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35話〜脱出

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 セルカから瓶を受け取ったバーンダーバはすぐに親指で瓶の口を割り折ってフェイの体にかけた。

大霊薬エリクサーは体に魂さえ残っていればどんな傷も病気も癒すと言われてる、フェイの体に魂さえ残ってれば・・・」

 バーンダーバに抱かれるフェイを見ながら祈るようにセルカが呟く。

「フェイ、頼む、戻ってきてくれ」

 3人で動かないフェイを見つめる。

「・・・ フェイ」

 呟いたバーンダーバが頭を俯かせた時、フェイの瞳がゆっくり開いた。

「バン?」

 フェイが不思議そうにバーンダーバを見つめる。

 一瞬だが、意識を失っていたせいで状況が分からないという顔だ。

「フェイっ!」

 目を覚ましたフェイを見てバーンダーバが抱き締めた。

「ちょちょ、バンっ! どうしたんですか!」

「よかった・・・ 本当に、よかった」

 バーンダーバに抱き締められたフェイは顔を真っ赤にしながらバーンダーバの肩越しにキョロキョロとロゼとセルカの顔を見る。

「全く、無事で良かったよ」

 ロゼがほっと呟く。

「あぁ、本当に良かった。 それと、すまなかった。 あまりに皆が強いんで油断しちまった。 フェイがトラップを踏んだのはきっちりトラップの有無を確かめずにフェイに前衛を任せた斥候の俺の責任だ、本当にすまない」

 セルカが頭を下げた。

「いや、アタイが余計な事を言ったせいだ。 フェイが強さにコンプレックスを持ってることを知ってたのにね、悪かったよ、フェイ」

 ロゼが申し訳なさそうにフェイを見る。

「いえ!そんなっ! 元はと言えば私が戦うと言い出したんですから、悪いのは私です、ご迷惑をかけてすみませんでした」

『いや、我がついていながらざまぁ無かった。 迷宮の支配者ラビリンスマスターといえども、自分の敵ではないだろうとタカをくくっていた。 すまない』

 フェムノもいつになく声に元気が無い。

 ゴゴゴゴゴゴゴっ!!

 全員が項垂れて反省会をしていると迷宮中から地鳴りが響いてきた。

「なんだ!?」

 地面や天井のあちこちに亀裂が走る!

「まさか、迷宮が崩壊しようとしてんのか!?」

 セルカが不安そうに天井を見上げる。

 パラパラと落ちてくる破片に顔を顰めた。

「バンが床を撃ち抜いて大穴を開けたのが不味かったんじゃないかい?」

 ロゼがこのフロアへ来るのにバーンダーバが開けた大穴を見上げて言った。

『そういえば来るのが異常に速いと思ったら穴を開けて来たのか! 我でも壁の向こうを感知出来なかった程のぶ厚い壁に!?』

「今はそんなのどうでもいいだろっ! どうすんだ? このままじゃ生き埋めだぞ! 」

 セルカが騒ぐ。

「大丈夫だ、私が傍にいるかぎり、もう誰も傷つけさせん」

 フェイを離して立ち上がり、バーンダーバが弓を具現化して天井に向ける。

「無茶だろ! 地中の何十メートル下にいるかも分からない上にここは次元の大神が造った迷宮だ! 言っちまえば次元に穴を開けるようなもんだぞ!」

 セルカの言葉を聞いてもバーンダーバは構えを変えない。

 集中力を高め、深呼吸する毎にバーンダーバの纏う魔力が高まりバチバチと爆ぜる。

「もう、大切な者を失うのは、嫌だ!」

 その言葉と共に天井に向かって矢を放った!

 どおおおおおおおおぉっ!!!

 それは矢と言うよりも魔力の奔流だった。

 バーンダーバから放たれる継ぎ目の無い強大な矢が迷宮の天井を凄まじい勢いで削っていく!

 落ちてくる岩が地面に付く前に消しさられる程の矢の魔力の奔流は砂煙さえも起こすことが無い。

「お"お"お"お"ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 バーンダーバの咆哮と迷宮を穿つ轟音。

 3人は驚愕しながらそれを見ていた。

 天井には半径10メートル程の穴がどんどんと地上に向かって開こうとしている!

『馬鹿な、なんという魔力だ・・・』

 フェムノが呟いた時、バーンダーバの矢が止まり力を使い果たしたのか地面に膝をついて倒れた。

 ロゼがすぐに龍に姿を変えて、倒れたバンを口に咥えた。

「フェイ、セルカ、乗んな!  早くっ!」

 フェイとセルカが飛び乗ったと同時にロゼが力強く羽ばたいて飛んだ。

 バーンダーバの開けた大穴はしっかりと地上まで抜けていた。

 見あげれば満月が見えていた。

 どんどんと亀裂の走っていく迷宮の大穴を天に向かって風を切るように飛ぶ!

 荒野の上空まで飛んだところでバーンダーバを除く全員が地上の迷宮を見下ろした。

 内部が崩壊したのか、大穴から土煙を吐き出したかと思うとズズンと地面を揺らして辺り一帯が陥没した。

 その範囲は数十キロに及びそうだ。

 飛び出した大穴も崩れ落ちた。

 フェイとセルカ、ロゼはもうもうと立ち込める砂埃を見下ろして言葉を失っていた。

「荒野に降りたら危ないかもしれない、少し離れた所に降りよう」

 ボソリと呟いたセルカの言葉にロゼが南に向けて進路をとった。
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