死ぬために向かった隣国で一途な王弟に溺愛されています

まえばる蒔乃

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 剣を払って私を見やる。冷たい眼差しをしていた。ぞくりと震える。

「お怪我は?」
「……大丈夫、です……」

 彼は私に手を差し伸べる。手を取ろうとして、私は自分の手ががたがたと震えているのに気付いた。
 怯えた私に気付いたのだろう。レイナード殿下は手を引っ込め、悲しげにふっと微笑む。

「申し訳ありません。……僕はこういう男なんです。手加減などしない。暗殺者も襲撃者も、全て剣で切り伏せる」
「……」

 仕事なのだから、当たり前です。
 守ってくれてありがとう。

 そんな言葉が出ない。体が震えて、言葉にならない声しか出ない。
 彼は侍女に命じる。

「彼女を安全な場所へ送れ。……今夜は僕は行かない。代わりの護衛騎士を送る」
「かしこまりました」

 侍女たちが深く頭を下げる。
 彼は私に背を向け、歩き去ろうとする。

 ――私は、最後にビリーと別れたときを思い出す。
 私はビリーを安全な場所に送るのに必死で、別れの言葉も上手く紡げなかった。
 そんな私に、ビリーだった頃の彼は言ったのだ。いつか僕が、かならず助けてあげると。
 そして先日だって、私は彼に何も言えなかった。
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