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40話〜アビー

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 バーンダーバが急降下しているロゼの背中から飛び降り、空中で魔弓を具現化して少女に迫る魔物の足元に矢を撃ち込む!

 ドドドドドンっ!!

 魔物が足を止めて空を見上げてバーンダーバを指さした。

「グギャギャ、アイツダ、アイツガウッタゾ」

 人語を操る魔物はゴブリン。

 5体のゴブリンがボロボロの服を着た少女を棍棒を手に追いかけていた。

 バーンダーバはズシンと地面に足をめり込ませながら少女とゴブリンの間に着地した。

「グギャギャ、ジャマスルナ、ジャマスル、コロス」

 棍棒を振り上げてバーンダーバに向かってくるゴブリン。

 バーンダーバはゴブリンの持っている棍棒を5本同時に矢で撃ち抜いた。

 ゴブリンは突然中ほどから折れた棍棒とバーンダーバを見比べた。

「コイツ、マホウツカイダ!」

 ゴブリンの一匹が憎々しげに叫ぶ。

 その時、ゴブリン達を巨大な影が覆った、見上げるとロゼが巨大な翼をはためかせて降りてくる!

 それを見たゴブリン達はギャアギャア言いながら走り去っていった。

 バーンダーバは後ろで尻もちをついて怯えて震える少女に走りよった。

「大丈夫か、む、怪我をしているな。 フェイ! 治癒魔術を頼む!」

 少女はあちこちを擦りむいたり打撲の跡があった。

 フェイがフェムノに魔力を込めて治癒魔術をかける、少女の傷がみるみる消えていき、少女の顔が驚愕の表情に変わる。

「大丈夫? どうしてこんな所にいるの? 1人っきり?」

 フェイが少女に話しかける、見た目は10才くらい、袋に穴を開けたような粗末な服を着ている。

「見れば分かるだろう、奴隷だ、どこかから逃げてきたんだな」

 少女を見たカルバンはため息と共にそう言った。

 カルバンの言葉に少女はビクッと体を強ばらせる。

「奴隷というのはアレか、人が人を所有して働かせるという」

 バーンダーバの眉間にシワがよる。

 少女は体が汚れ、食事もまともにとっていないような不健康な細さだ。

「そうだ、見つけたら持ち主に返すのが決まりだ。 首輪をしているだろう、そこに所有者が書かれているハズだ」

 バーンダーバが少女を見ると確かに、少女の首には金属製の輪が嵌められていた。

 バーンダーバが少女に歩み寄る。

 少女が後ずさった、その顔は恐怖に歪んでいる。

「大丈夫だ、その首輪を外すだけだ」

 そう言って少女の首輪に手をかける。

「おい、よせ。 面倒な事になるぞ」

 カルバンの言葉も聞かずにバーンダーバは少女の首輪に手をかけると力を込めて連結部分をバキッとへし折った。

 カルバンは「あーぁ」という顔で眺めている。

 少女も外された首輪を不思議そうに眺めている。

 そしてバーンダーバを見上げる、その表情は安堵と、また酷い目にあうんじゃないかという恐怖の間で揺れていた。

「あの」

 初めて少女が言葉を発した。

「ん、なんだ?」

 バーンダーバが務めて優しく答える。

「お母さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんを助けて欲しいです、助けを呼びに行く途中で道に迷って・・・」

 そう言うと、少女は俯いてボロボロと泣き始めた。

 バーンダーバは優しく少女の肩を叩く。

「分かった、私が必ず助けよう」

「おいおい、気持ちは分からんでも無いけどな」

 カルバンが困った顔をする。

「カルバン、私はある人と1人でも多くの人間を救うと約束したのだ。 その約束は魔界を豊かにする事と同じ程に大事な物だ。 助けを求められて見逃すわけにはいかん」

 バーンダーバの迫力にカルバンは気圧されるように黙る。

「にしても、よく逃げられたな。 見た感じ10才くらいか? 逃げてどこに行くつもりだったんだ?」

 少女がセルカを見上げる。

「ルイズベルに親戚がいて、助けてもらいに行きたくて、でも、逃げ出せなくて、泣いてたら、おじいちゃんが、逃がしてくれて、それで一生懸命走ったんだけど、道が分からなくて」

 泣きながら、途切れ途切れに話す。

「おじいちゃんねぇ、それで、どこから逃げてきたんだ?」

「ずっと、あっちのほう」

 カルバンの問いに少女が指をさす。

 その方向に心当たりのあるカルバンは顔を顰める。

「ノインドラか、やはりな。 あそこはシュルスタとの戦争が終わったばかりの国だ」

 カルバンはため息とともに呟いた。

「近いのか?」

「あぁ、子供の足で1日ってところか。ロゼに乗れば1時間もかからんだろう」

 止めても無駄と分かったカルバンは諦めたようにバーンダーバに話す。

「よし、行こう」

「あの」

 少女が顔を上げてバーンダーバを見る。

「私、アビーです」

 少女の名を聞いてバーンダーバが表情を緩める。

「アビーか、いい名前だ。 私はバンだ、よろしくな。 君の家族は必ず助ける」

 アビーは口をキュッと結んで頷いた。
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