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11、オタクの本能を利用したいともたやすく行われるえげつない行為

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俺と奏多の契約が始まってから20日が経過しようとしていた。

依然として奏多の病気は改善していないようだったが、完治しなくてもこの『お試し契約』で俺は関係を切るつもりだ。


「アイツには悪いけど、俺にもプライドがあるからな」(キリッ)
「どうされました?」
「あ、なんでもないです」

独り言を聞かれていたのか、さんが小首を傾げる。
俺は咄嗟に独り言を誤魔化すと、口をつぐんで目の前の鏡を見つめた。

さて、なぜ俺がスタイリストさんに身を任せているのかと言うと…それは3日ほど前に遡る。


……………………


三日前。
フェスが近くなり、家にいる時間がかなり少なくなっていた奏多と佐原さん。

だがある時俺が家にいる時間帯を見計らい、佐原さんだけが家に戻ってきた。

「あれ、佐原さん。今日は早かったですね」
「…社さん。貴方にお願いがあります」
「へ?」

神妙な面持ちで俺の向かい側に腰掛けた佐原さんに、俺も思わず真面目な顔になってしまう。

「実は…奏多の病気に改善が見られません。しかも奏多本人も社さんに抜いてもらっているからか、あまり気にしていないようで…」
「それは…困りましたね」

だがいくらお金を積まれようとも、俺は男の下の世話で食っていくのはごめんだ。

それは佐原さんも分かっているようで、額に手を当てながら首を横に振る。

「ですので、社さんには奏多が女性で興奮出来るようにテコ入れしてほしいのです。具体的には…ごにょごにょ」
「……うぇえ…それはちょっと…」

耳打ちで囁かれた佐原さんの作戦に、俺は思わず拒否反応を示す。
しかし…

「もちろんタダとは言いません。特別手当も出しますし、今回はこちらを差し上げます」
「……!?こ、これはまさか…」
「はい。奏多が社さんのためにと貰ってきた27-CANのサイン色紙と…これは私から。今度のフェスのアリーナ席チケットです」
「ふぉぉおお…!!」

目の前に差し出されたのは27-CANの生サイン色紙とフェスのアリーナ席チケット。

27-CAN目当てに応募はしていたが無残に落選していたため、俺にはまさに金銀財宝よりも価値のあるものに見えた。

「…引き受けて、くれますね?」
「う…で、でも俺のプライドが…」
「ではこれは焼却処分を…『やります!!!』

懐からライターを取り出した佐原さんを必死に押しとどめ、色紙とチケットを守り抜く。
完全に佐原さんの作戦だとは分かっていたが、それでもオタクの本能が俺を突き動かしたのだ。

「ご快諾ありがとうございます、社さん」
「うっうっ…こ、この策士めぇ…」
「褒め言葉として受け取っておきます。……では、くださいね」


………………………


そうして今に至る。

「はーい、じゃあメイクしていきますねー」
「…はーい」

スタイリストさんは楽しそうに微笑み、俺の顔に何かしらのクリームを塗り込んでいく。

俺は目をきゅっと瞑り、その冷たい感触に体を強ばらせた。

「意外とお肌が綺麗なんで、お化粧が乗りやすくて助かります」
「(い、意外と?)は、はぁ…どうも…」

スタイリストさんの褒めてるのか貶してるのかよく分からない言葉に返事をしながらひたすらに身を任せる。

(化粧ってめんどくさいんだな…世の女性たちは大変だ)

よく分からないクリームを何種類も塗り、その上によく分からない粉を何種類もまぶす。
さらには口紅を塗り、眉毛、まつ毛も綺麗に手入れされた所で俺はようやく目を開けた。

「はーい終わりました。仕上がり、どうですか?」
「うっわ」

さすがプロのスタイリスト。
鏡を見れば、1時間ほど前まで平凡だった俺の男顔も『それなりに見えるレベルの女子顔』に変貌していた。

(でも自分で見たら違和感バリバリだな…俺の面影も残ってるし、知り合いが見たら看破されるレベルか)
「あとはカツラとお洋服で整えたら完全に女の子に見えますからねー」
「え」

