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(元)イキリ魔王の逃亡計画/転生物・総受け

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…2日後。

体調が回復したオスカーがまず最初に行ったのは、兄と幼なじみ両名との接触を避けることだった。

ーードタドタッ

「おはよう!…もっもっ……ご馳走様!」

バタンっ!

「あ、オスカーおはよ……オスカー!?」

朝一番にリビングへと向かい、朝食のパンを頬張りながら即座に家を出る。

これにより毎朝のアレスの来訪を避け、更には兄ノエルとの接触を最低限に留めることが出来た。

(将来的に街を出ることは…兄貴はもちろんアレスにも知られたくない。というか、知られたらおしまいだ。……でも……)

まだ日の昇ったばかりの街中を早歩きで進みながらオスカーはその眉間にシワを寄せる。

『街を出る』とは決めたものの、具体的に『街を出て何をするか』を全く決めていなかったからだ。

(…この際具体的なあれこれは後でいい。今は……)

そして苦悩するオスカーがたどり着いたのは、今の職場でもある『魔法屋』。
本来の勤務時間よりはかなり早いが、オスカーは小さく息を吐くとやや緊張した面持ちで裏口をノックした。

ーーコンコン

「……婆ちゃん。いる?おれ、オスカーだけど…」

恐る恐る声をかければ、小さな足音の後に軋んだ音を立てて木製のドアが開かれる。

そこに立っていたのは黒い三角帽、同じく黒いローブという古来ゆかしき魔女の装束に身を包んだ齢60ほどの老女。
彼女こそ『(自称)古の大魔女・モルガン』であり、この魔法屋の女主人だった。

「おやおや、オスカー。いつもよりまだ1時間以上も早いじゃないか」
「ごめん、ちょっと事情があって……」
「……とりあえず中に入りな。茶ぐらい用意してやるよ」

神妙な面持ちのオスカーを見据え、そっと目を細めたモルガンはくるりと背を向け、裏口のドアを開けたままゆっくりとキッチンへ向かう。
その背を見てぽかんとした表情を浮かべたオスカーだが、直ぐにハッとして家屋の中へと入っていった。

………………

………

「…ほら、飲みな」
「あ、ありがとう婆ちゃん…」

オスカーは差し出されたマグカップを両手で受け取り、軽く息をふきかけてから中身…赤紫色をした謎の液体をそっと口にする。

(このヤバそうな色したモルガン婆ちゃんの謎茶、見た目はアレだけど不思議と美味しいんだよな……)

無言で謎茶を飲むオスカーを尻目に、モルガンは向かいの椅子に腰掛けると小さく息を吐いてから重々しく口を開いた。

「…それで、何があったんだい?」
「いや、その…大したことじゃないんだけど…俺、15になったら街を出ようと思ってて」

『魔王の記憶』の事は話さず、あくまでも将来の相談としてオスカーは悩みを打ち明ける。

「でも街を出て具体的に何をするってのは全く決まってなくて…だから俺、婆ちゃんに色々教えて貰いたいんだ」
「計画性が無いねぇ…しかも『色々教えてほしい』って、幅が広すぎじゃないかい?」
「うっ……」

具体性の無い相談内容に、モルガンは当然のようにため息混じりで苦言を呈する。
オスカーもそれを自覚しているのかバツの悪い表情で視線をそらしてしまう。

「……でもまぁ、アンタがそういうなら余程の事情があるんだろうよ」

しばしの沈黙の後、モルガンはそう呟くとゆっくりと椅子から立ち上がる。

「婆ちゃん…?」
「それ飲んだら奥の部屋に来な。…今日からアンタは私の弟子だ。何処に行ってもやっていけるように、魔法・調合・錬金…時間の許す限りとにかく仕込んでやる」
「あ…う、うん!」

そしてオスカーは急いで謎茶を飲み干すとモルガン…改め『師匠』の背中を追う。


この日からオスカーは魔法屋での仕事もこなしつつ、開店前と閉店後の時間を利用して本格的な修行を行うことになった。
それに伴い家にいる時間は減り、兄ノエルと幼なじみアレス両名との接触を更に減らすこととなる。

特に幼なじみのアレスとは顔を合わせる機会が一気に減り、顔を合わせるのは週に一度程度…オスカーが魔法屋のお使いとしてアレスの働く鍛冶屋に行く時だけになっていた。



「……あ~、平和って素晴らしい!」

魔法屋での修行が始まって約3週間。

オスカーは修行の厳しさ以上に、兄と幼なじみとの接触が減ったことに心の平穏を感じていた。

(婆ちゃんスパルタだからちょっとキツいけど…疲れて帰る分兄貴に必要以上絡まれないし、この時間ならアレスはもう自分の家に帰って……)

魔法屋を出て徒歩5分。
上機嫌で曲がり角を曲がったオスカーの足が不意に止まる。

その視線の先には…夜闇に立ち尽くし、表情の見えない様子のの姿があった。

「あ、アレス…?」
「…………オスカー…」

アレスはぽつりとオスカーの名を呼ぶと、そのままフラフラと歩み寄る。
ようやく表情が見える距離まで接近したかと思えば、その顔は何故か『怒り』に満ちているようだった。

「な、なんだよ。わざわざ待ち伏せしてたのか?」

いつも明るく、人の良い笑みを浮かべているアレス。
そんな幼なじみの見たことの無い顔にオスカーは何故か本能的な恐怖を感じてしまう。

(お、怒ってる?なんでだ?……いや、それよりもこの…俺は、これを知ってる…?)

アレスの怒りの表情とオーラのように感じる覇気にオスカーは既視感と酷い頭痛を覚え、その脳裏にまたもや魔王の記憶が流れ込む。


それは魔王としての記憶の最後の部分。
聖なる剣や鎧を携えたが仲間と共に城の最深部へと攻め込んで来た時の記憶。

『魔王!お前の邪悪な支配もこれまでだ!!俺には…何よりも強い、仲間たちとの絆がある!!』


…頭の中に投影されるのは、光り輝く剣を携えて700年前に魔王を討伐したの姿。

(ま、さか…嘘だろ…?)

元部下の兄に続き、元勇者の幼なじみ。

そんな事実に目眩を覚えるオスカーだったが、今はそれよりもの記憶が蘇った事で息が出来なくなりそうなほど緊張していた。

「っ…あ、アレス…用がないなら、俺…もう…」
「待って」

ーーグイッ

吐き気を堪えながらアレスの脇を通り過ぎようとしたオスカー。
しかしその腕を引かれ、強引に壁際へと追い詰められてしまう。

(や、やばい…!)
「…オスカー。俺の目を見て」
(こんな状況で見れるか!)

オスカーにはアレスが何故ここまで怒っているのか分からなかった。

ただ咄嗟に思ったのは、『アレスが勇者の記憶を取り戻し、オスカーが元魔王である事に気付いた可能性』。

(……も、もしかして俺…このまま殺されるんじゃ…?)

胸に突き刺さる剣の冷たい感触。
聖なる力で体を焼かれる痛み。

次々とフラッシュバックする嫌な記憶にオスカーは……


「……ぉ……」
「お?」

「おえぇぇえぇえ!!!!!」


……過度のストレスに耐えきれなくなり、胃の中の物全てをアレスへとぶちまけてしまった。



 
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