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援軍
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「エリシア様、如何なされますか?」
眼下で戦う両軍をエリシアは静かに、険しい目付きで眺める。
左翼はかなり形が崩れ始めている。
右翼は互角。
中央は左翼側を少し下げながらも危険はないように見える。
「右翼へ入る」
エリシアはきっぱりと言った。
「右へ? 左へ援軍に入らなくて良いのですか?」
「あそこへ私が入っても状況を五分に持っていくので精一杯だ、意味がない。チェインは右を押して敵中央から予備隊を右へ誘導したいんだろう、そして後ろが薄くなった中央を突破して敵将を討ち取る。だが、ウーラスが押し込めないでいるから時間と共に元々薄い左が崩壊しかけている」
「な、なるほど」
王都から連れてきた500騎、今エリシアと話しているのは人魔大戦の頃から前線で戦ってきたという老将。
魔族が相手なら自分が役に立つと着いてきたが、エリシアの読みに老将は舌を巻くばかり。
「ですが、あのグラムリバーを背にした戦場の内に入るのは容易ではありませんぞ。敵も止めに入るでしょう、外から挟撃を仕掛けては?」
挟撃、内と外から攻撃を仕掛ければ、仕掛けられた側の軍は混乱し、仕掛けた側は必勝ともいえる形になる。
だが。
「無駄だ、相手の横陣がこちらの横陣に比べ分厚すぎる。それにこちらは500しかいない、今は挟撃してもさらに後ろから攻撃されて半時と持たずに崩壊するだろう。私が内に入り指揮を交代するのが手っ取り早い。挟撃を仕掛けるなら、相手の指揮系統を麻痺させてからだ」
そこでエリシアは大きく息を吸い込んだ。
「行くぞっ! 横陣の右端から中に入り込む! ついてこい!」
「はっ」
エリシアに続いて500の騎馬隊が走り出す。
動いたエリシアの騎馬隊に合わせて敵軍左翼から1,000騎が走ってきてエリシアの部隊の進路を塞ぐように展開する。
「グラムリバーの縁に沿って走る! 絶対に止まるな!」
「エリシア様、先頭は我々が」
騎馬隊の中から2人の騎兵がエリシアの前に出た。
「ライカにレフクといったな、余計な真似はいい。後ろへ回れ」
イオレク大将軍の采配で遣わされた王直属近衛兵、ライカとレフクはイオレク大将軍から直々に"孫娘を頼むぞ"と言われていた。
二人は内心で(戦争中に子守りなんぞ出来るか)と毒を吐いた。
その"子守り"の対象が部隊の先頭で気を吐いている。
ライカとレフクは目線を合わせ、"お手並み拝見"と言わんばかりに薄く笑った。
エリシアの前方、川沿いまで魔族の軍隊が届いた。
完全に進路を塞がれてもエリシアは馬の速度を落とさない。
先頭のエリシアに向かって魔族が槍を突き出す、エリシアは馬上でショートソードと丸盾を構えた。さらに馬を蹴り速度はトップスピードに入る。
4本の槍の切っ先がエリシアの胸へと吸い込まれていく。
「危なっ」
ライカの叫び声は途中で途切れた、槍の切っ先はどれもエリシアには刺さらず空に流れていた。
「上手い!」
「受け流した!」
剣と盾で受け流し、身体を捻って躱していた。
そのまま敵中に突っ込んでいく。
「馬上とは思えない身のこなしだ」
レフクはエリシアの後ろについて走り、その動きに感嘆していた。
「"鋼鉄の副官"の噂は伊達じゃなかったな、いや、戦術理解も武力も噂以上だ」
「それよりこの異常な突破力だ、敵陣をこんな速度で抜いていくなんて初めてだぞ!」
駆ける騎兵隊の先頭は死傷率が高い、そして一合目の打ち合いでの落馬率、そこで脚が緩み突撃は藪を掻き分けるように遅くなる。
エリシアは敵の攻撃をいなし、さらには相手の体勢を崩して後続の勢いをさらに上げる。
止めに入った一団を易々と抜け、混戦状態の戦場を突き抜けあっさりと半円の横陣の内側に入った。
右翼後方で指揮するウーラスの元へエリシアが走る。
「ウーラス! 指揮を変わる! お前は全線へ出ろ」
