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チェインとジャッキーは何とかイオレクに椅子に座って貰った、今もイオレクはチェインを睨んで荒い息をしている。
「それでっ、どういう沙汰だ? 返答次第では本気で斬るぞ、例えお前がバルハラーの息子でも関係ないっ! 心して話せっ」
凄まじい剣幕、チェインは唾をごくりと飲み込んで、唇を舐めてから口を開いた。すぐには言葉が出ない。
「……。はい、まずは、僕がエリシアに婚約破棄を言い渡した理由から話させて下さい。その、僕は"不能"だったんです」
「…………。"不能"?」
虚を突かれたイオレクは、素直に意味が分からないという表情になった。
「はい、"不能"です。子供が作れない、それでは結婚出来ない。そう思い、婚約破棄を言い渡しました。言った状況が悪かったのは重々承知しております。言い訳ですが、あの時は僕も精神的にかなり追い詰められていました。今は後悔しかありません、それに、エリシアには自分が"不能"だとどうしても言えず。重ねて謝罪致します」
「それで、"不能"だったという事は治ったという事か?」
イオレクがチェインの言葉尻を掴む。
「はい、それでお聞きしたいことが。ある人物から、僕は勇者バルハラーの実子であり、母親は魔王軍に所属した魔族と聞きました。この事に関して、イオレク将軍は何かご存じでしょうか?」
チェインの言葉に、イオレクおじさんは息を飲んだ。
その反応にチェインにとって未だ半信半疑だったその話しに、現実味が押し寄せた。
(……、まさか本当に?)
チェインは期待に胸が膨らむ。
「……。誰から聞いた?」
「自分を魔王の娘だと名乗る、アドラーナという少女です。魔族の特徴を持ち、年の頃は10代の半ばです。本人は17才だと言っていました」
「そうか、そうか……。その話しを信じる根拠はあったのか」
「はい、魔族の男は皆"不能"だそうです。女が気に入った男に|誘惑(チャーム)なる魔法を掛け、結ばれるんだとか。アドラーナは私の名前と加護を受ける神の名を聞いて私が"不能"である事を言い当てました。イオレクおじさん、僕が、僕の父について何かご存じ何ですか?」
「…………。魔族がみな"不能"とはな、そういえば。思い当たる節がないでもない。魔族の女がヒームの男と結ばれたという話はたまに聞くが。魔族の男とヒームの女というのはそう聞かない」
イオレクは顎髭を手でいじくり、沈痛な面持ちで考え込んだ。
「バルハラーが死んで、どうしたものかと思っていたが……。こんな形で話が伝わるとはなぁ」
「じゃあ、本当に僕は?」
「確かに、お前はバルハラーの実子じゃ。知っているのは儂と、国王、他にも数人いたが皆死んだ」
国王という名に、チェインもジャッキーも衝撃が走った。
だがそれ以上に、チェインは自分の両親を知って頭が真っ白になった。
イオレクは大きくため息をつくと、両手を擦り合わせてから拭うように顔を覆った。
「この際だ、全てを話そう。国王も、今の国の現状を鑑みればそう目くじらも立てるまい」
立ち上がり、イオレクは戸棚から琥珀色の液体が入った瓶とグラスを出した。
「お前達もどうだ?」
「いえ、僕はお酒は当分いりません」
チェインが辞退すると、苦笑いを浮かべてジャッキーはグラスを受け取った。
グラスに少し注ぎ、ジャッキーとイオレクが軽くグラスをあわせた。
「チェイン、お前は間違いなく、バルハラーの子供だ。相手は、元魔王軍参謀アシェルミーナ。詳しい経緯は儂も聞いていないが、バルハラーが捕虜として捕らえたアシェルミーナを口説き落としたとは聞いた。まあ、その辺はどうでもいいだろう。お前にとっての問題は、お前が産まれた3年後にバルハラーが魔王を討ち取り。論功行賞の後にバルハラーが国王に謁見した際の会話だ。儂も側にいたからな、儂とバルハラー、それにアシェルミーナ、他にもあの戦争で名を立てた将軍が2名と宰相。この話しを知るのはそれくらいだ」
何かを琥珀の液体に探すようにクルクルとグラスを混ぜる、そしてグッと飲み干した。
アシェルミーナ。
チェインはその人物をよく覚えている、父バルハラーと一緒に過ごした6年の間に時折チェインに会いに来てくれた魔族の女性。
本当に優しくしてくれた、チェインはこの人が母親だったらどんなに良いだろうか思ったことは一度や二度ではない。
(そうか、あの人が母さんだったのか)
