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お嬢様の誕生日

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「私の誕生日・・・・ですか?」
 最近は教室内でも普通に会話をするようになった青崎と俺は休憩時間に青崎の席に行き会話をしていた。
 読んでいた本を閉じた青崎は、俺の質問を復唱する。

「うん、そう言えば聞いていなかったなぁと思ってさ」
 先週、香織の誕生日を祝い、最近仲が深まってきていた青崎の誕生日を把握していない事に気付いた。
 俺はどちらかと言えば一人でも多くの人にお祝いをして欲しいタイプなので、未だに家庭環境が原因でクラスで孤立している青崎の誕生日を祝い、さらに仲良くなれるように聞いてみた。

「えっと・・・その」
 両手の指を合わせては離し、目を泳がせる青崎。
 このパターンはアレだな・・・・
 ラブコメ漫画でよく見る【誕生日が直近過ぎる】と言うやつだな。
 誕生日をヒロインに聞くシーンは大体次の日か聞いた週の週末、つまり期間が短くて即席のものしか用意できないアレ!!

 だがしかし!数々のラブコメ漫画を読んできた俺に抜かりはない。
 昨日調べた女の子が喜ぶプレゼント!
 バイトで貯めていたお金!

 明日だろうが今週末だろうが対応し、青崎の誕生日を祝ってやる!
 さぁ言え!青崎!!
 お前の誕生日はいつだぁぁ!!

「昨日・・・・でした・・・・」
 終っとるがなぁ!!!!!!
 俺は背面飛びで背後に吹き飛びそうな体を何とか両足で踏ん張った。

 これは想定外だ・・・この場合はどうすれば良い?
 と、とりあえず。

「えぇ!?そ、それはごめん!」
「ど、どうして赤城君が謝るのですか!?」
「いや、だって昨日も一緒に居たのに・・・・”おめでとう”を言えなかったから」
 昨日も今日と同じようにくだらない会話をしては席に戻り、下校した。

「それは、私が教えていなかった事が原因ですので・・・・」
「いや、でもなぁ・・・・」
 これはダサすぎる・・・・
 友達としてお祝いできれば、もう少し仲良くなれると思ったが万事休す。

「フフフ、やはり赤城君は素敵な方ですね」
 頭を抱えていると青崎はクスっと笑った。
 俺は笑っている青崎の顔を確認した時に彼女と目が合ってしまう。

「素敵?俺が?」
 先日幼馴染を怒らせてしまった俺が?

「えぇ、私の為に色々考えて、悩んでくださる」
「素敵ですよ。ありがとうございます」
 またニコッと笑い微笑む。

 突然そう言う表情をするのは止めて欲しい。
 ドキッとする・・・・
 青崎は顔も性格も良い女の子。俺が青崎と二人で会話していると嫉妬して怒ってくる人がいてもおかしくない程だ。
 彼女どこらか女の子と普段話す機会が無い事で俺には耐性が付いていない。
 あっ、香織は別ね。

「誕生日の件は気にしないでください」
「昨日、組の人たちに嫌と言うほど祝っていただきましたから」
 青崎は俯き声のトーンが下がった。

「す、すごそうだねヤクザのお嬢様の誕生日って」
「すごいなんてものじゃないですよ!」
 急に顔を近づけ話してくる。
 俺はあまりの急接近に一、二歩後ずさる。

「帰宅するや否や、千発近いクラッカーとシャンパンファイトでお出迎え・・・・」
「夕食は大広間で上座に座らさせられ、皆の視線を集めながらのお食事・・・・」
「誕生日プレゼントだけで私の自室は埋まりました・・・・」
 青崎は頭を抱えている。
 思っていた以上に凄まじいな、青龍会・・・・
 これが関東最大規模のヤクザ組織のお嬢様に送る誕生日か。