「エリシア副官っ、申し訳ございません」
エリシアに向かい、ウーラスは恥と悔しさで頭を下げる。
自分の仕事の半分もする事が出来なかった。
「話は後だ、時との勝負。半刻以内に押し込まねば左が危ない。お前は前線でうろうろしている敵左翼の指揮官を討て!」
「はいっ」
意気消沈しながらもウーラスは水を得た魚のように戦場へと姿を消した。
エリシアは右翼戦場を右から左に何度も視線を走らせる。
「前線の百将部隊に伝達っ、ジェシー、ファウスト、トーカスの部隊を水滴陣形に変えて敵を内に誘い込め」
「ですが、かなり疲弊しています。下手をすれば崩壊する恐れも」
伝令兵が顔を青くした。
「ウーラスが前線に入ったから大丈夫だ、時の猶予はない。だらだらすれば左が危ない、一気に動かすぞ! レフク、100騎率いてウーラスを追え!」
ここから右翼が大きく動き出す。
~~・・~~・・~~
「流石、エリシアだ」
右翼は一気に敵を食い始めた、かなり危ういが凄まじい勢いで戦局が動いている。
「錐行陣形を組む」
チェインはすぐに敵中央が動くと見て突撃の準備に入った。
(だが、今ここから100どころか50動かしてもマズい)
中央で前線を維持している民兵にかなりの負傷者が出ている、入れ替えの度、徐々に押され始めている。
(エリシアは連れてきた500の内400をそのまま後方で待機させてる)
チェインは右翼後方に待機しているエリシアの率いて来た隊が目に入った、それも、中央から見えやすいように中央よりに配置している。
それにエリシアからのメッセージを感じ、チェインの胸に熱いものが込み上げてきた。
(いつもいつも世話になってばっかりだ、こんな僕を、どうしてエリシアは見捨てないんだろう……)
エリシアが参戦して半刻もしない内に敵中央が敵左翼に援軍を動かした。
(やっぱり、ザッカイードの反応は早い)
「インバース、ガブリエフ、グレイワーズ、アメリア、ゼロス、フィリオネル、ナーガ、ルーク、ミリーナ。陣形に入れ、僕達で敵将を討つ! 死ぬ気で着いてきてくれ!」
チェイン万騎隊で最も武力に優れた者を選りすぐる。
敵の援軍が動ききったタイミングでチェインが吠えた。
「この場の指揮はヴァルガーヴに任せる! 行くぞっ!」
たった10騎で錐行陣形を作り、チェインは敵陣へ突っ込んでいった。
~~・・~~・・~~
「ガンガン殺せ! ザッカイード様がこっちに援軍を出した! もたもたしているからだ! 恥と思えお前らっ!」
ラザートは戦斧を振り回して味方に発破をかける。
敵指揮官が代わった途端に前線に大きく動きが出た、敵の横陣が崩れたかのように凹み、そこに入っていった部隊がことごとく狩り尽くされた。
逆に相手の凹みの先端を狙うがガチガチに防御を固めているのでなかなか崩れない。
さらに。
先ほど来たエリシアの援軍を遮る為に動かした1,000の部隊、それをあっさりと抜かれた後、その部隊を動かし少し薄くなった辺りを狙って戦局が動き始める。
(展開が早えーな、一度後ろに戻って指揮を取るかぃ……)
そうラザートが考えた時、ラザートの目の前に格好の獲物が現れた。
「貴様が左翼の将、ザッカイード軍の剛斧レギースと見受ける! 我の名は右翼の将ウーラス! いざ勝負だ!」
|バスタードソード(片手長剣)を手に、ウーラスが声高に名乗りを上げる。
(丁度良えや、コイツを殺しゃあまだまだどうとでもならあ)
ラザートが邪悪な笑みを浮かべ、戦斧を掲げてウーラスの元へ走る。
「お"お"ぉ"っ!!」
ウーラスも渾身の力を込めてバスタードソードを掲げた、お互いの振り抜いた鉄と鉄が激突し、耳をつんざく程の音が響いた。
圧し勝ったのは戦斧、ウーラスは馬ごと後ろに弾かれた。
「軽ぃな若ぇの、良いのは威勢だけかい?」
(俺が、片腕で吹っ飛ばされるだと……)
表情は変えないが、ウーラスは全身が粟立つほど戦慄した。
「調子に乗るな人魔大戦の骨董品が、干物にして俺の家に飾ってやる」
「ほっほー、やっぱり威勢はいいなぁ」
片手で巨大な戦斧を扇のように振り回し、ラザートはニタニタと笑う。
