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雑音

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「遥、高校にはもう慣れたか?」
 夕食のから揚げを頬張りながら、おっちゃんは俺に質問をしてきた。
 今日のメインはから揚げ、あとはご飯とお味噌汁・・・・男子高校生が喜びそうな献立だ。
 基本的に食事中の会話の進行役であるおっちゃんが自然な流れで始めてくれる。

「うん、高校の友達も何人かできたし」
「そうか、そうか!授業参観があれば俺が行くから遠慮なく言ってくれ!」
「高校に授業参観はないよ、おっちゃん」
「そうか?ワハハハ!」
 親が家に居ない俺を気遣って言ってくれてると思うのだが・・・・最近はマジなんじゃないかと思う事が増えた。

「お父さんうるさい・・・・」
「おぉ、すまんすまん」
 流石に騒がしいと感じたのか、目をつむり味わっていた美穂が横目で注意をした。
 ダイニングテーブルの上座におっちゃんが座り、俺と香織、お義母さんと美穂がそれぞれ隣同士で座り食事をしている。

「しかしそう言う美穂は今日は随分静かじゃないか」
「いつもは遥が来たら嬉しそうにしてるくせに」
 お酒交じりのおっちゃんの言葉に頬を赤らめる美穂は箸で掴んでいた唐揚げを落としてまう。
 今更なのかもしれないが、俺が来て喜んでくれているは素直にうれしい・・・・

「そ、そんな事ない!!」
「痛っ」
 否定する美穂は机の下の足をおっちゃん目掛けて伸ばし、蹴りつける。
 蹴りの勢いで机の上が少しガタンッと揺れた事でおっちゃんも美穂も落ち着いた。
 普段大人しい美穂が・・・・反抗期かな?

「静かと言えば、香織も今日は大人しいな」
「んっ・・・・」
 おっちゃんの言葉に俺は箸が止まる・・・・
 いつもなら・・・・
 《はる!そのおかず頂戴!!》とか《今日ね、はるが体育のハードル走で全部のハードル倒して走ってたの》と俺を馬鹿にしたりダルがらみをしてきたりと騒がしい奴なのだが・・・・俺のせいだな。
 脳裏に帰宅時の香織の顔がチラつく・・・・

「別に、十六年も生きてたら、こんな日もあるでしょ」
「そっかぁ・・・・あっ、もしかして!」
「恋の悩みか!?」
「ブフォッ!!」
「ちょっと遥、大丈夫?」
「うん、ちょっと咽ただけ。」
 冷めた口調でそう言うが、おっちゃんは間違ったとらえ方をし、自分でもわからないが何故か俺が咽てしまった。
 心配してお茶の入ったコップを渡してくれるおば・・・・お義母さん。
 タブーに触れなければ基本穏やかな人なのだが、そのギャップが余計に怖い・・・・

「なるほどなぁ、こりゃうかうかしてられないぞ?遥」
「え?なんで俺?」
「当然だろ、香織が他の男とくっ付いてもいいのか?」
「へ?」
 なんで俺?男っ気のない・・・・事もないか。たまに告白されてるみたいだし。
 ま、まぁ香織に彼氏が出来るのはめでたいと・・・・思う。

「俺としてはだな遥・・・・香織か美穂のどちらかとお前がくっ付いてくれると嬉しいなぁ!」
「ブッ!!」
「ちょっ!何言ってんのおっちゃん!!!」
「ガハハハ!」
 おっちゃんの発言に美穂までも咽てしまった。
 香織はともかく美穂は中学生だぞ?
 俺にとって妹みたいな大事な幼馴染って知ってるくせに・・・・・てか、簡単に娘を渡そうとするな。

「そうはならないでしょ・・・・」
 また冷め切った声でそう言った香織を皆が見つめた。

「はるはもう高校で好きな人見つけたんでしょ?」
「は!?はぁ!??」
 何も変わらないペースで香織は食事を続けるが、こっちは食事どころではない。
 確かに空気が凍った音が聞こえた。
 美穂なんて頬杖を突きながら俺を見てくる・・・・怖い!なんだそのゴミを見るような目は・・・・
 義母さんは微笑み、見守っているが・・・・・あんたまともなら助けてくれよ!!
 皿が跳ね上がるほどに机をドンッと拳で叩きつけたおっちゃんはと言うと・・・・

「おいコラ、それはホンマか?」
「なんじゃ?お前、香織か美穂だけじゃ不満やって言いたいんけ?」
「俺は一夫多妻制を認めた覚えはないぞ?遥!」
 まず国が認めてないよ!!
 てかその口調はなんだよ、おっちゃん!あんたはカタギだろうが!!

