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二十二話 何がおかしかったんだろう

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「な、なにを……」
「そう言いたいのはこちらのほうだ。落ちるのならば、最初から登るな!」

 落ちた。たしかに落ちた。間違いなく落ちた。だけど今私は、ルーファス陛下に抱えられている。
 つまり、ルーファス陛下が受け止めてくれた、ということだろう。

「あ、ありがとうございます……?」
「……礼はいらん」

 肌と外気を隔てるのは肌着一枚だけ。触れている手の温かさやらが伝わってきて、どうにも落ち着かない。
 しかもルーファス陛下は不機嫌な顔をしているのに、こちらを真っ直ぐ見ている。
 落ち着かないことだらけだ。

「あの、降ろしてくれますか?」
「……降ろしたら、お前は何をするつもりだ」
「花を……愛でに」

 間違ってはいない。色々調べるのも、愛でるうちに入るだろう。

「…………また勝手なことをされてはかなわん。部屋に運んでやるから、おとなしくしていろ」

 少々言いよどんだのを嘘だと思われたのかもしれない。ルーファス陛下は私を降ろすことなく――むしろ抱え直して――歩き出してしまった。

 途中すれ違った侍女に、ルーファス陛下がドレスを持ってくるように指示を出して、私を抱えたまま廊下を突き進んでいく。
 そうしてたどり着いたのは、昨日もお邪魔した執務室だった。

 たしかに部屋だ。部屋は部屋だけど、ここは違うのではないだろうか。

「あの、私の部屋ではないんですか?」
「一人にしておけば、またおかしなことをしでかすかもしれないからな」

 ソファの上に降ろされて、ルーファス陛下は執務室に向かってしまった。
 カリカリとペンが書類の上を走る音だけが聞こえる。思わず遠い目をしていると、侍女が私のドレスを持ってきてくれた。

「ここで着替えろ」

 書類から顔を上げずに言うルーファス陛下に、侍女の顔色が蒼白に変わる。
 殿方の前での着替えなんてはしたない、とでも思っているのかもしれない。だけど逆らえば首が飛ぶかもしれないから、困惑と恐怖の狭間で悩んでいるのだろう。

「大丈夫ですよ。私の恰好を見ればわかると思いますが、すでに手遅れです」

 なにしろすでに肌着一枚だ。
 安心させるために行った台詞で、何故か侍女の顔色が今度は赤に変わる。

「お前は……もう少し違う言い方はなかったのか……」

 そして、ルーファス陛下が苦虫を噛み潰したかのような顔で、唸るように言った。

 おかし、何も間違ったことは言っていないはずだ。
 なにしろすでに肌着一枚。着替えを見られようと、ただ上に服を着るだけの作業でしかない。
 脱ぐのならともかく、この恰好でいる時点で、はしたないとか恥ずかしいとか思うタイミングは通りすぎている。
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