ウーラスは両手でバスタードソードを握り、雄叫びを上げて襲いかかった。
眼下で戦う両軍をエリシアは静かに、険しい目付きで眺める。
左翼はかなり形が崩れ始めている。
右翼は互角。
中央は左翼側を少し下げながらも危険はないように見える。
「右翼へ入る」
エリシアはきっぱりと言った。
「右へ? 左へ援軍に入らなくて良いのですか?」
「あそこへ私が入っても状況を五分に持っていくので精一杯だ、意味がない。チェインは右を押して敵中央から予備隊を右へ誘導したいんだろう、そして後ろが薄くなった中央を突破して敵将を討ち取る。だが、ウーラスが押し込めないでいるから時間と共に元々薄い左が崩壊しかけている」
「な、なるほど」
王都から連れてきた500騎、今エリシアと話しているのは人魔大戦の頃から前線で戦ってきたという老将。
魔族が相手なら自分が役に立つと着いてきたが、エリシアの読みに老将は舌を巻くばかり。
「ですが、あのグラムリバーを背にした戦場の内に入るのは容易ではありませんぞ。敵も止めに入るでしょう、外から挟撃を仕掛けては?」
挟撃、内と外から攻撃を仕掛ければ、仕掛けられた側の軍は混乱し、仕掛けた側は必勝ともいえる形になる。
だが。
「無駄だ、相手の横陣がこちらの横陣に比べ分厚すぎる。それにこちらは500しかいない、今は挟撃してもさらに後ろから攻撃されて半時と持たずに崩壊するだろう。私が内に入り指揮を交代するのが手っ取り早い。挟撃を仕掛けるなら、相手の指揮系統を麻痺させてからだ」
そこでエリシアは大きく息を吸い込んだ。
「行くぞっ! 横陣の右端から中に入り込む! ついてこい!」
「はっ」
エリシアに続いて500の騎馬隊が走り出す。
動いたエリシアの騎馬隊に合わせて敵軍左翼から1,000騎が走ってきてエリシアの部隊の進路を塞ぐように展開する。
「グラムリバーの縁に沿って走る! 絶対に止まるな!」
「エリシア様、先頭は我々が」
騎馬隊の中から2人の騎兵がエリシアの前に出た。
「ライカにレフクといったな、余計な真似はいい。後ろへ回れ」
イオレク大将軍の采配で遣わされた王直属近衛兵、ライカとレフクはイオレク大将軍から直々に"孫娘を頼むぞ"と言われていた。
二人は内心で(戦争中に子守りなんぞ出来るか)と毒を吐いた。
その"子守り"の対象が部隊の先頭で気を吐いている。
ライカとレフクは目線を合わせ、"お手並み拝見"と言わんばかりに薄く笑った。
エリシアの前方、川沿いまで魔族の軍隊が届いた。
完全に進路を塞がれてもエリシアは馬の速度を落とさない。
先頭のエリシアに向かって魔族が槍を突き出す、エリシアは馬上でショートソードと丸盾を構えた。さらに馬を蹴り速度はトップスピードに入る。
4本の槍の切っ先がエリシアの胸へと吸い込まれていく。
「危なっ」
ライカの叫び声は途中で途切れた、槍の切っ先はどれもエリシアには刺さらず空に流れていた。
「上手い!」
「受け流した!」
剣と盾で受け流し、身体を捻って躱していた。
そのまま敵中に突っ込んでいく。
「馬上とは思えない身のこなしだ」
レフクはエリシアの後ろについて走り、その動きに感嘆していた。
「"鋼鉄の副官"の噂は伊達じゃなかったな、いや、戦術理解も武力も噂以上だ」
「それよりこの異常な突破力だ、敵陣をこんな速度で抜いていくなんて初めてだぞ!」
駆ける騎兵隊の先頭は死傷率が高い、そして一合目の打ち合いでの落馬率、そこで脚が緩み突撃は藪を掻き分けるように遅くなる。
エリシアは敵の攻撃をいなし、さらには相手の体勢を崩して後続の勢いをさらに上げる。
止めに入った一団を易々と抜け、混戦状態の戦場を突き抜けあっさりと半円の横陣の内側に入った。
右翼後方で指揮するウーラスの元へエリシアが走る。
「ウーラス! 指揮を変わる! お前は全線へ出ろ」
「エリシア副官っ、申し訳ございません」
エリシアに向かい、ウーラスは恥と悔しさで頭を下げる。
自分の仕事の半分もする事が出来なかった。
「話は後だ、時との勝負。半刻以内に押し込まねば左が危ない。お前は前線でうろうろしている敵左翼の指揮官を討て!」
