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8話〜初仕事・ベルランの採集
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「バン、南門はあっちですよ」
フェイに言われてバーンダーバは露天商に向けていた視線を前に戻した。
いま、フェイとバーンダーバの2人は大商業都市・ダイナスバザールの中を南門に向けて歩いている。
この大都市は大きな砦にぐるりと囲われた都市で門が4つ、東西南北にある。
入ってきたのは北門なので真逆の方向だ。
南門を目指す理由はもちろん、冒険者ギルドで受けた初依頼をこなすため。
受けた依頼は【ベルランの採集】。
ベルランは下を向いたツボのような形のピンク色の花で香りが良く、石鹸や香水の原料になる。
場所はアマルンの森、ベルランはアマルンの森の奥に生えるアラダンの木の幹に蔓を巻き付けて花をつける。
その木は森の中にしか生えておらず、ベルランはその木にしか寄生しない為冒険者が取りに行くしかない。
ベルランの香りは貴族も愛する為に常に需要がある。
「すまない、ここは物と人で溢れかえっているな。 いくら首を回しても目に新しい物が飛び込んできてまったく飽きない」
足を早めて追いついたフェイに嬉しそうな顔でバーンダーバが喋る。
「でも、早く行かないと。 どうしても依頼を受けたいと言ったのはバンなんですから、日が落ちる前に森へ入らないとなにも見えなくなりますよ」
「あぁ、すまない」
そう言いながらもバーンダーバの首はまたあちらへこちらへと動いている。
それを見てフェイは可笑しそうに笑った。
そんなふうにだが、ようやっと南門についた。
「アマルンの森はここから南西へ半日程の距離らしいです、今日はその森の手前で野宿しましょう」
「半日か、よし、フェイ。 私がフェイを担いで行こう、走れば1時間程で着くはずだ」
「えぇ、いくらなんでも無茶じゃ」
『それなら、私がフェイを魔力強化すればいい。 早く我も行ってみたいしな、バーンダーバとずっと洞穴にいたせいでこの世界に来てから全く面白くなかった』
フェムノが話に乗っかりついでにバーンダーバに文句を言う。
「さすが聖剣だ、話が分かるな」
フェムノの文句をサラリと流す、バーンダーバはフェムノの相手がどんどんと上手くなっている。
「私もそれなら良いですよ」
流石に担がれるのには抵抗があったが自分で走るならとフェイも承諾する。
フェイが柄を握り魔力を流すと全身が銀色に輝き出した。
バーンダーバがそれを見て走り始める。
景色が飛ぶように流れていき、結局はアマルンの森まで1時間弱で着いてしまった。
「凄いですね、あっという間!」
フェイが感動したように声を上げた。
目の前には青々と木々が茂る森が視界いっぱいに広がっている。
時刻は太陽が真上を少し通り過ぎた頃。
「まだ日も高い、少し入らないか?」
「そうですね、行きましょう」
バーンダーバの提案にフェイは太陽の位置を見て了承する。
森に入ると適度に木々の切れ間がありそこまで暗くはなかった。
2人はベルランが寄生するアラダンの木がある森の奥を目指してどんどんと入っていく。
「凄いな、こんなに木が生えているのを初めて見た」
バーンダーバは街を歩いていた時と同じように首をあっちへこっちと巡らせている。
「魔界では森は無いんですか?」
「あぁ、草木というものがほとんど無い。 魔力渦巻くつまらぬ荒野がずっと続いている。 魔族は魔物に近いから食事を取らなくても魔力さえ取り込んでいれば相当な期間死ぬことは無い。 だが」
木を見ていたバーンダーバが視線をフェイに向ける、その顔には苦笑が浮かんでいた
「飢えはある、そして、子供が成長するにはやはり食わねばならん。 確かにほとんど食わなくても大丈夫だが、それにしたって魔界には食料という物が少ない。 週に1度、何かを口に出来たら良い方だ」
バーンダーバは森を慈しむように眺めながらとうとうと話した。
