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糸島編
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「そうなのですね」
私は雫紅さんへと向き直り、改めて挨拶をした。
「改めまして、私は菊井と申します。清音さんのご紹介と言うことで、これからお仕事探しのお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「よろしく……お願いします……」
鈴のような声で、雫紅さんは深々と頭を下げた。
椅子に座った彼女の隣に、清音さんも座る。まず私は気を楽にしてもらおうと思い、彼女の話を引き出すことにした。
「まずはカウンセリング……雫紅さんのお名前やこれまでのご経験、ご希望などをお伺いいたします。とは言ってもざっくりとしたお話で大丈夫なので、お分かりになる範囲で教えてください」
「は、はい」
「今、具体的に、ここに住みたいとか、こんなお仕事がしたい、と言ったご要望はお決まりですか?」
私は噛み砕いて説明することを意識した。
「いえ、私は……私ができるお仕事があるならば……なんでもいいです……」
「なるほどですね。場所は糸島で?それとも、福岡市内とか」
「糸島は……出たいです……。少し離れて、暮らしたくて。福岡市内がいいかなと思ってます」
全くなるほどではないけれど、まずは話を聞き出すことが目的だ。
「普段から糸島で人間と接していらっしゃる雫紅さんでしたら、お仕事も幅広くご案内できます。何せ『人間は食べるもの』ってのから始まる方もいらっしゃるので」
「えー、そんなあやかしでも大丈夫なの」
隣で清音さんが口を挟む。私は微笑んで頷いた。
「それが意外とうまく行くんです。ご自身と人間が別の生き物であり、同じ感覚を共有していないとご理解いただいていますので。その方は割り切って、人間界で働くあやかし向けの施設でご就職いただいております」
これは事前に研修の中で、篠崎さんから、あやかし就職のいろんな事例を教えてもらっていたおかげだ。
積極的な清音さんと違い、雫紅さんは人間に慣れていない内向的な方だ。そんな彼女でも「そんなあやかしでも働けるのね」、とハードルを低く感じていただくところから切り込んでみている。
緊張していた彼女の瞳が、ほんのわずか安堵に緩んだ気配がする。私は微笑みながら、聞き取りを続けた。
「お仕事の話は抜きにしたとして……雫紅さんは街に行って、何がしたいなって言うのはありますか? 天神でショッピングしたいとか、映画を見たいとか、陸地で散歩したいとか。海とは真逆の、山に行きたいとか」
「……それは……その……」
言葉につまる彼女。清音さんは隣で笑顔で励ます。
「大丈夫よ。なんでも相談してみなくちゃ」
「私は……ただ……働いてみたい、だけで……その……」
「かしこまりました! じゃあ、明日の職場見学は、天神見物もかねて……色々回ってみましょうか」
「見物、ですか……?」
きょとんとする雫紅さんに、私はにっこりと笑う。
「はい。実際に色々たくさん目にすることで、街で暮らす想像も固まっていくと思うんです。興味があるものいっぱいみて、美味しいもの食べましょう!」
「で、でも……」
「いいじゃない! 行っていらっしゃいよ」
清音さんが背中を押してくれる。彼女はおろおろとした。
「でも……いいんですか……すぐお仕事決めないとご迷惑なんじゃ……」
「とんでもないです! ご納得の行くご縁を結ぶのが私たちの仕事ですので。福岡市内に出てみて『やっぱり今回は……』というのでも構いません」
「そう……ですか……? じゃあ、よろしくお願いします……」
雫紅さんがためらいがちに頷いてくれたので、私はひとまずほっとする。
まずは地元から離れて、気を楽にして話せる時間を作りたいと思う。
もしかして彼女は。清音さんーー身内の前で言いにくい、『外で働きたい』事情があるのではないのかと思ったからだ。
私は雫紅さんへと向き直り、改めて挨拶をした。
「改めまして、私は菊井と申します。清音さんのご紹介と言うことで、これからお仕事探しのお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「よろしく……お願いします……」
鈴のような声で、雫紅さんは深々と頭を下げた。
椅子に座った彼女の隣に、清音さんも座る。まず私は気を楽にしてもらおうと思い、彼女の話を引き出すことにした。
「まずはカウンセリング……雫紅さんのお名前やこれまでのご経験、ご希望などをお伺いいたします。とは言ってもざっくりとしたお話で大丈夫なので、お分かりになる範囲で教えてください」
「は、はい」
「今、具体的に、ここに住みたいとか、こんなお仕事がしたい、と言ったご要望はお決まりですか?」
私は噛み砕いて説明することを意識した。
「いえ、私は……私ができるお仕事があるならば……なんでもいいです……」
「なるほどですね。場所は糸島で?それとも、福岡市内とか」
「糸島は……出たいです……。少し離れて、暮らしたくて。福岡市内がいいかなと思ってます」
全くなるほどではないけれど、まずは話を聞き出すことが目的だ。
「普段から糸島で人間と接していらっしゃる雫紅さんでしたら、お仕事も幅広くご案内できます。何せ『人間は食べるもの』ってのから始まる方もいらっしゃるので」
「えー、そんなあやかしでも大丈夫なの」
隣で清音さんが口を挟む。私は微笑んで頷いた。
「それが意外とうまく行くんです。ご自身と人間が別の生き物であり、同じ感覚を共有していないとご理解いただいていますので。その方は割り切って、人間界で働くあやかし向けの施設でご就職いただいております」
これは事前に研修の中で、篠崎さんから、あやかし就職のいろんな事例を教えてもらっていたおかげだ。
積極的な清音さんと違い、雫紅さんは人間に慣れていない内向的な方だ。そんな彼女でも「そんなあやかしでも働けるのね」、とハードルを低く感じていただくところから切り込んでみている。
緊張していた彼女の瞳が、ほんのわずか安堵に緩んだ気配がする。私は微笑みながら、聞き取りを続けた。
「お仕事の話は抜きにしたとして……雫紅さんは街に行って、何がしたいなって言うのはありますか? 天神でショッピングしたいとか、映画を見たいとか、陸地で散歩したいとか。海とは真逆の、山に行きたいとか」
「……それは……その……」
言葉につまる彼女。清音さんは隣で笑顔で励ます。
「大丈夫よ。なんでも相談してみなくちゃ」
「私は……ただ……働いてみたい、だけで……その……」
「かしこまりました! じゃあ、明日の職場見学は、天神見物もかねて……色々回ってみましょうか」
「見物、ですか……?」
きょとんとする雫紅さんに、私はにっこりと笑う。
「はい。実際に色々たくさん目にすることで、街で暮らす想像も固まっていくと思うんです。興味があるものいっぱいみて、美味しいもの食べましょう!」
「で、でも……」
「いいじゃない! 行っていらっしゃいよ」
清音さんが背中を押してくれる。彼女はおろおろとした。
「でも……いいんですか……すぐお仕事決めないとご迷惑なんじゃ……」
「とんでもないです! ご納得の行くご縁を結ぶのが私たちの仕事ですので。福岡市内に出てみて『やっぱり今回は……』というのでも構いません」
「そう……ですか……? じゃあ、よろしくお願いします……」
雫紅さんがためらいがちに頷いてくれたので、私はひとまずほっとする。
まずは地元から離れて、気を楽にして話せる時間を作りたいと思う。
もしかして彼女は。清音さんーー身内の前で言いにくい、『外で働きたい』事情があるのではないのかと思ったからだ。
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