「はいっ」
意気消沈しながらもウーラスは水を得た魚のように戦場へと姿を消した。
エリシアは右翼戦場を右から左に何度も視線を走らせる。
「前線の百将部隊に伝達っ、ジェシー、ファウスト、トーカスの部隊を水滴陣形に変えて敵を内に誘い込め」
「ですが、かなり疲弊しています。下手をすれば崩壊する恐れも」
伝令兵が顔を青くした。
「ウーラスが前線に入ったから大丈夫だ、時の猶予はない。だらだらすれば左が危ない、一気に動かすぞ! レフク、100騎率いてウーラスを追え!」
ここから右翼が大きく動き出す。
~~・・~~・・~~
「流石、エリシアだ」
右翼は一気に敵を食い始めた、かなり危ういが凄まじい勢いで戦局が動いている。
「錐行陣形を組む」
チェインはすぐに敵中央が動くと見て突撃の準備に入った。
(だが、今ここから100どころか50動かしてもマズい)
中央で前線を維持している民兵にかなりの負傷者が出ている、入れ替えの度、徐々に押され始めている。
(エリシアは連れてきた500の内400をそのまま後方で待機させてる)
チェインは右翼後方に待機しているエリシアの率いて来た隊が目に入った、それも、中央から見えやすいように中央よりに配置している。
それにエリシアからのメッセージを感じ、チェインの胸に熱いものが込み上げてきた。
(いつもいつも世話になってばっかりだ、こんな僕を、どうしてエリシアは見捨てないんだろう……)
エリシアが参戦して半刻もしない内に敵中央が敵左翼に援軍を動かした。
(やっぱり、ザッカイードの反応は早い)
「インバース、ガブリエフ、グレイワーズ、アメリア、ゼロス、フィリオネル、ナーガ、ルーク、ミリーナ。陣形に入れ、僕達で敵将を討つ! 死ぬ気で着いてきてくれ!」
チェイン万騎隊で最も武力に優れた者を選りすぐる。
敵の援軍が動ききったタイミングでチェインが吠えた。
「この場の指揮はヴァルガーヴに任せる! 行くぞっ!」
たった10騎で錐行陣形を作り、チェインは敵陣へ突っ込んでいった。
~~・・~~・・~~
「ガンガン殺せ! ザッカイード様がこっちに援軍を出した! もたもたしているからだ! 恥と思えお前らっ!」
ラザートは戦斧を振り回して味方に発破をかける。
敵指揮官が代わった途端に前線に大きく動きが出た、敵の横陣が崩れたかのように凹み、そこに入っていった部隊がことごとく狩り尽くされた。
逆に相手の凹みの先端を狙うがガチガチに防御を固めているのでなかなか崩れない。
さらに。
先ほど来たエリシアの援軍を遮る為に動かした1,000の部隊、それをあっさりと抜かれた後、その部隊を動かし少し薄くなった辺りを狙って戦局が動き始める。
(展開が早えーな、一度後ろに戻って指揮を取るかぃ……)
そうラザートが考えた時、ラザートの目の前に格好の獲物が現れた。
「貴様が左翼の将、ザッカイード軍の剛斧レギースと見受ける! 我の名は右翼の将ウーラス! いざ勝負だ!」
|バスタードソード(片手長剣)を手に、ウーラスが声高に名乗りを上げる。
(丁度良えや、コイツを殺しゃあまだまだどうとでもならあ)
ラザートが邪悪な笑みを浮かべ、戦斧を掲げてウーラスの元へ走る。
「お"お"ぉ"っ!!」
ウーラスも渾身の力を込めてバスタードソードを掲げた、お互いの振り抜いた鉄と鉄が激突し、耳をつんざく程の音が響いた。
圧し勝ったのは戦斧、ウーラスは馬ごと後ろに弾かれた。
「軽ぃな若ぇの、良いのは威勢だけかい?」
(俺が、片腕で吹っ飛ばされるだと……)
表情は変えないが、ウーラスは全身が粟立つほど戦慄した。
「調子に乗るな人魔大戦の骨董品が、干物にして俺の家に飾ってやる」
「ほっほー、やっぱり威勢はいいなぁ」
片手で巨大な戦斧を扇のように振り回し、ラザートはニタニタと笑う。
ウーラスは両手でバスタードソードを握り、雄叫びを上げて襲いかかった。
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