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街はずれの空き地に目深に帽子を被り、口元にバンダナを巻いているひとりの男が佇んでいた。
一目で堅気ではない――何かを成そうとする男だと分かる。
「……こんなところに呼び出しとはね。何者なのかな、あなたは」
葬儀へ参列するため、診療所を閉めたことによって相応の格好をする必要があるだろうと、鹿島は喪服姿で『そこ』を訪れた。
「名乗るほどの者じゃない。ただ、あんたの悪事の所為で苦しむ人々がいる。それを終わらせたい」
「……? 悪事? ということは、昨日屋根裏に忍び込んだネズミはおまえだったのか?」
善人の表情を歪め、鹿島は眉間に皺を刻んだ。
それと共に口調も悪人のそれへと変貌しているようだ。
「さあ、どうだろう。仮にネズミが忍び込まなかったとしても、いずれは別の――イタチなり、ハクビシンなりが忍び込むだろうな」
「何が狙いだ? 金か? ……まさか、華族の地位というわけでもあるまい?」
「いや。あくどい方法で儲けているのなら、相当恨みは買っている筈。いずれにせよ、あんたはいつか討たれる」
レオンが鹿島に銃を向けた。
「物騒だな、いきなり。――被検体の身内というわけでもなさそうだが……?」
「本当に物騒なら、狙撃でもなんでもやって亡き者にしている。あんたは医師だ。人の命を救うことが出来る。だからこそ、訊きたい」
「訊きたい? 何をだ? 救うべき命は華族に限ることであって、庶民の命はその糧である、ということをか?」
「………」
――やはり、どうしようもない輩ということか。悩むまでもなかったと……。
レオンはこんな状況にも関わらず、建前を口にせずに挑発するような発言をする鹿島を少々脅威に感じた。
「医者に武力はないと睨んでいるのかも知れないがね、何の手立てもなく、こんなことに応じるわけがない。そうは思わないか?」
笑みを称えたままそう発言すると、懐から何かしらの液体が入った瓶を取り出した。
「こいつの威力は絶大だ。仮に、私を撃ったらまず、大爆発は逃れられないだろう。それでも撃つかね?」
――爆薬か……? 衝撃を受けて爆発するタイプ、ということか?
レオンが息を呑み、銃を下ろしたのを見ると、鹿島が片側の口角を大きく上げた。
「君が相打ちを覚悟したテロリストのような輩ではなく、話の通じる手合いだったことに安心したよ。でなければ、今頃は互いに木っ端微塵だ」
「……鹿島柴三郎、ひとつ忠告しておきたいことがある」
「忠告? 私と対峙しようとしたところで勝負は見えている。悪あがきはよしたまえ。こちらは強力な武器を持っている上に……優秀な用心棒も雇っていてね。遠くから君を狙っている」
鹿島が意味ありげな笑みを浮かべ、自身の背後に視線を向けた。
眉間に皺を刻み、レオンが俯いた。
「確かに、この場では俺に勝ち目はなさそうだ。だが、今朝、院長室であんたが口にした珈琲――あれがただの珈琲ならば、という話だが」
「……なに……?」
何故、この男は自分が今朝珈琲を口にしたことを知っているのか……?
その言葉に反応してしまったが、今朝のそれは日ごろから飲みなれた味に相違なかった。
何か混ざっていたとしたら、違和感を覚えている筈――。
「味覚には影響を及ぼすことのない、遅効性の毒が仕込んであった。服用してから二十四時間。おそらく、効いてくるとしたら、明日の朝だ」
男の口調や態度からは、感情が読み取れない。
「何を言い出すかと思えば、ハッタリか。苦し紛れにそんな子ども騙しな手が通じると――」
「何を根拠にハッタリだと言い切れる? それがハッタリだとしたら、あんたの発言もハッタリだ。そのニトログリセリンは医療用の……心臓病専用のものだろう――爆破を引き起こす危険のないものだ。用心棒に関しては本物だったようだが、先手を打った――周囲の者たちは全員、夢の中だ。そんなわけで俺は迷いなく引き金を引く」
振り返ると、叢に倒れて痙攣する複数人の男の姿が目に入った。
「まっ……待て!」
先ほどまで余裕だった笑みを崩し、両手を挙げた鹿島が叫んだ。
「本当に、何が狙いだ? 私を殺して何の得がある? そ、そうだ。私が君を雇おう。あ、あいつらの倍額は出す。それに遅効性の毒の話が本当なら、解毒剤を買おうじゃないか。い、いくら必要だ?」
「残念だが、金の問題じゃない」
と、レオンが言ったところで、ざざっと草陰から音が立った。
「――⁉」
ぞわりと鹿島の鳥肌が立っていた。
