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41.依頼2
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ふわりと浮いている感覚がして、消える。次の瞬間には転移石がいくつも並んでいる塔の一室から、転移石がひとつしか置かれていない部屋に視界が切り替わる。
石造りの部屋の中に、転移石が保管された台座がひとつ。それ以外は何もない簡素な部屋だけど、広さはそれなりにある。
基本的に派遣される魔術師は一人だけど、いつ何か起きるかわからないのである程度の人数が収容できるように考えた結果、こうなった。
そして室内には転移してきたばかりの私とノエルだけでなく、見慣れた顔があった。
つい先日見たばかりの顔。私とノエルを見て、はっとしたように目を見開いてから気まずそうに少しだけ視線を逸らした。
「この度は、依頼に応じてくださりありがとうございます」
「そうですね。それでは状況を細かく教えてください」
深々と頭を下げるお父様にノエルが事務的に応える。
お父様は曰く、報告が来てすぐ領地に戻ったそうだ。依頼までに時間がかかったのは、規模がどのぐらいなのか、対処できる範囲なのか調べてたから。アニエスが。
「ご存じとは思いますが、娘のアニエスは魔術の扱いが巧みで、魔力も申し分ないため、そこらの魔物ぐらいならこちらで対処できるかと思っていたのですが……」
言葉を濁すところを見ると、うまくいかなかったのだろう。それは依頼してきたことからもわかる。
分裂型の魔物は非常に厄介なので、すぐに魔術師に依頼するのが一般的だ。数が増えすぎると、それだけ依頼料が高額になる。
「存じてはいませんが、分裂型の魔物は対処が困難なので今度からは増えすぎる前に依頼するようにしてください」
冷たくとも取れる淡々とした声に、お父様の視線が床に落ちる。
「それは……アニエスが、自分ならできるからと、そう言ったので――」
「判断するのも責を負うのも領主の役目です。まあ、僕には関係のないことなのでどうでもいいですが……魔物が今はどこに生息しているのかはわかりますか?」
「は、はい。それは、もちろん」
「それでは案内してください」
こちらに、と先を歩くお父様。たまにこちらを気にするようにちらちらと視線を送ってきてはいるけど、何も言わない。
今は領主として魔術師の相手をしているから、私的な感情や言動は控えているのだろう。
だから私も、何も言うことなく魔術師の弟子に徹することにしよう。
石造りの部屋の中に、転移石が保管された台座がひとつ。それ以外は何もない簡素な部屋だけど、広さはそれなりにある。
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つい先日見たばかりの顔。私とノエルを見て、はっとしたように目を見開いてから気まずそうに少しだけ視線を逸らした。
「この度は、依頼に応じてくださりありがとうございます」
「そうですね。それでは状況を細かく教えてください」
深々と頭を下げるお父様にノエルが事務的に応える。
お父様は曰く、報告が来てすぐ領地に戻ったそうだ。依頼までに時間がかかったのは、規模がどのぐらいなのか、対処できる範囲なのか調べてたから。アニエスが。
「ご存じとは思いますが、娘のアニエスは魔術の扱いが巧みで、魔力も申し分ないため、そこらの魔物ぐらいならこちらで対処できるかと思っていたのですが……」
言葉を濁すところを見ると、うまくいかなかったのだろう。それは依頼してきたことからもわかる。
分裂型の魔物は非常に厄介なので、すぐに魔術師に依頼するのが一般的だ。数が増えすぎると、それだけ依頼料が高額になる。
「存じてはいませんが、分裂型の魔物は対処が困難なので今度からは増えすぎる前に依頼するようにしてください」
冷たくとも取れる淡々とした声に、お父様の視線が床に落ちる。
「それは……アニエスが、自分ならできるからと、そう言ったので――」
「判断するのも責を負うのも領主の役目です。まあ、僕には関係のないことなのでどうでもいいですが……魔物が今はどこに生息しているのかはわかりますか?」
「は、はい。それは、もちろん」
「それでは案内してください」
こちらに、と先を歩くお父様。たまにこちらを気にするようにちらちらと視線を送ってきてはいるけど、何も言わない。
今は領主として魔術師の相手をしているから、私的な感情や言動は控えているのだろう。
だから私も、何も言うことなく魔術師の弟子に徹することにしよう。
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