御霊探偵事務所

青井風太

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御霊探偵事務所(4)

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「そういや唯奈、お前学校は?まだ昼だぞ」
浮気調査を依頼した女性が帰った後、唯奈と神は来客用のせんべいを食べながら会話をしていた。

「今日はテストで午前中には学校終わるから午後には事務所に顔出すって私言いましたよね?」
「言ったっけ?」
この神め・・・あれだけ念押しして言ったにも関わらず、やっぱり忘れてたのね
怒りの言葉と拳をお見舞いしてやろうと思ったが今日はやる事がある。
せっかく午前中に学校が終ったんだ、こんな日こそ!

「まぁいいです。神様早く御霊祓いに行きましょう」
「お?なんだ唯奈、いつにもましてやる気だな」
普段は女の子が武器振り回すなんて!と言って嫌がるのだが今日はどこかやる気のようだ

「私思ったんです。御霊をすべて祓えば私はもう御霊祓いをしなくて済む。」
「つまり私は女子高生として青春を謳歌できるのです。」
「なるほど、確かにな。」
何故こんな単純すぎる事に今まで気づかなかったのだろう。
御霊を祓い終えれば私は自由!神様も人間の危機の元である御霊がいないのなら天界に帰れる。
まさにWIN・WIN!!
自身の失いかけていた青春を取り戻すため唯奈はやる気に満ち溢れていたのである。

「あ、そう言えば神様」
「御霊は後何体この世に存在しているのですか?」
「んーそうだな・・・」
御霊の数を把握しておかなければ1日のノルマがわからなくなってしまう。
ここは効率よく作戦を練って・・・・

「ざっと10万体くらいかな!」

”さようなら・・・・私の青春・・・・„

唯奈は心の中で少し涙を流し、そう思った・・・・・

「おーい唯奈さーん・・・・御霊祓い行かないんですか?」
「今日行っても明日行っても変わんないですよ」
10万・・・・10万・・・そう言葉を口の隙間からため息とともにこぼし、せんべいを無心で食べる。
事務所のソファーで力の抜けたその姿は動物園のパンダの様だった。

そんなやりとりをしていると事務所の扉からノックオンが聞こえた。
「す、すみません・・・・」
「はーい」
どうやらお客さんが来たようだ、ここはこの事務所の金銭問題を解決すべくしっかりとした接客を!
重い体を起こし唯奈は玄関へ向かう

声からも少しわかっていたが、玄関には10~12歳ほどの少女が立っていた

「お嬢ちゃんどうしたの?」
「何か困り事?」
目線を少女の高さに合わし、かがみながらそう質問をする唯奈

「・・・・・・」
目の前の少女はうつむいたまま、何かを話そうとはしない。
本当に何か困っているのかな?もしそうなら話しやすくしてあげないと・・・と思い唯奈は少女に向かい話をし始める。

「お嬢ちゃん、名前は?」
「ち、千咲・・・桃山千咲ももやまちさきです。」
「千咲ちゃんかぁ、私は神田唯奈。ここでアルバイト・・・お手伝いをしてるの」
薄紅色の様な髪の毛の少女はうつむいたままそう答える

うーんなかなか話そうとしないなぁ、いじめとかだったらどうしよう・・・
助けてあげたいけど勝手に他人が首を突っ込むのもどうなのかなぁ・・・・
などと様々な依頼もとい相談の想像をしていた唯奈の後ろから神が歩いてきた。

「お?お嬢ちゃん、どうした?」
「何か変なものでも見えるようになったか?」
「ちょ、神様・・いきなり御霊関係と決めて話を持っていかないでください。」
いくら御霊祓い以外の依頼をしたくないからと言ってこんな小さな子が御霊祓いの依頼なんて・・・

「わかるの!?」
あれぇ・・・?
読みが外れた唯奈。
神の言葉に食いついたように反応し、千咲は顔を上げた。

「あぁ、御霊の霊痕れいこんが右足首に見える」
「お嬢ちゃん、御霊に狙われてるぞ」
「御霊?」
神様がそう言うまで気付かなかったが、確かに千咲ちゃんの右足首には御霊が獲物を狙うときにつけるマーキング【霊痕】が手形の様についているのが見える。
千咲に御霊や神様について説明をし、事務所の机にて詳しい話を聞く事にした。