「バルハラーが、アシェルミーナを妻にすると国王に言った時、国王は表情を濁した。救国の英雄が魔族と結ばれては対外に印象が悪い、その後、バルハラーに国王の末娘との見合い話があったそうだ。それは国王の人気取りの策か、はたまた、バルハラーへの罪滅ぼしか。どちらかは知らん。だが、バルハラーはアシェルミーナが産んだお前と二人であの小屋のような家で幸せそうに暮らしていたよ。アシェルミーナはウェザーラ王国軍に入って忙しくしていた。二人はよく都内で会っていたから寂しそうでもなかったがな、幸せだったろう」
チェインは幸せだったと聞いて、胸が詰まる想いを感じた。
「お前が産まれた6年後、魔王軍の残当が集まり良からぬ空気が立ち上がった。それを静める為に行った和平交渉でバルハラーとアシェルミーナは命を落とした。二人は一緒に暮らせるように魔族とヒームの親善に奔走して、徐々に魔族とヒームが歩みより始めた頃だったな。そんな時に魔王軍の残当に暴れてもらっては不味かったんだ。またヒームと魔族の関係に亀裂が走る。だから戦争の英雄である二人が志願して行った、後悔している、あの二人は行かせてはならなかった」
チェインはなるほどと脳内で手を打った、和平交渉と聞いてたけど、なんで勇者と呼ばれる父が行ったのかと思っていた。そういう事だったのかと。
今の、魔族が普通にヒームと混ざって暮らしているのも父バルハラーと母アシェルミーナの頑張りがあってこそ。
それを想い、二人が本当に愛し合っていたんだと嬉しく思った。
「バルハラーの話しはこんなところだ、折角だから今度時間を作ってゆっくりと話そう、それよりその、魔王の娘というのが気になるな」
「はい、魔王の娘だという真偽は分かりませんが。恐らく元傭兵と繋がりがあり、なおかつ何か他にも思惑があるようです」
「で、あろうな。お前がバルハラーとアシェルミーナの子供だという事を知る人間、儂の思い当たる所では傭兵と繋がっているような輩はおらん。少し調べよう」
それはある程度の重要人物になる、そしてチェインに近付いて何か得がある人物か?
それとも利用価値があるのか。
チェインは思考を巡らせた。
「とりあえず、この話しは聞き入れた。その上で、チェイン、儂の孫娘を泣かせた罰は腕の一本で許してやろう」
(……………………え?)
チェインは思考が吹き飛び、文字通り目が点になった。
「ナニを呆けてる、まさか、無罪放免ですむと思っていたのか?」
椅子に腰かけていたイオレクがユラリと立ち上がる。
「その事なんですが。ふ、不能が治ったので、改めてエリシアに結婚をぜんてぃ」
最後まで言う前に、イオレクが剣を抜いた。
「きさまっ! まだ儂の孫娘を振り回すつもりかっ!! やはり腕では足りん、首を寄越せっ!」
剣を大上段に掲げている、首どころか、剣の軌道はチェインを真っ二つにするつもりのようだ。
「待ってください! やっと不能が治ったんです! お願いします、もう一度だけチャンスを下さい!」
チェインはまた下を向いて謝罪の礼を取る、頭の上の方で凄い鼻息が聞こえ、渾身の力で柄を握り締め上げる音も聞こえてきた。
チェインは冷や汗が止まらない、とんでもない殺気、冗談などではなく、本気の殺意だ。
「お願いします、僕はエリシアと結婚する為だけに大将軍を目指し、父を越える勇者を志しました。もう少しなんです、もう少しで……」
「お祖父様、俺からもお願いします。自分で薬を作り、果てには12神の加護まで得てチェインはその、"不能"を治そうとしていました。全ては姉さんと結ばれる為。治す事を諦めて、俺に全てを話した時は泣いていました。その時は勢い余って殴ってしまいましたが、チェインはその時、国を出る覚悟だったようです。本当に、自分ではどうしようもなくて追い詰められていたんでしょう。どうか、御再考を」
イオレクはゆっくりと振り上げていた剣をおろした。
「…………。エリシアは、父親が先の戦争で死んだ折、自分が家督を継ぐと言って儂に剣の教えを乞うた。その後もお前の万騎隊に入り儂から戦術を学び、夜遅くまで目録を読んでいた。いつか言っていた、「お祖父様、もしも私が家督を継がないと言えば怒りますか」とな。それはお前と一緒になることを想い、儂を想うエリシアの苦渋の決断じゃった。あの顔を思い出す度に儂は胸が痛む、この子になんと重い物を背負わせてしまったのかと。それ故に、儂はお前が心底憎い。憎くてたまらん。心しておけ、お前がもう一度エリシアに結婚を申し込むなら、エリシアを幸せにせねば斬る。エリシアがお前との結婚を断っても斬る。命を掛けて挑め」
