夫の弟は昔から私のことが好きだったようで、私への溺愛が止まりません。

海瀬

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死の知らせ

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「おはようございます奥様。」



「ん……サラン?  今何時かしら?」



「11時でございます。お疲れのようでしたので遅めに起こさせていただきました。」



「そう……ありがとう。」



昨日夫は部屋には来なかった。だから、いつもより疲れたという訳でもない。だが、今までの疲労がたまっていたのだろう。昨日は夜中まで待っていた。今日こそ来てくれるのだろう、と。



(やっぱり私を抱く気はないのね。)



そんな時だった。ノアが家に訪ねてきたのは。



「え、イアンが亡くなった……?」



突然のことに驚きを隠せなかった。昨日の夜、怒鳴りに来ていた平民の元へ向かったそうだ。子供が出来たという嘘の手紙を貰って。昨日の時点で少し体調が悪かったようだが、環境の整っていない平民の家で悪化したのだろう。私も移っているといけないからとノアから薬を渡された。自業自得、だと思う。でも、不思議と涙が止まらなかった。心のどこかでまだ恋心が残っていたのだろう。自分自身が気づかない程、心の奥に。



「シャル……」



ノアは私が泣き止むまで抱きしめてくれた。人前で泣いたのは幼少期以来で少し気恥ずかしかったが。イアンの前で泣いたことなんて1度もなかった。でも、なぜかノアの前では泣けるのだ。その時のことだ。



外からまた怒鳴り声が聞こえる。きっと昨日の平民だろう。



「シャル、行かなくていい。」



ノアはなぜか懇願するような目で私を見つめる。私をあの人に会わせたくないのかしら。



「大丈夫よ。少しお話するだけだから。」



それなら……と離してくれた。ノアは私の髪の毛を一房つかみ音を立ててキスをした。



「なっ!  何をして……」



「俺は仕事に戻るが何かあったら言ってくれ。いつでも来る。」



私が返事をする間もなく、帰ってしまった。私はノアに嫌われているんじゃなかったの……?
髪の毛にキスをする意味は『思慕』。もしかして、私のことを?  

少し考えてそんなわけないわね、と首を振る。早く平民の元へ行かないと。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「遅いわよ!  イアンが払ってくれるって言ってた借金のお金を受け取りに来たわ。」



借金?  そんなもの私には関係の無いことだ。もし、
この人がイアンと約束していたとしても渡すお金など1円たりともない。イアンの葬式もあげないといけないし、お金には余裕をもっておきたい。……私は未亡人となるのだから。適齢期は過ぎているため、結婚してくれる男性はいないだろう。いても、余程の物好きだと思う。



「あなたに渡すお金はありません。お帰りになってください。」



それに、この人イアンのことが好きだったんじゃないの?それにしては落ち込んでいないように見えるけど。



「はぁ?  イアンが死んだんだからお金入ってきてるでしょ?  イアンは死んだし、次はイアンの弟に頼もうかしら。」



「ダメよ! ……ノアは関係ないでしょう。自分のお金で借金は返済してください。」



ノアまで女性に振り回されるのは私が防がないといけない。きっと、いらないお世話だと鼻で笑われるかもしれないが。



「もういいわ。あ、葬式には呼んでね? 一応付き合ってたんだから。」



呼ぶわけないだろう。そんな堂々と愛人を呼ぶ夫人がどこにいる。付き合ってたと言ってもイアンからすれば彼女は遊びだったに違いない。



「あ、最後に。これみて、イアンに貰ったの。綺麗でしょう?」



「っ!」



それは、私と結婚した時にプレゼントしてくれたブレスレットだ。私の赤い瞳に合わせて大きなルビーがはまっている。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


22時にもう1つ投稿します。

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