「そろそろお蔵の一つがプレゼントで一杯になりそうです・・・・」

 うん、無理・・・・・
 俺が考えていたプレゼントなんて二、三千円程度。
 スケールが違いすぎるわ。

「そ、そりゃまた凄いな」
「ですので気にしないでくださいね」
 またいつもの表情に戻り、微笑みかけてくれた・・・・けど。
 どこか沈んだ表情をしている気がした。


「じゃあさ、今度の週末に一緒に買い物にでも行かないか?」
「え?」
 表情は変わり、青崎はまた俺を見上げた。

「青崎さんと遊んだ事ってないし、妹・・・・みたいな子に”女心を分かるようになれ”って言われててさ」
「その・・・無理にとは言わないけど」
 誕生日はダメでも、買い物に行って遊べば仲も良くなるだろうし、美穂の言う女心も理解できるはず。
 俺は一石二鳥の計画を考え、伝えた。

「そのお買い物には橙山さんも来られるのですか?」
「香織?香織は日曜日はいつもバイトに行ってるから来ないぞ?」
 香織は基本的に週四日勤務。
 平日三日と日曜日、だから香織を誘っても断られるのを知っている。

「・・・・ます」
「ん?」
「行きます!!」
 机を勢いよく叩き、前かがみで俺にそう言ってくる青崎を前に俺はまた後ずさる・・・・
 急に来ないでくれって言おうかな。

「お、おう・・・了解、ありがとう」
 その言葉と共にチャイムが鳴り、俺はまた自分の席に着いた。



「はる、帰ろ~」
 授業が終わり、いつもの様に香織が教室にやって来た。

「またね、楓ちゃん」
「はい、橙山さんもまた明日」
 先日、香織に青崎の事を説明すると一瞬で仲良くなってしまった。
 女の子って本当に仲良くなる速度が速いよなぁ。
 今では手を振りあって別れの挨拶をするほどの関係に。

「では赤城さん、また週末はよろしくお願いしますね」
「うん、こちらこそ」
 俺にも手を振ってくれた青崎はいつもの様にお迎えの車へ向かった。

「週末って何!?」
「そ、それはまた後で話すから・・・・帰るぞ」
 急にこちらに振り返りそう尋ねてくる香織だったが、歩きながら説明する事にした。

 ◇

 青崎楓は下校中の車内で頬が緩んでいた。

 デート・・・・デート・・・・
 二人っきりでお出かけって事はデートだよね?
 赤城君から誘ってくれるなんて思ってもみなかったなぁ。

 お友達と遊ぶ事なんて初めてだし、緊張するけど・・・・赤城君だから心配ないかな。
 せっかく仲良くなった、香織ちゃん・・・・橙山さんともお出かけしたかったけど、アルバイトじゃあしょうがないよね。
 そんな風に窓の外を見ながら考えていると、運転席から声が聞こえてきた。

「お嬢、なんだか今日は嬉しそうですね」
「そ、そうかしら?」
「えぇ、お嬢が楽しそうで俺も嬉しいですよ」
「ふふ、それはありがとう」
 他愛のない会話だけどこの運転手含め、組の人達に週末の件を悟られるわけにはいかない・・・・
 間違いなく組総出で監視にくるはず・・・・

 赤城君との初デートの為にも何としても隠し通すのよ、私!

 ◇

「あんな告白しといて、もう浮気するきかぁ!!!」
「うげぇ!!」
 その言葉と共に香織の拳が俺の腹に直撃した!

 週末の事を説明した途端に香織の表情は変わり・・・・今に至る。

「こ、告白?浮気!?」
「お前、何言ってんの?」
 身に覚えの無い事を言われ、突然暴力を振るわれ混乱していた俺を前に香織は両手で顔を隠し、ため息をついた。

「はぁ・・・・もうやっぱり自覚無く言ってたんだね・・・・」
「少しでも期待した私が馬鹿だったよ」
「え?何の事?」
 そう質問をした俺を香織は睨みつけた。

「もういい、私その日はバイトだから付いて行けないけど、楓ちゃんに変な事したら・・・・」
「・・・・したら?」
 数秒の沈黙があった後、風が吹き、香織は口を開く。

「はる、あんた殺すわよ?」
「はい・・・・誓います・・・・・」
 今まで香織からは見た事も聞いた事ものないその目と声に体が震え、俺は夕日を背に通学路で正座をし、誓いを立てた。
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