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中洲編

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 深夜。
 忙しくて長い夏の夜は終わりのBGMと共に終了し、お客様は行儀良く時間を守って帰っていく。治安が治安なのでアフターはないらしい。
 それに関しては、雌猫又ホステスさん達は「断る口実ができてよかった~」とはしゃいでいる様子だった。

 私は掃除やゴミ出しやお客さんの見送りをしながら通り魔巫女を見張った。篠崎さんと同じ空間にいるのが気恥ずかしくて、ちょっと耐えられなかったので、外に出る仕事が多いのは助かった。

「楓ちゃんお疲れ~!」

 着替え終わった雌猫又さんたちが、私を見つけてにゃあにゃあと話しかけてきた。見た目は10代後半からアラサーまで。世代が近い見た目ながらも、皆頭が小さくて手足が細長くてモデルや芸能人のような美猫だ。

「今日お客さん喜んでたよ~! ありがとね!」
「よく気が利いてすっごく助かったよ! なに? ボーイ慣れてんの?」
「人間にしちゃ、すっごく頭いいじゃない」
「うんうん、人間にしちゃあ上出来~」
「これからもずっと働いてよー。女の子の黒服可愛いし」
「ねえ篠崎さん、この子ちょうだーい」
「姐さんたちスカウトしないでくださいよ、うちの社員です」

 雌猫又さんたちに揉みくちゃにされる私に、通りすがった篠崎さんが呆れた風にツッコミを入れる。

「……」
「ん? 楓、どうした」
「なんでもないです」

 美女猫集団に囲まれた地味で平凡な自分が普段より余計に野暮ったく感じて、私は篠崎さんの顔がうまく見られない。
 その時ちょうど送迎タクシーが着いたとの連絡が入ったので、私は雌猫又さんたちと一緒にエレベーターを降り、彼女たち一人一人を車まで見送った。
 最後に、夜間保育園までママさんたちとワゴン車でぎゅうぎゅうになりながら向かう。

「ママー!」
「ママおかえりー!」

 子猫姿の子から幼児姿の子まで、待ち侘びたママの姿を見て、もふもふっと一目散に飛び出してくる。飛びつく子猫たちを、美女は母猫の顔をして抱きしめる。

「元気にしてたー?」
「うん! 夜しゃんと剣術ごっこしてた!」
「剣術ごっこー?」
「夜しゃん昔武士の猫だったんだって! すごかった! ぶしどーはしぬこととみつけたり!」
「葉隠じゃーん、何教えられてんだよ~このこの」
「意味はわかんない!」
「本気になりゃなんだって思いつくし勝てるっしょって意味だわ~」
「そうなんだ~」

 賑やかな様子から目を園舎の方へと向けると、可愛いエプロンを着せられた夜さんが、手のひらサイズの子猫を両手にたくさん抱えて出てきたところだった。

「にゃー! お姉さんだれー」
「にゃーママと一緒に働いてたのー?」
「にゃあにゃあ」

 手のひらサイズの子猫なのに尻尾は二本、甲高い人間の言葉で話しかけてくる子猫ちゃんたち。
 夜さんは手のひらからこぼれようとするのを捕まえたり、頭によじ登ろうとするのを落とさないようにしたりと大変そうだ。

「お疲れさま、夜さん」
「楓殿も」
「……こんなに疲れてる夜さん、初めて見た」

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