「うおおおおお、死ねええ」という声と共に、粗末な衣服に身を包んだ男が姿を現し、刃物で鹿島の背中を斬り付けてきた。
この件の依頼人である、十一である。
「なっ……⁉ 庶民風情が……何をっ……っ」
「何が庶民風情だ。俺の娘を……っ……実験台にしやがった、腐れ医者が!」
「おっ、おまえたちクズ共の命を役立ててやろうというのだ……。分相応の扱いをしたまでだ」
「何が分相応だ。人の命をなんだと思ってやがる!」
何度か斬り付け――めった刺しにしてやろうという殺意を持つ男に「もうよせ」とレオンは言った。
「か、敵を、俺の娘の人生を無茶苦茶にして、庶民たちの命を弄んだ……こいつの全身を切り刻んでやっても気が済まねえ――」
「だから、あんたがそこまでするような価値のない男だ。ただ身体に傷をつけてやったのか、とどめを刺したかによって、あんたが背負う重荷ってのは変わってくる」
「だが――」
「ひと想いに殺したとして、気は済むか? ここで今、鹿島が命を落としたとしても、奴が命を軽く扱った清算なんてできやしないだろう。何も残らない。ただ、あんたがひとを殺めた十字架を背負っていかなくてはならなくなる――一時的に気は晴れるかもしれないがな」
「………」
「っ……助けてくれぇえ~」
十一が思いっきり斬りつけたように見えたが、やはり躊躇いがあったようで、致命傷を負わせられていない。
這いずり回る鹿島の肩から背中にかけて、また腕からも流血しているが、さほど深い傷ではなさそうだった。
――このまま放っておいて、失血死する可能性もなくはないだろう……が、動けないのならともかく……このまま命を落とすほどの傷だとは思えない。だから――
「だれか、だれかぁあ~」
人通りなどほとんど期待できない場所で助けを呼んでも意味はないだろう。
が、鹿島は叫び声をあげていた。
「や、やっぱりとどめを――」
「いい、そんなことよりあんたが誰かに見つかると厄介だ。早くこの場から立ち去った方がいい」
「しかし……」
十一の身体はガクガクと恐怖に震えていた。
立っているのがやっとといった様子で、今にも崩れ落ちそうだ。
――やはり、いくら恨みがあったとしても、人を傷つけることに慣れていない。まあ、一般人はそんなものだな……。ここは、依頼人のケアの方が重要か。
「行くぞ」
「うぁああ、な、なにを」
「早く!」
レオンは小柄な体格の十一を強引に背負いあげると、空き地から走り去った。
珈琲に毒薬など仕込んでいない――あとで自分が仕留めるつもりで。
一目で堅気ではない――何かを成そうとする男だと分かる。
「……こんなところに呼び出しとはね。何者なのかな、あなたは」
葬儀へ参列するため、診療所を閉めたことによって相応の格好をする必要があるだろうと、鹿島は喪服姿で『そこ』を訪れた。
「名乗るほどの者じゃない。ただ、あんたの悪事の所為で苦しむ人々がいる。それを終わらせたい」
「……? 悪事? ということは、昨日屋根裏に忍び込んだネズミはおまえだったのか?」
善人の表情を歪め、鹿島は眉間に皺を刻んだ。
それと共に口調も悪人のそれへと変貌しているようだ。
「さあ、どうだろう。仮にネズミが忍び込まなかったとしても、いずれは別の――イタチなり、ハクビシンなりが忍び込むだろうな」
「何が狙いだ? 金か? ……まさか、華族の地位というわけでもあるまい?」
「いや。あくどい方法で儲けているのなら、相当恨みは買っている筈。いずれにせよ、あんたはいつか討たれる」
レオンが鹿島に銃を向けた。
「物騒だな、いきなり。――被検体の身内というわけでもなさそうだが……?」
「本当に物騒なら、狙撃でもなんでもやって亡き者にしている。あんたは医師だ。人の命を救うことが出来る。だからこそ、訊きたい」
「訊きたい? 何をだ? 救うべき命は華族に限ることであって、庶民の命はその糧である、ということをか?」
「………」
――やはり、どうしようもない輩ということか。悩むまでもなかったと……。
レオンはこんな状況にも関わらず、建前を口にせずに挑発するような発言をする鹿島を少々脅威に感じた。
「医者に武力はないと睨んでいるのかも知れないがね、何の手立てもなく、こんなことに応じるわけがない。そうは思わないか?」
笑みを称えたままそう発言すると、懐から何かしらの液体が入った瓶を取り出した。
「こいつの威力は絶大だ。仮に、私を撃ったらまず、大爆発は逃れられないだろう。それでも撃つかね?」
――爆薬か……? 衝撃を受けて爆発するタイプ、ということか?