フェイはそれをなにも言わずにただ聞くばかりだった。
「魔界の食事は数少ない魔物を食うか、その死んだ魔物の骸に生えるキコン・ダナイチンという植物ぐらいだな。 名の意味は【死を呼ぶ草】だ、魔界にはそんな物しかない」
「じゃあ、早くバンがいっぱい食料を持っていかないとダメですね」
フェイはそう言って明るく笑った。
「あぁ、そうだな」
暗い話を無理矢理に笑顔で締めくくったが、フェイの気遣いがバーンダーバは嬉しかった。
「あ、ほら、見えてきましたよ! あれがアラダンの木です」
前方に見えてきたのはクネクネと曲がりながらもバランスをとって地面に生えると言うよりも片足で立っているような可笑しな木だ。
そのアラダンの木が周辺に群生していた。
その太いとは言えない幹に蔓を絡めて下向きにピンク色の可愛らしい花が無数にぶら下がっている。
「なんとも可愛らしいな、コレがベルランの花か。 ふむ、いい香りがするな」
バーンダーバは笑顔を浮かべてベルランの花に顔を近付けてしげしげと眺めている。
「なるほど、見てみろフェイ。 地面から沢山の蔓が伸びている。 コレなら1本が切れても死ぬ事は無いな」
バーンダーバがあちこち楽しそうに観察している。
「きっと、このアラダンの木が広く細く枝を延ばす性質を利用してこの木に蔓を巻き付けているのだろうな。 それなら広く自分の種を撒ける、賢い花だ」
「さぁ、この麻袋いっぱいに詰めて帰りましょう」
フェイが荷物の中から大きな麻袋を取り出した。
「そうか、この花をむしり取るのはなんだか気が引けるな」
「バン、そんな事ばっかり言ってたらなんの依頼も受けられませんよ」
フェイが呆れたように言う。
『バンよ、まるで花を恥じらう乙女のようだな』
フェムノが冷やかすように喋る。
バーンダーバはそんな言葉も気にしないで微笑みを浮かべてベルランを眺めている。
この採集依頼も、討伐依頼が殺伐としていてもう戦いは嫌だとバーンダーバが言うから採集依頼にしたという経緯がある。
だが、そんな事を言って花を嬉しそうに見つめるバーンダーバをフェイも微笑ましく眺めていた。
「さぁ、始めましょう! 依頼を達成したら服を買うんでしょ! じゃあ頑張らないと」
「うむ、そうだな」
バーンダーバはベルランの花に手を伸ばした。
「うわあぁぁぁあぁぁーーー」
「きゃああぁーーーー」
森の中をつんざくような悲鳴が響き渡り、木に止まっていた小鳥が数羽驚いて飛び上がった。
バーンダーバとフェイは一瞬顔を見合わせると声のした方へ駆け出した。
===冒険者ギルド===
「フォローした私が言うのもなんですけど、よく混血とはいえ魔族の人にライセンスを渡しましたね。 ギルドマスター」
昼休憩にギルドマスターの部屋で当たり前のように紅茶を啜りながらジュリーが話している。
相手は勿論、大商業都市【ダイナスバザール】の冒険者ギルドマスター。
「まぁな、お前のテンパった顔が面白かったからな」
黒い口髭を弄りながらニヤリと笑う。
「えぇっ、そうですかー?」
「まっ、冗談は置いといて。 俺にもそんなに悪いヤツには見えなかったしな、実は酒場で1杯引っ掛けてたんだけどよ」
酒場にいた唯一の客はギルドマスターだったらしい。
「そりゃ気付いてますよ。 あんな朝っぱらから飲むなんてギルドマスターくらいですから」
「まー、いーじゃねーか。 そんで、しょーもない冒険者に絡まれてんのを見てたんだよ。 どーすんのかと思ってたら結局おばちゃんに助けられてたな」
ギルドマスターは「ガハハ」っと笑う。
「もう、なんで助けないんですか」
呆れたようなジュリー。
「んなもんいちいち俺が入ってられるかよ、まぁ、そんなのも見てたし、ジュリーの意見もあったからな」
「後は面白そうとか思ったんじゃないんですかー?」
「ガハハ、それもある。 にしても」
ギルドマスターはバーンダーバが作った冒険者ライセンスの1つを見つめる。
そこにはレベル666と刻まれている。
人間もエルフもドワーフも、レベルの限界値は99と言われている。
「ま、魔族なんて測ったこと無いから誤作動なんだろうが・・・」
