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中洲編

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 母猫たちは夜さんから猫を受け取り、両手に子猫たちを抱き、次々とワゴン車に再び乗り込んでいく。
 その仲睦まじい「普通」の母子の姿に、なんだか急にジンとしてしまう。深夜の月明かりの下、猫さんたちがにゃあにゃあ賑やかに仲睦まじく帰る姿は、守っていきたい尊い光景だと思う。

 ママたちに引き渡したところで、夜さんが黒い猫耳をぺしょりと下げて甘えてきた。

「疲れた」
「あはは。護衛がてら保育士さんやってたんだね」

 顎の下を撫でるとゴロゴロと鳴る。

「俺は疲れた。雄猫には荷が重い」
「お疲れ様。まあまあ、頑張ったから懐かれてよかったじゃない」

 夜さんは満更でもない顏で頷き、ワゴン車に入っていく猫たちを眩しそうに見やる。

「もうひと頑張りだ。保育士の雌猫又たちを護衛して、送り届けてから合流する」
「お疲れ。帰ったらちゅーる食べようね」
「ん」

 夜さんと別れ、私は空っぽになったワゴン車に乗り込んで店に戻る。そのまま寮に猫たちを送り届け、ようやくワゴン車の中に静寂が訪れた。

「終わった……」

 ぐったりとしながら車窓から中洲を見やる。
 人間世界もあやかしも問わず、様々な店舗からお客さんやキャストさんたちが家路に帰って行く様子が見えた。今夜は何もなかったみたいだ。

 安心して戻ろうとしたところで、ピリ、と嫌な気配を感じる。

 ポケットに忍ばせていたICカード○やか○んを取り出す。ちか○るくんの目が、輝いている。

 ーー誰かが、霊力を使っているのだ!

「運転手さん。私ちょっと行ってきます!」
「お気をつけて! 篠崎さんに伝えておきますね」
「よろしくお願いします!」

 私は車を飛び出すとICカードを手に掴み、勘を働かせて走る。
 ネオン街の飲み疲れた人々の間をかき分け、裏路地に入ったところで、背後からゾクゾクとした悪寒を感じて、反射的に振り返り様にICカードを掲げた。

「は○かけんシールド!!!!」

 静電気が放出するような音が響き、私の前に薄い防御壁が形成される。
 次の瞬間、ばしゃ、と防御壁に水飛沫が飛ぶ。

 ーー通り魔巫女だ!

 身構えた私の前から防御壁が消えていく。その向こうに居たのは、懐かしくも胃が痛くなる、信じられない相手だった。

「……主任……?」

 夜の街中洲に似つかわしくない、ごく普通のスーツ姿の女。
 それは忘れもしない、前の職場で一緒だった主任の姿だった。
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