「はい、必ず」
「それでっ、どういう沙汰だ? 返答次第では本気で斬るぞ、例えお前がバルハラーの息子でも関係ないっ! 心して話せっ」
凄まじい剣幕、チェインは唾をごくりと飲み込んで、唇を舐めてから口を開いた。すぐには言葉が出ない。
「……。はい、まずは、僕がエリシアに婚約破棄を言い渡した理由から話させて下さい。その、僕は"不能"だったんです」
「…………。"不能"?」
虚を突かれたイオレクは、素直に意味が分からないという表情になった。
「はい、"不能"です。子供が作れない、それでは結婚出来ない。そう思い、婚約破棄を言い渡しました。言った状況が悪かったのは重々承知しております。言い訳ですが、あの時は僕も精神的にかなり追い詰められていました。今は後悔しかありません、それに、エリシアには自分が"不能"だとどうしても言えず。重ねて謝罪致します」
「それで、"不能"だったという事は治ったという事か?」
イオレクがチェインの言葉尻を掴む。
「はい、それでお聞きしたいことが。ある人物から、僕は勇者バルハラーの実子であり、母親は魔王軍に所属した魔族と聞きました。この事に関して、イオレク将軍は何かご存じでしょうか?」
チェインの言葉に、イオレクおじさんは息を飲んだ。
その反応にチェインにとって未だ半信半疑だったその話しに、現実味が押し寄せた。
(……、まさか本当に?)
チェインは期待に胸が膨らむ。
「……。誰から聞いた?」
「自分を魔王の娘だと名乗る、アドラーナという少女です。魔族の特徴を持ち、年の頃は10代の半ばです。本人は17才だと言っていました」
「そうか、そうか……。その話しを信じる根拠はあったのか」
「はい、魔族の男は皆"不能"だそうです。女が気に入った男に|誘惑(チャーム)なる魔法を掛け、結ばれるんだとか。アドラーナは私の名前と加護を受ける神の名を聞いて私が"不能"である事を言い当てました。イオレクおじさん、僕が、僕の父について何かご存じ何ですか?」
「…………。魔族がみな"不能"とはな、そういえば。思い当たる節がないでもない。魔族の女がヒームの男と結ばれたという話はたまに聞くが。魔族の男とヒームの女というのはそう聞かない」
イオレクは顎髭を手でいじくり、沈痛な面持ちで考え込んだ。
「バルハラーが死んで、どうしたものかと思っていたが……。こんな形で話が伝わるとはなぁ」
「じゃあ、本当に僕は?」
「確かに、お前はバルハラーの実子じゃ。知っているのは儂と、国王、他にも数人いたが皆死んだ」
国王という名に、チェインもジャッキーも衝撃が走った。
だがそれ以上に、チェインは自分の両親を知って頭が真っ白になった。
イオレクは大きくため息をつくと、両手を擦り合わせてから拭うように顔を覆った。
「この際だ、全てを話そう。国王も、今の国の現状を鑑みればそう目くじらも立てるまい」
立ち上がり、イオレクは戸棚から琥珀色の液体が入った瓶とグラスを出した。
「お前達もどうだ?」
「いえ、僕はお酒は当分いりません」
チェインが辞退すると、苦笑いを浮かべてジャッキーはグラスを受け取った。
グラスに少し注ぎ、ジャッキーとイオレクが軽くグラスをあわせた。
「チェイン、お前は間違いなく、バルハラーの子供だ。相手は、元魔王軍参謀アシェルミーナ。詳しい経緯は儂も聞いていないが、バルハラーが捕虜として捕らえたアシェルミーナを口説き落としたとは聞いた。まあ、その辺はどうでもいいだろう。お前にとっての問題は、お前が産まれた3年後にバルハラーが魔王を討ち取り。論功行賞の後にバルハラーが国王に謁見した際の会話だ。儂も側にいたからな、儂とバルハラー、それにアシェルミーナ、他にもあの戦争で名を立てた将軍が2名と宰相。この話しを知るのはそれくらいだ」
何かを琥珀の液体に探すようにクルクルとグラスを混ぜる、そしてグッと飲み干した。
アシェルミーナ。
チェインはその人物をよく覚えている、父バルハラーと一緒に過ごした6年の間に時折チェインに会いに来てくれた魔族の女性。
本当に優しくしてくれた、チェインはこの人が母親だったらどんなに良いだろうか思ったことは一度や二度ではない。
(そうか、あの人が母さんだったのか)