レオンが息を呑み、銃を下ろしたのを見ると、鹿島が片側の口角を大きく上げた。
「君が相打ちを覚悟したテロリストのような輩ではなく、話の通じる手合いだったことに安心したよ。でなければ、今頃は互いに木っ端微塵だ」
「……鹿島柴三郎、ひとつ忠告しておきたいことがある」
「忠告? 私と対峙しようとしたところで勝負は見えている。悪あがきはよしたまえ。こちらは強力な武器を持っている上に……優秀な用心棒も雇っていてね。遠くから君を狙っている」
鹿島が意味ありげな笑みを浮かべ、自身の背後に視線を向けた。
眉間に皺を刻み、レオンが俯いた。
「確かに、この場では俺に勝ち目はなさそうだ。だが、今朝、院長室であんたが口にした珈琲――あれがただの珈琲ならば、という話だが」
「……なに……?」
何故、この男は自分が今朝珈琲を口にしたことを知っているのか……?
その言葉に反応してしまったが、今朝のそれは日ごろから飲みなれた味に相違なかった。
何か混ざっていたとしたら、違和感を覚えている筈――。
「味覚には影響を及ぼすことのない、遅効性の毒が仕込んであった。服用してから二十四時間。おそらく、効いてくるとしたら、明日の朝だ」
男の口調や態度からは、感情が読み取れない。
「何を言い出すかと思えば、ハッタリか。苦し紛れにそんな子ども騙しな手が通じると――」
「何を根拠にハッタリだと言い切れる? それがハッタリだとしたら、あんたの発言もハッタリだ。そのニトログリセリンは医療用の……心臓病専用のものだろう――爆破を引き起こす危険のないものだ。用心棒に関しては本物だったようだが、先手を打った――周囲の者たちは全員、夢の中だ。そんなわけで俺は迷いなく引き金を引く」
振り返ると、叢に倒れて痙攣する複数人の男の姿が目に入った。
「まっ……待て!」
先ほどまで余裕だった笑みを崩し、両手を挙げた鹿島が叫んだ。
「本当に、何が狙いだ? 私を殺して何の得がある? そ、そうだ。私が君を雇おう。あ、あいつらの倍額は出す。それに遅効性の毒の話が本当なら、解毒剤を買おうじゃないか。い、いくら必要だ?」
「残念だが、金の問題じゃない」
と、レオンが言ったところで、ざざっと草陰から音が立った。
「――⁉」
ぞわりと鹿島の鳥肌が立っていた。
「うおおおおお、死ねええ」という声と共に、粗末な衣服に身を包んだ男が姿を現し、刃物で鹿島の背中を斬り付けてきた。
この件の依頼人である、十一である。
「なっ……⁉ 庶民風情が……何をっ……っ」
「何が庶民風情だ。俺の娘を……っ……実験台にしやがった、腐れ医者が!」
「おっ、おまえたちクズ共の命を役立ててやろうというのだ……。分相応の扱いをしたまでだ」
「何が分相応だ。人の命をなんだと思ってやがる!」
何度か斬り付け――めった刺しにしてやろうという殺意を持つ男に「もうよせ」とレオンは言った。
「か、敵を、俺の娘の人生を無茶苦茶にして、庶民たちの命を弄んだ……こいつの全身を切り刻んでやっても気が済まねえ――」
「だから、あんたがそこまでするような価値のない男だ。ただ身体に傷をつけてやったのか、とどめを刺したかによって、あんたが背負う重荷ってのは変わってくる」
「だが――」
「ひと想いに殺したとして、気は済むか? ここで今、鹿島が命を落としたとしても、奴が命を軽く扱った清算なんてできやしないだろう。何も残らない。ただ、あんたがひとを殺めた十字架を背負っていかなくてはならなくなる――一時的に気は晴れるかもしれないがな」
「………」
「っ……助けてくれぇえ~」
十一が思いっきり斬りつけたように見えたが、やはり躊躇いがあったようで、致命傷を負わせられていない。
這いずり回る鹿島の肩から背中にかけて、また腕からも流血しているが、さほど深い傷ではなさそうだった。
――このまま放っておいて、失血死する可能性もなくはないだろう……が、動けないのならともかく……このまま命を落とすほどの傷だとは思えない。だから――
「だれか、だれかぁあ~」
人通りなどほとんど期待できない場所で助けを呼んでも意味はないだろう。
が、鹿島は叫び声をあげていた。
「や、やっぱりとどめを――」
「いい、そんなことよりあんたが誰かに見つかると厄介だ。早くこの場から立ち去った方がいい」
「しかし……」
十一の身体はガクガクと恐怖に震えていた。
立っているのがやっとといった様子で、今にも崩れ落ちそうだ。
――やはり、いくら恨みがあったとしても、人を傷つけることに慣れていない。まあ、一般人はそんなものだな……。ここは、依頼人のケアの方が重要か。
「行くぞ」
「うぁああ、な、なにを」
「早く!」
レオンは小柄な体格の十一を強引に背負いあげると、空き地から走り去った。
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