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餌付け
しおりを挟む「うわぁ…!」
レイブンに手を引かれ、アッシュがまず最初に訪れたのは人の往来が激しい繁華街だった。
「人が、たくさん…!」
「ここは主要な商店が立ち並ぶ通りだからな。ほら、出店も出てるぞ」
レイブンが指さした先には複数の屋台。
いずれも食べ歩き出来る食べ物を売っていた。
「いい匂い…(あれは人間の食べ物なのかな…?)」
「…小腹も空いたし、軽く買っていくか」
レイブンは1軒の出店に向かうと、店主と軽く話し小銭を払う。
そして受け取ったのはハムやトマトを挟んだ美味しそうなサンドイッチだ。
「アッシュ。お前の分だ」
「えっ、あ…ありがとう、ございます…」
初めて見る人間の食べ物に戸惑いながらも、レイブンの真似をして大きくかぶりつく。
「……!?こ、これ…すごっ…え?なに、これ…」
「美味いだろ?」
「…うん…!すごく、美味しい…!」
これまでのスライムとしての人生(スライム生)の中で、地面に落ちた木の実や泉に生えた苔ぐらいしか食べてこなかったアッシュ。
初めて口にした『料理』の味に、思わず涙を零していた。
「おやおや、そこのお兄さんはよっぽどお腹が空いてたんだな」
「あ、ご、ごめんなさい…その、は、初めて食べたから…」
「サンドイッチをかい?ははっ、よほど遠くの国から来たみたいだな」
サンドイッチで感動の涙を流すアッシュに、店主は『サービスだ』と言ってもうひと切れのサンドイッチを渡す。
「ありがとうございます!」
「よかったな、アッシュ。…おやっさん、ありがとうな」
「いいってことよ」
そうしてサンドイッチの出店を後にすると、レイブンはアッシュの手を引いてまた別の出店へ向かう。
その道中、アッシュは貰ったサンドイッチを大事そうに袋にしまいこんだ。
「…せっかく貰ったのに食べないのか?」
「うん。…これは、『兄弟達』の分だから」
『兄弟』とはすなわち、泉でアッシュの帰りを待つスライム達のことである。
(…みんな、喜ぶだろうな…帰る前にもっといっぱい買っていこう)
「……兄弟達ってのはたくさんいるのか?」
「うん。いっぱいいるよ」
それこそ10や20ではきかないほど。
アッシュは兄弟達の姿を脳裏に浮かべ、柔らかい笑みを浮かべる。
「そうか、家族は大事にするんだぞ」
「うん!もちろん!」
元気よく応えたアッシュに微笑み返し、レイブンは繁華街を案内して回る。
そして鶏肉の串焼き、果物、クレープなどなど…
とにかく片っ端から屋台の食べ物を購入してはアッシュに食べさせていった。
「もっもっ…」
「美味いか?」
「うん!」
繁華街を抜け、人の少ないエリアに到着したアッシュとレイブン。
適当な段差に腰掛け、買い歩いた食べ物をゆっくり食していた。
「あっ…そ、その…レイブンさん…僕、お金払ってない…」
「ははっ、なんだよ今更。俺はそんな器の小さな男じゃないぞ?」
「でも、お返ししておかないと」
そしてアッシュが腰に結んだ袋から取り出したのは、数枚の銀貨と銅貨。
元々はスライム狩りをしていた冒険者たちが落としたものだ。
(…あの人たちは、僕らの仲間をたくさん殺した。だから、これぐらい許されるよね)
「レイブンさん、これで足りますか…?」
「………アッシュ」
「え?…っ!」
不意にレイブンの顔が間近に迫り、アッシュの唇をぬるりとした物が這う。
(!?た、食べられる…!)
驚愕と恐怖にほんの一瞬、足先の部分だけ変化が解けかける。
しかし…
「生クリーム、ついたままだったぞ」
「…え…?」
アッシュの唇を舐めたレイブンは、何食わぬ顔でまた元の距離を取った。
「……よ、よかった……人間は魔物まで食べるのかと…」
「は?」
「い、いえ!なんでもないです!」
後半の部分は幸い聞き取れなかったようで、アッシュは慌てて首を横に振って立ち上がった。
「えーと…あ!あそこにもお店がありますよ!」
そして誤魔化すように遠くの露店を指さして走り出す。
その後ろ姿に苦笑しつつも、レイブンはアッシュの後を追った。
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