「バルハラーが、アシェルミーナを妻にすると国王に言った時、国王は表情を濁した。救国の英雄が魔族と結ばれては対外に印象が悪い、その後、バルハラーに国王の末娘との見合い話があったそうだ。それは国王の人気取りの策か、はたまた、バルハラーへの罪滅ぼしか。どちらかは知らん。だが、バルハラーはアシェルミーナが産んだお前と二人であの小屋のような家で幸せそうに暮らしていたよ。アシェルミーナはウェザーラ王国軍に入って忙しくしていた。二人はよく都内で会っていたから寂しそうでもなかったがな、幸せだったろう」
チェインは幸せだったと聞いて、胸が詰まる想いを感じた。
「お前が産まれた6年後、魔王軍の残当が集まり良からぬ空気が立ち上がった。それを静める為に行った和平交渉でバルハラーとアシェルミーナは命を落とした。二人は一緒に暮らせるように魔族とヒームの親善に奔走して、徐々に魔族とヒームが歩みより始めた頃だったな。そんな時に魔王軍の残当に暴れてもらっては不味かったんだ。またヒームと魔族の関係に亀裂が走る。だから戦争の英雄である二人が志願して行った、後悔している、あの二人は行かせてはならなかった」
チェインはなるほどと脳内で手を打った、和平交渉と聞いてたけど、なんで勇者と呼ばれる父が行ったのかと思っていた。そういう事だったのかと。
今の、魔族が普通にヒームと混ざって暮らしているのも父バルハラーと母アシェルミーナの頑張りがあってこそ。
それを想い、二人が本当に愛し合っていたんだと嬉しく思った。
「バルハラーの話しはこんなところだ、折角だから今度時間を作ってゆっくりと話そう、それよりその、魔王の娘というのが気になるな」
「はい、魔王の娘だという真偽は分かりませんが。恐らく元傭兵と繋がりがあり、なおかつ何か他にも思惑があるようです」
「で、あろうな。お前がバルハラーとアシェルミーナの子供だという事を知る人間、儂の思い当たる所では傭兵と繋がっているような輩はおらん。少し調べよう」
それはある程度の重要人物になる、そしてチェインに近付いて何か得がある人物か?
それとも利用価値があるのか。
チェインは思考を巡らせた。
「とりあえず、この話しは聞き入れた。その上で、チェイン、儂の孫娘を泣かせた罰は腕の一本で許してやろう」
(……………………え?)
チェインは思考が吹き飛び、文字通り目が点になった。
「ナニを呆けてる、まさか、無罪放免ですむと思っていたのか?」
椅子に腰かけていたイオレクがユラリと立ち上がる。
「その事なんですが。ふ、不能が治ったので、改めてエリシアに結婚をぜんてぃ」
最後まで言う前に、イオレクが剣を抜いた。
「きさまっ! まだ儂の孫娘を振り回すつもりかっ!! やはり腕では足りん、首を寄越せっ!」
剣を大上段に掲げている、首どころか、剣の軌道はチェインを真っ二つにするつもりのようだ。
「待ってください! やっと不能が治ったんです! お願いします、もう一度だけチャンスを下さい!」
チェインはまた下を向いて謝罪の礼を取る、頭の上の方で凄い鼻息が聞こえ、渾身の力で柄を握り締め上げる音も聞こえてきた。
チェインは冷や汗が止まらない、とんでもない殺気、冗談などではなく、本気の殺意だ。
「お願いします、僕はエリシアと結婚する為だけに大将軍を目指し、父を越える勇者を志しました。もう少しなんです、もう少しで……」
「お祖父様、俺からもお願いします。自分で薬を作り、果てには12神の加護まで得てチェインはその、"不能"を治そうとしていました。全ては姉さんと結ばれる為。治す事を諦めて、俺に全てを話した時は泣いていました。その時は勢い余って殴ってしまいましたが、チェインはその時、国を出る覚悟だったようです。本当に、自分ではどうしようもなくて追い詰められていたんでしょう。どうか、御再考を」
イオレクはゆっくりと振り上げていた剣をおろした。
「…………。エリシアは、父親が先の戦争で死んだ折、自分が家督を継ぐと言って儂に剣の教えを乞うた。その後もお前の万騎隊に入り儂から戦術を学び、夜遅くまで目録を読んでいた。いつか言っていた、「お祖父様、もしも私が家督を継がないと言えば怒りますか」とな。それはお前と一緒になることを想い、儂を想うエリシアの苦渋の決断じゃった。あの顔を思い出す度に儂は胸が痛む、この子になんと重い物を背負わせてしまったのかと。それ故に、儂はお前が心底憎い。憎くてたまらん。心しておけ、お前がもう一度エリシアに結婚を申し込むなら、エリシアを幸せにせねば斬る。エリシアがお前との結婚を断っても斬る。命を掛けて挑め」
「はい、必ず」
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