「パパとママが何かおかしいの・・・」
そう話を切り出した千咲
手と声は少し震え、ズボンをぎゅっと握っている。

「両親がおかしい?」
「うん、うまく言えないけど昨日から変で・・・・」
生きた人間に御霊が取り付いたのか?いや、そんな事例は天界でも聞いたことがない

「うーん、でもうちの両親もたまーに変な時ありますよ?」
「仕事で疲れてる時とか・・・」
唯奈は自身の両親の事を思い出しそう言ったが。

「ううん、そういう意味じゃなくて」
「ん?」
千咲は首を振り否定をした。

「パパとママは半年前に・・・死んでるの・・・・」
「え!?」
千咲の眼には涙が付いていた。

「しん・・・え・・・じゃ今千咲ちゃんの家にいる両親たちは?」
「それがわからなくて・・・怖くてここに来たの」
「警察に行ってもどこに行ってもこんな話信用してくれなくて・・・でも神・・様?はなにか知ってるみたいだったから・・・」
死人が生き返る?そんな事あるの?
神様は死者は皆、魂になってあの世・・・つまり天国に向かうって言っていたし。
唯奈がこの不可解な事について考えていると神が千咲に質問をした。

「嬢ちゃん最近何か嬢ちゃんにとって特別な日はあったかい?両親の事を強く思ったりした様な事は?」
「う、うん三日前に誕生日が・・・どうして?」
凡そおおよの想像はついていたが、この質問で確信した。

「やはりか・・・」
「どういう意味です?神様」
千咲の両親の事や誕生日の件、何もかも理解できていない唯奈はそう質問をした。

「嬢ちゃんの両親の魂は一人残した娘が心配であの世に行ききれずにいたんだ」
「だが嬢ちゃんが誕生日に両親を強く思う事で魂が嬢ちゃんの元に戻ろうとし、そこを霊界の御霊に喰われたんだろうな」
「そんな・・・千咲のせいで、パパとママが・・・」
最悪の一歩、いや二歩手前ってところか・・この子にとっては最悪に変わりはないが・・
とりあえずもう一つ確認しておく事がある。
そう考えると神は千咲に向かい再び質問をした。

「嬢ちゃん家には誰かいるのか?兄弟とか」
「兄弟はいないよ、千咲一人っ子だから。」
「あっでも家政婦の”原さん”が来てる日かも」
両親がこの子の前に現れたのが昨日なら、”定着”も時期に終わるはず・・・まずいな
少し冷や汗をかきそう考える神は唯奈に命令を出した。

「唯奈!今すぐ御霊祓いの準備をしろ!!」
「直ぐに嬢ちゃんの家に向かう!」
今はまだ御霊が喰った両親の魂に定着していないが、もし定着が完了してしまったら間違いなく家政婦は殺される
ゆっくりしている暇はなくなってしまった。

「ま、待ってよ!!」
「祓うって、殺すって事!?」
「確かにパパとママが変とは言ったけど、何も殺さなくてもいいじゃない!!」
今家にいるのは両親ではない事くらい小学生の千咲にも分かっているが偽物とはいえ両親の姿をした相手を殺すことに躊躇ちゅうちょのない子供はいない

「何とかならないの?神様なんでしょ?助けてください!お願いします!!!!!」
涙をながし震える手で神の服をつかみ訴えかけが神は首を横に振った。

「一度御霊に喰われたらもう元には戻らない」
「それにな、死んだ人間は生き返らない・・」
こんな幼い子供に対して残酷な事を言っている自覚はある、だがここで祓わず野放しにすれば被害が膨れ上がる。
それに最悪の可能性もある以上・・・・
神がそう考えている時

「もういい!!」
「あっ千咲ちゃん!!!」
千咲は事務所を飛び出してしまった。

「唯奈!すぐに追うぞ!」
「はい!!!」
そう返事をし、二人は千咲を追い駆け出した
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