そう呟いてバーンダーバのプレートを引き出しにしまった。
次にはもう、ギルドマスターの頭の中は今日の他の雑事の事を考えていた。
フェイに言われてバーンダーバは露天商に向けていた視線を前に戻した。
いま、フェイとバーンダーバの2人は大商業都市・ダイナスバザールの中を南門に向けて歩いている。
この大都市は大きな砦にぐるりと囲われた都市で門が4つ、東西南北にある。
入ってきたのは北門なので真逆の方向だ。
南門を目指す理由はもちろん、冒険者ギルドで受けた初依頼をこなすため。
受けた依頼は【ベルランの採集】。
ベルランは下を向いたツボのような形のピンク色の花で香りが良く、石鹸や香水の原料になる。
場所はアマルンの森、ベルランはアマルンの森の奥に生えるアラダンの木の幹に蔓を巻き付けて花をつける。
その木は森の中にしか生えておらず、ベルランはその木にしか寄生しない為冒険者が取りに行くしかない。
ベルランの香りは貴族も愛する為に常に需要がある。
「すまない、ここは物と人で溢れかえっているな。 いくら首を回しても目に新しい物が飛び込んできてまったく飽きない」
足を早めて追いついたフェイに嬉しそうな顔でバーンダーバが喋る。
「でも、早く行かないと。 どうしても依頼を受けたいと言ったのはバンなんですから、日が落ちる前に森へ入らないとなにも見えなくなりますよ」
「あぁ、すまない」
そう言いながらもバーンダーバの首はまたあちらへこちらへと動いている。
それを見てフェイは可笑しそうに笑った。
そんなふうにだが、ようやっと南門についた。
「アマルンの森はここから南西へ半日程の距離らしいです、今日はその森の手前で野宿しましょう」
「半日か、よし、フェイ。 私がフェイを担いで行こう、走れば1時間程で着くはずだ」
「えぇ、いくらなんでも無茶じゃ」
『それなら、私がフェイを魔力強化すればいい。 早く我も行ってみたいしな、バーンダーバとずっと洞穴にいたせいでこの世界に来てから全く面白くなかった』
フェムノが話に乗っかりついでにバーンダーバに文句を言う。
「さすが聖剣だ、話が分かるな」
フェムノの文句をサラリと流す、バーンダーバはフェムノの相手がどんどんと上手くなっている。
「私もそれなら良いですよ」
流石に担がれるのには抵抗があったが自分で走るならとフェイも承諾する。
フェイが柄を握り魔力を流すと全身が銀色に輝き出した。
バーンダーバがそれを見て走り始める。
景色が飛ぶように流れていき、結局はアマルンの森まで1時間弱で着いてしまった。
「凄いですね、あっという間!」
フェイが感動したように声を上げた。
目の前には青々と木々が茂る森が視界いっぱいに広がっている。
時刻は太陽が真上を少し通り過ぎた頃。
「まだ日も高い、少し入らないか?」
「そうですね、行きましょう」
バーンダーバの提案にフェイは太陽の位置を見て了承する。
森に入ると適度に木々の切れ間がありそこまで暗くはなかった。
2人はベルランが寄生するアラダンの木がある森の奥を目指してどんどんと入っていく。
「凄いな、こんなに木が生えているのを初めて見た」
バーンダーバは街を歩いていた時と同じように首をあっちへこっちと巡らせている。
「魔界では森は無いんですか?」
「あぁ、草木というものがほとんど無い。 魔力渦巻くつまらぬ荒野がずっと続いている。 魔族は魔物に近いから食事を取らなくても魔力さえ取り込んでいれば相当な期間死ぬことは無い。 だが」
木を見ていたバーンダーバが視線をフェイに向ける、その顔には苦笑が浮かんでいた
「飢えはある、そして、子供が成長するにはやはり食わねばならん。 確かにほとんど食わなくても大丈夫だが、それにしたって魔界には食料という物が少ない。 週に1度、何かを口に出来たら良い方だ」
バーンダーバは森を慈しむように眺めながらとうとうと話した。
フェイはそれをなにも言わずにただ聞くばかりだった。
「魔界の食事は数少ない魔物を食うか、その死んだ魔物の骸に生えるキコン・ダナイチンという植物ぐらいだな。 名の意味は【死を呼ぶ草】だ、魔界にはそんな物しかない」