ま、まだあるのか?
俺は思わず嫌そうな顔になったが、スタイリストさんはテンションが上がってきたのか鼻歌混じりだ。

「あ、あの服は流石に…うひゃあっ!?」
「全体的にフェミニンな感じで…あ、ブラジャーにお胸も詰めますからねー」
「あ、や、やめっ、服脱がさないでっ…だめっ、ら、らめぇええええ!!!」


……そうして、見事全身女の子に変えられてしまった俺はしくしくと泣き崩れていた。

かろうじてパンツだけは死守したが、それでもメンタル的には十二分にオーバーキルだ。

「うっうっ…もうお嫁に行けない…」
「わぁ!すごく可愛いですよ♡」
「さいでっか…」

スタイリストさんのお世辞も全く心に響かず、俺はふらふらと立ち上がり鏡を見る。

……うわ。
化粧の段階で凄いと思ったけど、カツラと洋服のパワーも半端ないな…

残念ながら『美少女』とまでは行かないが、街で見かけたら『あ、可愛いかも』と思えるレベルにまで仕上げられていた。
なぜベストを尽くしたのか。

俺が色々と(主に悲しみに)打ちひしがれていると、ドアが控えめにノックされ全ての元凶…佐原さんが戻ってきた。

「失礼します。社さん……おや」
「自信作です!!」
「み、見ないでぇ…」

ドヤ顔のスタイリストさんと目を見開く佐原さんの視線に耐えられず、俺は思わず両手で顔を覆う。

「服のシルエットなどはフェミニンな感じが出るように曲線を重視しました。あと胸の形もこだわって…」
「…社さん、まさか女性用下着まで…?」
「し、下は守り抜きましたからね!ちゃんとトランクス履いてますから!!」

若干引いた顔をした佐原さんに力説し、スカートを捲ってトランクスをみせる。

「あ!ダメですよ!そんな痴女みたいなことしないでください!」
「ち、痴女!?」
「ふふっ…あぁ、失礼しました。では社さん、行きましょうか」

笑いを堪えきれていない様子の佐原さん。
時折噴き出しそうになりながらも俺の手を引き、スタイリストさんにお礼を言ってから部屋の外に出た。

「…本当にこの格好でやるんですか?奏多、笑い死にしません?」
「しませんよ。可愛い女の子ですし」

『明日のフェスのために、しっかりお願いしますね』と言った佐原さんは俺を車の後部座席に乗せ、自身はハンドルを握って車を走らせる。

…そう。明日からいよいよ奏多や27-CAN達が出演する音楽フェスなのだ。

「ご丁寧にホテルまで用意して貰って…」
「いえ、これも必要経費ですから」

そして俺の仕事は大事なフェスに臨む奏多の性処理。with 女装。

(これもフェスのチケットのため…)

俺が心を殺して精神を鎮めていると、ふと車が止まり顔を上げる。
早くもホテルの駐車場に到着したようだ。

「さ、社さん。お手を」
「は、はい…」

佐原のエスコートでホテルに入れば、中には明らかにセレブのお客様や記者っぽい人達でいっぱいだった。

(…存在感消しておこう)

万一知り合いにでも出会ってしまえば恥で爆死してしまう。
俺は佐原さんの近くで懸命に息を殺していた。

「お待たせしました。では、エレベーターに」
「………」(こくん)

男の声を出せば怪しまれてしまうと思い、だんまりを決め込んで頷く。

記者の人達も流石にホテルの中では大人しいようで、俺と佐原さんは注目を集めながらも突撃取材されることは無かった。

「奏多の部屋は最上階を、社さんの部屋は5階にシングルを一部屋押さえています」
「あの、俺の荷物は…」
「大丈夫。このホテルのスタッフに預けていますので部屋に運び込まれている頃かと。それから部屋には備え付けの化粧落としなども揃っているので、今日の仕事が終わったら化粧を落としていただいても結構ですよ」
「よ、よかった…」

明日のフェスもこの女装スタイルで行けとか言われたら泣くところだった。

俺は安堵に(作り物の)胸を撫で下ろす。

「ただ今回の成果しだいではまた女装での性処理を頼む可能性もありますので…それだけは覚悟しておいてくださいね」
「うへぇ…」

しかし今の契約もあと10日ぐらいだ。
我慢さえすれば大金が手に入りこの生活からも逃れられる。

俺はその事実を胸になんとか心を強く持った。
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