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店の奥、ちょっとした土間のようなところまで案内したジョセフは、端に寄せてあったひざ下の高さ程度の丸太を差し出し、百合亜をそこへ腰かけるよう促す。
「まあ、座り心地がいいとは言えねえけど、立ち話もなんだし」
自分も丸太椅子を引き寄せ、腰を下ろす。
「はい、遠慮なく」
粗末な椅子だと嫌そうな顔をせずに腰を下ろす、気取った様子のないことで、さらに好感を覚えたように、ジョセフが笑みを漏らした。
「言うまでもねえだろうけど、念のためだ。――このことは他言無用で頼む」
「ええ。ところで、千蔵さまは何をなそうとなさっていますの?」
鹿島柴三郎の動向を探るだけでは、伝わりづらいだろうか。
だが、それをハッキリ言うのも憚られる。
「清掃人だの安眠屋だのって言葉から想像してくれとしか言えねえな。ただ――」
「悪事を働いているのは鹿島先生」
百合亜はジョセフの台詞を引き取るように強い口調で言った。
「………」
「ですから、千蔵さまは正義の味方、なのでしょう? 悪の使者を成敗する。そう考えれば辻褄が合いますわ」
憂いのない表情。
その反応も予想外だ。
「随分、ポジティブな思考だな」
見透かしたような台詞に驚きつつも、ジョセフは華族の人間も満更捨てたもんじゃない、と浮き立つような気分になった。
「わたし、千蔵さまを信じておりますから。わたし、陰から彼を支えます」
「まったく、思った以上に理想通りのお嬢で参ったよ。似合いすぎてて怖えな」
「最高の誉め言葉を、ありがたく頂戴致しますわ。この件に関して……また、続報を聞きに伺っても――?」
完全に関係者となったつもりなのか、百合亜が訊いた。
ジョセフが呆れたように肩をすくめる。
「ただし、千蔵くんの居ないときにな。あんたにあんなことさせたなんて知られたら、俺がヤツに安眠させられちまう」
「もちろん。秘密にします。千蔵さまのことは影から見守りますわ。わたしがこのことに関与しているということは、わたしとジョセフさん、そしてマチルダさんとの秘密ですわね」
百合亜は愉快そうにふふ、と笑った。
「まあ……な」
楽しそうな百合亜を前に、ジョセフは胸中複雑だった。
――ったく、レオンに対して抱えなくてもいい秘密を抱えちまったってことか。こりゃ、結構キツいぜ……。
「話はこれくらいにしとくか。噂をすれば影なんつ~こともあるし、千蔵くんがやってこねえとも限らねえし」
「そ、うですね。さすがにわたしも夜通し外出しているというわけにもいきませんから」
腕時計を一瞥すると、やはり殿方とふたりきり――ということに対する警戒心も生まれたのか、百合亜は席を立った。
「まあ、座り心地がいいとは言えねえけど、立ち話もなんだし」
自分も丸太椅子を引き寄せ、腰を下ろす。
「はい、遠慮なく」
粗末な椅子だと嫌そうな顔をせずに腰を下ろす、気取った様子のないことで、さらに好感を覚えたように、ジョセフが笑みを漏らした。
「言うまでもねえだろうけど、念のためだ。――このことは他言無用で頼む」
「ええ。ところで、千蔵さまは何をなそうとなさっていますの?」
鹿島柴三郎の動向を探るだけでは、伝わりづらいだろうか。
だが、それをハッキリ言うのも憚られる。
「清掃人だの安眠屋だのって言葉から想像してくれとしか言えねえな。ただ――」
「悪事を働いているのは鹿島先生」
百合亜はジョセフの台詞を引き取るように強い口調で言った。
「………」
「ですから、千蔵さまは正義の味方、なのでしょう? 悪の使者を成敗する。そう考えれば辻褄が合いますわ」
憂いのない表情。
その反応も予想外だ。
「随分、ポジティブな思考だな」
見透かしたような台詞に驚きつつも、ジョセフは華族の人間も満更捨てたもんじゃない、と浮き立つような気分になった。
「わたし、千蔵さまを信じておりますから。わたし、陰から彼を支えます」
「まったく、思った以上に理想通りのお嬢で参ったよ。似合いすぎてて怖えな」
「最高の誉め言葉を、ありがたく頂戴致しますわ。この件に関して……また、続報を聞きに伺っても――?」
完全に関係者となったつもりなのか、百合亜が訊いた。
ジョセフが呆れたように肩をすくめる。
「ただし、千蔵くんの居ないときにな。あんたにあんなことさせたなんて知られたら、俺がヤツに安眠させられちまう」
「もちろん。秘密にします。千蔵さまのことは影から見守りますわ。わたしがこのことに関与しているということは、わたしとジョセフさん、そしてマチルダさんとの秘密ですわね」
百合亜は愉快そうにふふ、と笑った。
「まあ……な」
楽しそうな百合亜を前に、ジョセフは胸中複雑だった。
――ったく、レオンに対して抱えなくてもいい秘密を抱えちまったってことか。こりゃ、結構キツいぜ……。
「話はこれくらいにしとくか。噂をすれば影なんつ~こともあるし、千蔵くんがやってこねえとも限らねえし」
「そ、うですね。さすがにわたしも夜通し外出しているというわけにもいきませんから」
腕時計を一瞥すると、やはり殿方とふたりきり――ということに対する警戒心も生まれたのか、百合亜は席を立った。
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