「じゃあ、早くバンがいっぱい食料を持っていかないとダメですね」
フェイはそう言って明るく笑った。
「あぁ、そうだな」
暗い話を無理矢理に笑顔で締めくくったが、フェイの気遣いがバーンダーバは嬉しかった。
「あ、ほら、見えてきましたよ! あれがアラダンの木です」
前方に見えてきたのはクネクネと曲がりながらもバランスをとって地面に生えると言うよりも片足で立っているような可笑しな木だ。
そのアラダンの木が周辺に群生していた。
その太いとは言えない幹に蔓を絡めて下向きにピンク色の可愛らしい花が無数にぶら下がっている。
「なんとも可愛らしいな、コレがベルランの花か。 ふむ、いい香りがするな」
バーンダーバは笑顔を浮かべてベルランの花に顔を近付けてしげしげと眺めている。
「なるほど、見てみろフェイ。 地面から沢山の蔓が伸びている。 コレなら1本が切れても死ぬ事は無いな」
バーンダーバがあちこち楽しそうに観察している。
「きっと、このアラダンの木が広く細く枝を延ばす性質を利用してこの木に蔓を巻き付けているのだろうな。 それなら広く自分の種を撒ける、賢い花だ」
「さぁ、この麻袋いっぱいに詰めて帰りましょう」
フェイが荷物の中から大きな麻袋を取り出した。
「そうか、この花をむしり取るのはなんだか気が引けるな」
「バン、そんな事ばっかり言ってたらなんの依頼も受けられませんよ」
フェイが呆れたように言う。
『バンよ、まるで花を恥じらう乙女のようだな』
フェムノが冷やかすように喋る。
バーンダーバはそんな言葉も気にしないで微笑みを浮かべてベルランを眺めている。
この採集依頼も、討伐依頼が殺伐としていてもう戦いは嫌だとバーンダーバが言うから採集依頼にしたという経緯がある。
だが、そんな事を言って花を嬉しそうに見つめるバーンダーバをフェイも微笑ましく眺めていた。
「さぁ、始めましょう! 依頼を達成したら服を買うんでしょ! じゃあ頑張らないと」
「うむ、そうだな」
バーンダーバはベルランの花に手を伸ばした。
「うわあぁぁぁあぁぁーーー」
「きゃああぁーーーー」
森の中をつんざくような悲鳴が響き渡り、木に止まっていた小鳥が数羽驚いて飛び上がった。
バーンダーバとフェイは一瞬顔を見合わせると声のした方へ駆け出した。
===冒険者ギルド===
「フォローした私が言うのもなんですけど、よく混血とはいえ魔族の人にライセンスを渡しましたね。 ギルドマスター」
昼休憩にギルドマスターの部屋で当たり前のように紅茶を啜りながらジュリーが話している。
相手は勿論、大商業都市【ダイナスバザール】の冒険者ギルドマスター。
「まぁな、お前のテンパった顔が面白かったからな」
黒い口髭を弄りながらニヤリと笑う。
「えぇっ、そうですかー?」
「まっ、冗談は置いといて。 俺にもそんなに悪いヤツには見えなかったしな、実は酒場で1杯引っ掛けてたんだけどよ」
酒場にいた唯一の客はギルドマスターだったらしい。
「そりゃ気付いてますよ。 あんな朝っぱらから飲むなんてギルドマスターくらいですから」
「まー、いーじゃねーか。 そんで、しょーもない冒険者に絡まれてんのを見てたんだよ。 どーすんのかと思ってたら結局おばちゃんに助けられてたな」
ギルドマスターは「ガハハ」っと笑う。
「もう、なんで助けないんですか」
呆れたようなジュリー。
「んなもんいちいち俺が入ってられるかよ、まぁ、そんなのも見てたし、ジュリーの意見もあったからな」
「後は面白そうとか思ったんじゃないんですかー?」
「ガハハ、それもある。 にしても」
ギルドマスターはバーンダーバが作った冒険者ライセンスの1つを見つめる。
そこにはレベル666と刻まれている。
人間もエルフもドワーフも、レベルの限界値は99と言われている。
「ま、魔族なんて測ったこと無いから誤作動なんだろうが・・・」
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