なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優

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17.彼の真意2

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 ノエルは小さく息を吐くと、真っ直ぐに私を見据えた。
 先ほどまで感じていた息苦しさはいつの間にか消えている。それは、水色の瞳の奥に、何故か力強い意思を感じたからかもしれない。

「先ほども言いましたが、僕があなたとのお付き合いを受け入れたのは、運よくこの手に転がり込んできたからに過ぎません」
「先ほど、というのは……?」
「以前からあなたを慕っていたという話ですよ」

 そういえば、そんなことをアニエスに言っていた。
 古代魚の討伐がミュラトール領で行われたという話から発想を得ただけの、口からでまかせだと思っていた。
 だけどもしもあれが真実なら、おかしな点がある。ノエルは昨日、古代魚をどこで討伐したのか覚えていなかった。

「……どこで討伐したか、意識していなかったと言ってませんでしたか?」
「僕が意識したのはあなたでしたから。あなたがいる場所に古代魚がいたから討伐しただけです」
「え、ええと……それは、つまり……?」
「慕っている相手に危険が及ぶ可能性があったから排除しただけだということです」

 はっきりきっぱりと言い切られ、思わずたじろぐ。
 いやだって、そんな素振りはいっさいなかった。そもそも、最初に提案した時は保留されたし、その後も本気かどうか確認され――

 ああ、そうか。本気かどうかわからなかったから、保留したのか。
 ノエルは気が乗らないのなら、わざわざ保留したりしない。即座に棄却する。そんな人だ。

 今さらながらにあの時の言動の意図がわかり、頭を抱えそうになる。
 だけど、抱えることはできなかった。膝の上に置いていた手を、ノエルに握られたから。

「ようやく手に入れたのですから、わずらわしいことでもなんでも、あなたに付属しているのなら歓迎します」

 対面に座るノエルが、前のめりに私の顔を覗きこむ。水面はしんと静まりかえり、声にも抑揚はない。
 あいかわらずのノエルの顔が、そこにある。

「僕はあなたの提案を受け入れましたし、今さら撤回するつもりもありません。だからあなたも、僕がつけた条件を遵守してください。真意はどうあれ、愛ある恋人を演じ続けていただきます」

 言動と表情の熱量に差がありすぎて、「え、あ、はい」ととぼけた答えを返してしまった。
 だけどそれでも、ノエルはひとつ頷くと手を離し、元の位置に戻った。

 多分、満足のいく回答だったのだろう。表情が変わらなさすぎて、よくわからないが。
 
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