死ぬために向かった隣国で一途な王弟に溺愛されています

まえばる蒔乃

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 目の前のレイナード殿下も、口元を覆って視線を上に向けていた。
 耳が赤い。彼もまた、決まり悪そうな様子だった。

「いえ、ありがとうございます。……嬉しかった、です」
「すみません……」
「いえ、僕こそ……感情的になって……」
「いえ……」
「い行きましょうか」
「ええ……」

 二人でちょっと笑い合う。そして彼はエスコートのために腕を差し出してくれた。
 私はぎこちなく手を添え、二人で黙って城に戻った。
 彼のエスコートで歩く沈黙の時間は、居心地の良い時間だった。
 少しずつ、大切にされるのになれ始めている自分がいるのに気付く。

 自分が変わっていくのが、怖い。
 人とほほえみ合う自分の変化に、まだ戸惑っている。
 いつまでこの幸せが続くのかは分からないけれど――でも、今だけでも、この時間を楽しみたいと思う。

 ひまわり畑を出ると、ひまわりの大きな影が途切れ、殿下の姿が白日の下にさらされる。
 ふと思う。明るいところで彼の服を見るのは初めてだった。

 偶然目を向けた瞬間、彼のジャケットの胸元から何かタイピンが覗いた。黒っぽいものだ。
 何かを封入したブローチのようなタイピン。
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