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中洲編

中洲の夜に輝く、猫又さんたち。

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 翌日。
 通り魔巫女の件については朝礼でも共有された。

 私は通常通り業務を済ませ、定時で上がって帰宅し、一旦シャワーを浴びて改めて外に出た。
 アパートの外には見慣れた社用車が停まっていて、運転席には先ほど別れたばかりの篠崎さんがいた。

 いつもより明るめのスーツに長い髪をローテールで括った、ふわふわもふもふのお狐さま。
 極上のふかふか毛並みはちょっと初夏には暑苦しいけれど、今日も相変わらずに可愛い。

「お疲れ様です」

 車に乗り込むと篠崎さんはエンジンをかけ、運転をしながら私に詫びた。

「悪いな、楓」
「いいんです。お役に立ちたいので」

 篠崎さんは車を渡辺通りへと出し、混雑した道を上手に迂回しながら昭和通りの方へと向かう。

「歩いたほうが早いんじゃないですか?」
「車の中じゃねえと話せない話もあるだろ」
「確かに。でも春吉(ここ)からなら屋台とかあるキャ○ル側に抜けた方が速くないですか?」
「ちょっとお前にはから遠回りする」
「えっどういうことですか」
「……」
「無視!?」

 篠崎さんは無視を決め込んできたので、私は諦めて窓の外を眺めた。
 老若男女が入り乱れる賑やかな天神を混雑した車の流れに乗ってゆったりと通り過ぎる。

 昭和通しょうわどおりに入ってレトロな風情の赤煉瓦文化館あかれんがぶんかかんを右手に見送ると、那珂川に掛かる西中島橋にしなかじまばしへと差し掛かった。

 夏至が近い天神は空が赤紫色に明るくて、繁華街のネオンが水面に輝いて宝石箱をひっくり返したみたいだ。高く登った満月も、まるで夜空を彩る装飾のよう。

 中洲に近づいていくと車道に占めるタクシー率が増え、歩道を歩く人の雰囲気も変わっていく。
 夜の街に繰り出す人々、そして煌びやかな薄着のお姉さん。

 これから私たちは中洲に行く。そしてーー
 そう。私は今夜、ホステスデビューをしてしまうのだ!!! コスプレだけだけど。

「……はあ」

 隣で篠崎さんが溜息を吐く。

「こいつ絶対無理だって……」
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