異常が日常な島の話

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Kindness is not merely for the sake of others.

彼らの出会い

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「安心しろよ。セイメイってのは死ぬのが定めなんだからさ。アンタの場合、それが今ってだけだ。ゲロって逃げるかか、ケジメつけて死ぬかの二択だ。マ、賢い選択をするんだな」
部屋の真ん中に男が座らされている。手は後ろ手に括り付けられて、脚は正座の形で括り付けられている。
その正面に青年はしゃがみこんでいる。ちょうど、男の顔を覗き込むような形だ。
部屋には簡易な窓が1つと、部屋の真ん中に椅子。そして、並べられた拷問用具がある。
男が所属していたクローバーファミリーでは麻薬はご法度だ。しかし、男はファミリーを裏切り、テリトリーに麻薬を流していたのだ。
「アンタ言ってたそうだな。近々、デカい金が入るってよ。アンタがチマチマやってる娼館じゃありえねえだろ。なぁ、女にはペラペラと喋ってたそうじゃないか。ツレないなぁ、オレにも教えてくれたっていいだろ?」
爪は何枚か剥がされ、潰されている。歯は舌を噛み切らないように上の歯だけ全て抜かれてある。
そして、その惨状を作り上げた青年は、ペンチをくるくると回しながら男に問いかけた。
「……」
「おい、聞いてんだぜ、オッサン」
「――グァ!」
腹を蹴り上げられカエルが押しつぶされたような声が出た。
「オレさぁ、こういうのは苦手なんだわ。オレには人間がどこまでやったら死ぬのかが分からねでよ、オヤジには毎度怒られるんだよな」
青年はペンチをおき、フォークを取り出した。
なんの変哲も無い、ケーキを食べる時の小さいフォーク。
青年はそのフォークを男の耳に突き刺した。男は声にならない悲鳴をあげる。
「グォアアアア」
「イタイよなぁ。ヨシヨシ、撫でてやろう」
青年はそう言ってフォークを動かす。すると、男の耳の中でグチャグチャと音がする。
「ひぃいいい!」
「しっかり入ってんな。よし」
青年は金槌を手に取った。そして、コンコンとフォークの先端を叩く。
男の身体が痙攣し始めた。穴という穴から水分が吹き出し、顔が真っ赤になっていく。
「しゃ、喋ります!だからやめてください!」
「お、やっとその気になってくれたか」
青年は途端に優しい口調になった。男は叫ぶように喋り始めた。
「西の噴水広場です!あそこで明日の夕方!取り引きが行われます!!運び屋がいてその鞄にブツが入ってます!」
「そうかそうか。教えてくれてありがとな」
青年はそう言って金槌を男の頭に振り下ろした。
頭を潰された男はしばらくビクビクとのたうち回ったが、やがて動かなくなった。
コンコンと、ドアがノックされた。
「どーぞ」
青年がそう言うと、鍵が開けられトレンチコートを着た男が入ってきた。
カラスの羽のような黒い髪の毛は、クセが強く鬱陶しそうだ。
「どうも、フレインさん。お疲れ様です。おわりましたか?」
「あぁ、今終わったところだ。ちょうどいい、ブレンダン、オマエ甘いもん好きだったよな。食べに行こうぜ」
「良いですけど、その汚れた作業着は着替えてくださいね」
ブレンダンと呼ばれたトレンチコートの男は部屋の惨状に少し眉を寄せたが、それだけだった。
ブレンダンは青年――フレインから、あらましを聞いた。
「わかりました。隣の部屋の人間に聞いた話と概ね一致しています。オヤジに報告しに行きましょう。恐らく明日は俺との仕事になると思います」
「おお、よろしく頼むわ」
フレインは金槌を頭を潰された男の前に置いた。
「オレらがこんだけ頑張っても給料はスズメの涙。上層のやつらがうまい飯を食って食いカスをドブに捨てるってんだから世知辛いわな」
「そのドブをすすって生きているのが僕らですよ。しかし、ドブには掘り出し物もあるかもしれませんよ」
「オッ、それはいいな。そのタカラモノでオヤジに美味いもの食わしてやろうぜ。泣いて喜ぶだろうよ」
「ですね。あの胡散臭い笑顔以外の表情を見てみたいものです」
二人は談笑しながら部屋を出た。
部屋には男の死体だけが残された。

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