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 国王陛下からの使いが来たのは、レイナード殿下が不在の午後のことだった。
 私は侍女を通じて受け取った命令を聞いて青ざめる。
 けれどいつまでも温室のように穏やかな場所にだけいられるわけでは無いことはわかっていた。

 私は覚悟を決め、身支度を整えて貰って謁見の為に部屋を出る。
 案内する騎士が告げた。

「正式な謁見の間ではなく秘密会談に用いる間に案内いたします」
「承知いたしました」

 廊下を幾度も折れ、たどり着いた先の部屋。
 両開きの扉には魔術が刻まれている。おそらく、防音が施されている。
 うながされるままに私は歩を進めた。
 部屋には重厚なテーブルセットが置かれ、その一番奥に男の人が座っていた。
 中で待っていたのは意外な人物だった。見覚えがある。

「……久しぶりだな」

 彼の方から私に声をかけてきた。
 呆けてしまいそうになったので、急いで深くお辞儀をする。
 頭を下げながら深呼吸をした。心臓が混乱で早鐘を打つ。
 豊かな黒髪を後ろに撫でつけた、凜々しい眉と強い眼差し。意志の強いはっきりとした語調に、厚い唇。

 ――それは、私の記憶の中では王太子殿下だった。
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