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天神編
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「え、あ……あー、お金がないのでちょっと……」
ぽかんとする私に、彼はとにかく押し付けようとする。
「金はいらない。この腕輪で幸せになる。まずは手に取って欲しい」
「ええ……」
「転職してどんどん金を稼いで、人脈が広がって独立なんてできたら人間は幸せなのだろう?」
「いや、私は普通に転職したいだけ、なんですが……」
「これから短い人生のなかで、今勇気を出して投資しなかったら後悔する」
「あの、私の話聞いて……」
「最近の女性はツガイを見つけて繁殖も難しいという。そんな人生を、今なら腕輪で変えられる。お勧めする」
「あ、ああああの…!?」
ツガイって!? ツガイって何!?
というか、私全く結婚の話とかしてないんだけど。
結婚願望がないわけじゃない。お金だってそりゃあ、あったら安心だ。
けれど私はただ、平凡に生きたいだけ。変わっているとか、目立つとかは嫌だ。
それなのに……それすら手に入らないから、悩んでいるだけなのに……
「『井の中の蛙大海を知らず』と古来より言う。まずは挑戦だ」
「話聞いてください……」
占い師はずい、と腕輪を見せてくる。
その眼力に飲み込まれてしまいそうだ。
菊井楓、井の中の蛙どころか、まさに蛇に睨まれた蛙であります。
「うう……」
私は彼の眼力から逃れようと視線を逸らす。
ーーその時。
私たちのところに向かって、狐色の長髪が目立つ男性が近づいてきた。
駆け出さんばかりの勢いの早足で一直線にやってくる彼は、パリッとした淡い色のスーツを纏ったとんでもない美形だ。
肩を滑るさらさらの綺麗な狐色の髪。
鼻筋が通って鋭い眼差しは女性的な艶っぽささえ感じるほどに美しく、美男子と美女の良い所を全て盛り込みました、といった美貌の男性だ。
画像加工ソフトを駆使しても、こんな美男子は作れないだろう。
はー。天神に出るとこんな人もいるんだー……。
人ごとのようにボーッと眺めていると、本当に彼は私の目の前までやってきた。
肩で息を切らし、怖い顔をして私を見下ろしている。
「………見つけた……」
「え、あ……あの……?」
彼の瞳はきらきらとした琥珀色をしていた。クッキリとした二重のアーモンドアイは私を凝視して、信じられないと言った様子で立ち尽くしている。
「あ、あの……どこかでお会いしましたっけ……」
私は気圧されながら必死で考える。
どこかの面接で面接官だっただろうか。面接を受けた会社の人事の方だったっけ。
でもこんな綺麗な人、一般社会でお会いしたことはない。
「申し訳ありません、私……あの……思い出せなくて……」
「ーーそうか」
美形のお兄さんはそう静かに呟き、深くため息をつく。頭の上にピンと立った耳をへにゃりと伏せて、ぶわっと広がってた尻尾を細くして、お兄さんは何かとてもがっかりした様子だった。
誰か人を探していたのだろうか。それなら、人違いでがっかりさせてなんだか申し訳ないなーー
「え?」
私はハッとして彼を二度見する。
耳? 尻尾???
お兄さんの頭からは確かに、つんと尖った大きな耳が。そして細身に仕立てたスーツのセンターベンツからは、大きなキツネの尻尾が生えていた。
ぽかんとする私に、彼はとにかく押し付けようとする。
「金はいらない。この腕輪で幸せになる。まずは手に取って欲しい」
「ええ……」
「転職してどんどん金を稼いで、人脈が広がって独立なんてできたら人間は幸せなのだろう?」
「いや、私は普通に転職したいだけ、なんですが……」
「これから短い人生のなかで、今勇気を出して投資しなかったら後悔する」
「あの、私の話聞いて……」
「最近の女性はツガイを見つけて繁殖も難しいという。そんな人生を、今なら腕輪で変えられる。お勧めする」
「あ、ああああの…!?」
ツガイって!? ツガイって何!?
というか、私全く結婚の話とかしてないんだけど。
結婚願望がないわけじゃない。お金だってそりゃあ、あったら安心だ。
けれど私はただ、平凡に生きたいだけ。変わっているとか、目立つとかは嫌だ。
それなのに……それすら手に入らないから、悩んでいるだけなのに……
「『井の中の蛙大海を知らず』と古来より言う。まずは挑戦だ」
「話聞いてください……」
占い師はずい、と腕輪を見せてくる。
その眼力に飲み込まれてしまいそうだ。
菊井楓、井の中の蛙どころか、まさに蛇に睨まれた蛙であります。
「うう……」
私は彼の眼力から逃れようと視線を逸らす。
ーーその時。
私たちのところに向かって、狐色の長髪が目立つ男性が近づいてきた。
駆け出さんばかりの勢いの早足で一直線にやってくる彼は、パリッとした淡い色のスーツを纏ったとんでもない美形だ。
肩を滑るさらさらの綺麗な狐色の髪。
鼻筋が通って鋭い眼差しは女性的な艶っぽささえ感じるほどに美しく、美男子と美女の良い所を全て盛り込みました、といった美貌の男性だ。
画像加工ソフトを駆使しても、こんな美男子は作れないだろう。
はー。天神に出るとこんな人もいるんだー……。
人ごとのようにボーッと眺めていると、本当に彼は私の目の前までやってきた。
肩で息を切らし、怖い顔をして私を見下ろしている。
「………見つけた……」
「え、あ……あの……?」
彼の瞳はきらきらとした琥珀色をしていた。クッキリとした二重のアーモンドアイは私を凝視して、信じられないと言った様子で立ち尽くしている。
「あ、あの……どこかでお会いしましたっけ……」
私は気圧されながら必死で考える。
どこかの面接で面接官だっただろうか。面接を受けた会社の人事の方だったっけ。
でもこんな綺麗な人、一般社会でお会いしたことはない。
「申し訳ありません、私……あの……思い出せなくて……」
「ーーそうか」
美形のお兄さんはそう静かに呟き、深くため息をつく。頭の上にピンと立った耳をへにゃりと伏せて、ぶわっと広がってた尻尾を細くして、お兄さんは何かとてもがっかりした様子だった。
誰か人を探していたのだろうか。それなら、人違いでがっかりさせてなんだか申し訳ないなーー
「え?」
私はハッとして彼を二度見する。
耳? 尻尾???
お兄さんの頭からは確かに、つんと尖った大きな耳が。そして細身に仕立てたスーツのセンターベンツからは、大きなキツネの尻尾が生えていた。
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