「ちょ!香織も言いっぱなしじゃなくて、ちゃんと訂正してくれよ!」
「私何か間違った事いった?」
「遥・・・・どうやら俺は、裕也ゆうやさんと秋穂あきほさんに謝らにゃいけないようだな」
「ちょ!おっちゃん、落ち着いて!!」
 父さんと母さんに”謝る”って・・・・あんた俺に何やる気だよ!
 まさかとは思うがそのバカでかい手で俺の額を絞める気じゃないだろうな・・・・
 一歩一歩こちらに近づいてくるおっちゃんの足音は威圧感のせいかズシズシと音を立て、家が揺れてるような?
 巨人が近くを歩いている・・・・そんな気がした。

「もう、あなたったら・・・・」
「香ほぅぅッ!」
 音を立てずに背後に回ったお義母さんの手刀がおっちゃんの首目掛けクリーンヒットした!
 おっちゃん泡拭いてんじゃん・・・・・
 このおば・・・・お義母さん、実は忍とか暗殺者だなんて言わないよな・・・・

「おとうさん、遥に会えてテンション上がっちゃったのね」
「今日はお酒のペースも普段の二倍くらい早かったよね」
 手刀を元に戻し、お皿を下げ始めるお義母さんと、気絶した父親に押し入れから取り出した布団をかける美穂。
 相変わらずの手際の良い作業を俺は食事を続けながら眺めていた。


「明日も学校があるし、そろそろお開きにしましょうか」
 そのお義母さんの言葉で携帯を確認すると。
 うわっ、もう21時回ってるよ・・・・帰ったらお風呂入って、明日の用意したら寝るか。

「そうだね、お義母さん今週もご馳走様」
「お粗末様でした」
「何度も言ってるけど週に一回じゃなくて、毎日でもいいからね。」
 皿洗いを終えたお義母さんがエプロンで手を拭きながら話を続けた。

「お父さんだけじゃない、香織も美穂も喜ぶから。もちろん私も」
「なっ!お母さん、私は喜んでない!」
 美穂はまた頬を赤らめ否定をする。
 俺は嫌われているのか?そういうお年頃なのか?
 まぁいいか、誘いは本当にありがたいけど。

「本当にありがたいんだけどね、俺の一人暮らしテクニックも上がるし、たまに食べた方がお義母さんのご飯がより一層美味しく感じるんだ」
「それはありがとう、いつでも来ていいからね」
「うん!」
 小恥ずかしい事を言ってしまったが、ほとんど本心だ。

「じゃあ香織、遥の事お家まで送ってきてちょうだい」
「なんで私が?」
「お義母さん、俺の家隣だよ?見送りなんてー」
「いいから行け」
 その笑顔と共に発せられた圧力のある言葉を前に俺たちは「はい・・・・」と返事をし、家を出た。


 気まずい・・・・
 家まで徒歩五秒・・・・かかっても十秒の道のはずが、普段より長く感じる。
 薄着で出てきた香織は俯いたまま俺の後ろを歩く。
 今謝るべきなのだろうが、切り出し方がわからない・・・・変な事を言って余計に不機嫌にしてしまったらと思うと。
 そう悩んでいると香織が口を開いた。

「ねぇ・・・・」
「ん?ど、どうした?」
 まさか香織から話しかけてくれるとは思っても見なかった為少し俺は動揺をしていた。

「はるにとって青崎さんはどんな人なの?」
「え、えっと・・・・その、クラスメイトで友達・・・・かな」
「じゃあ私は?はるにとって私はどんな人?」
「・・・・お、幼馴染」
「・・・・昔と変わらないんだね」
 結局何が言いたいのか分からなかったが、今も昔も香織は俺の幼馴染だ。
 夏とはいえ、夜は少し肌寒い。
 会話の間に吹く夜風で鳥肌が立ちそうだ。

「青崎さんはどう言う人なの?」
「どう言うって・・・・頭がよくて綺麗だけど、みんなから怖がられてる?」
「そう言うのじゃない・・・・」
「え?えっと・・・・」
「ヤクザの娘でみんなから怖がられてるけど本当はみんなと仲良くなりたくて、自分なりに人に良く見てもらえるように頑張って努力してる子で、でも努力仕方が分からなくて空回ってパニックになるおっちょこちょいな子なんだけど、本心は誰よりも人の事を考えられる優しい子で、そんな優しい青崎ががんばってる姿をみてると助けたくなって・・・・」
 あれ?俺何言ってんだ・・・・?
 俺は香織と仲直りしたいだけなのに・・・・

「後は時折見せるその焦った表情が、かわいー」
「もういい!!」
 二人の間に吹いた夜風はまるで俺の話を終わらせるかのように通り過ぎた。

「もういいって・・・・香織が聞いてきたんだろ?」
「・・・・ないよ」
「え?」
 俯いた顔を上げた香織の瞳から涙が溢れていた。

「聞きたくないよ!もう!!そんな言葉、はるの口から聞きたくないよ!!!!」
「どうして他の子だとスラスラ言葉が出てくるのに、私には何も言えないの!?」
「いつも私だけ扱いが雑なのはどうして!?私だって女の子なんだよ!!!」
「いや・・・・だって香織は、幼馴染・・・・だから」
 俺にとっては大事な幼馴染でそれ以上でも以下でもないと思っていた。

「また・・・”幼馴染”だから?」
「そうだよ、お前はたいせー」
「いつも!いつも!そう言って、はるは私を見ようともしない!」
「こんな気持ちになるんだったら、はると幼馴染になんてなりたくなかったよ!!!」
 その言葉の後に香織は自宅へ走り去って行った。

 * * * *

 あれからもう今日で五日目。
 何を言っても無視をされ、香織とはあの日以来、会話もしていない・・・・・
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