崎さんのこと……何も知らない」
応接間の階から階段で降りながら、私はひとり呟く。
「『推し』なんだから、知らなくてもいいじゃない。芸能人の本名とか、卒アルとか興味ないし。自分に見せてくれる『推し』の姿が全てでいいじゃない」
自分に言い聞かせるように、私はお盆を抱いたまま口にする。
「でも……キスの契約をしてるような、関係なのに」
冷静になろうとする私を笑うように、首筋の噛まれたところが、甘くジンジンと、痛い。
主任は蛇神様と福田先生と一緒に、あやかし自治会の皆さんに向けて謝罪した。
迷惑をかけたあやかしに弁償をすること、霊力で一定期間の奉仕活動をすること。一旦島に帰り、今後について改めて家族会議を行うことが決まったらしい。
私はと言えば夜の仕事は終わりを告げ、いつもの日中業務に戻っていた。
通り魔巫女騒動から数日後、真夏の事務所に福田先生がやってくる。
篠崎さんと一緒に応接間に入ったので、私は冷蔵庫に入っていた例の「あかくて、まるくて、おおきくて、うまい」な苺がまるごと入った大福とお茶をお出しした。
私をみて福田先生は軽く会釈してくれた。
軽く結んださらさらの長い銀髪に金の丸眼鏡、それに背中に大きく広がる梟の羽。ものすごく目立つ容姿だけれど、鏡に映る姿はごく普通の黒髪短髪の男性だ。こういうの、まだよく慣れない。
あま……大きな苺入りの大福を遠慮なくもぐもぐと口にしながら、福田先生は私に話しかけた。
「災難でしたね、菊井さんも」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ転職の時に助けていただいていた福田先生にご挨拶もしないままで失礼いたしました」
「私も色々飛び回っているので捕まりにくいですし、こちらも仕事ですから気になさらないでください」
梟だけに、飛び回ってらっしゃるんですね!というアホなツッコミはなんとか口の中で押し留めた。
「あの、福田先生。これから主任はどうなるんですか?」
「少なくとも向こう数十年は、福岡での就職は難しいでしょうね」
「ひえ」
「そういうものです。あやかしだから何をしてもいいと思って暴走する輩もたまにいますが、『こちら』にいるあやかしは基本的に人と影響し合ってますので」
その後、篠崎さんと福田先生は別の仕事の話があるというので、私は応接間を後にする。
扉を閉める直前、福田先生の声が聞こえた。
「ーーでは、しの殿のご相談の件について始めましょうか」
しの?
閉ざされてしまった扉を振り返り、私は盆を抱えて息を殺す。
やっぱり篠崎さんは色んな人に「しの」と呼ばれている。愛称なのだろうかと思ったけれど、今の会話で確信したーーきっと、篠崎さんは「しの」なのだ。
「私は、篠崎さんのこと……何も知らない」
応接間の階から階段で降りながら、私はひとり呟く。
「『推し』なんだから、知らなくてもいいじゃない。芸能人の本名とか、卒アルとか興味ないし。自分に見せてくれる『推し』の姿が全てでいいじゃない」
自分に言い聞かせるように、私はお盆を抱いたまま口にする。
「でも……キスの契約をしてるような、関係なのに」
冷静になろうとする私を笑うように、首筋の噛まれたところが、甘くジンジンと、痛い。
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