46 / 113
第3章 少年期中編
第41話 それぞれの道
しおりを挟む
ジーナスの門を抜けて、外に飛び出した俺はすぐに上空へと舞い上がる。
目指すはシャーウッドの樹海。
速度を上げて飛んでいけば三時間程。
すでに昼をとうに過ぎ、あと二時間程で日が落ち始める。
夜になる前に辿り着きたかったが、着く頃には夜になっているだろう。
それでも、少しでも早く到着する為に速度を上げていく。
二時間ほど飛び続けていると少し速度が落ちてきた。
速度を上げるのはマナと体力の消耗が激しくなる。
マナ切れにはならないだろうが、昨日からまともに食事もとらず、少しの仮眠だけしか休んでいないこの身体は想像以上に消耗していた。
マナ変換で誤魔化しながらやってきたが、流石に疲れも出始めてきているようだ。
しかし、今はちんたら休んでる暇もない。
速度を少しだけ落とし、ローブのポケットからマナポーションを取り出して一気に飲み干す。
マナ回復の為というより、もはや栄養ドリンク代わりである。
急がないと、な……。
既に陽が傾きはじめてきている。
アネッサの事もどうにかしなければいけないし、タマにも盗賊の事を頼まなければ。
どちらもどうやって説得するかが決め兼ねているが、ゆっくり考える暇もない。
それに、会わないことには始まらない。
だからまずは一秒でも早く到着する事だ。
シャーウッドの樹海が見えて来る頃には既に陽が暮れていた。
辺りは闇に包まれているが、もう満月にほぼ近い赤く光った月が暗闇を妖しく照らし出している。
俺はゆっくり降り立ち、森へと歩き出す。
すると、近付く樹海からは何匹も何種類も魔物が飛び出してきた。
ゴブリンやオーク、ダークハウンドといった下位の魔物から、ポイズンサーペント、ブラッドウルフ、ハイオークといった中位の魔物も飛び出してくる。
何匹かはこちらに混乱しながらこちらに襲いかかってきたので礫の弾丸で頭を撃ち抜いたのだが、ほとんどの魔物は俺を無視して駆け出していく。
まるで、森の中のなにかから逃げるように。
森の中に入って突き進むと上位種でもあるオーガとも遭遇する。
コイツらは森から逃げ出すというより、何かに警戒し、殺気を放ち続けていた。
そんなオーガの視界に俺が入ると、瞬時に四匹襲いかかってきた。
地を駆け、風を切ってこちらに向かってきた四匹のオーガが一斉にそれぞれの得物を振り抜いてくる。
シンはソッと首からぶら下がる狼のペンダントを握り締める。
その直後、迫り来る四匹のオーガの胴体が前触れもなく切り裂かれた。
まるで、爪で引き裂かれたような傷跡を残して。
その傷は致命傷では無いのだが、いきなりの出来事に動揺するオーガ達。
その首を風を纏って駆け抜け、嵐丸の一閃が走ってその首を飛ばす。
たまに使うだけでは銀狼の矛のスキルレベルが上がっておらず、威力はまだ低く致命傷とはならない。
それでも上位の魔物を切り裂く力があるので、牽制や奇襲には十分有効である。
それからも森の奥へと進むにつれ、吹き荒れる魔力と凄まじい存在感を肌で感じ始める。
しかも、それが二つも存在するのだ。
二つの猛威がぶつかり合い、森全体を震わせている。
それは間違いなくタマとアネッサである。
二人は今、戦っている。
しかし、急に猛威と感じたその二つの存在が小さくなってしまった。
まさか……どちらかが倒れたのか!?
胸騒ぎがして俺は森を駆け抜ける。
すると、前方から近づいてくる気配を感じた。
この気配は……。
そして、俺は血まみれになったタマリウスに出会した。
「——ッ!!
なんで、てめぇがこんニャ所にいるニャッ!
こっちの盗賊はもう片付け終えたニャ」
忌々しげに言うタマリウス。
「別にお前の盗賊退治を加勢する為に来た訳じゃない。
アネッサ……狼人族の女の子と、さっきまでやり合っていたのはタマだろ?」
「相変わらず、ふざけた呼び方しやがって……。
……おめー、アネッサたんと知り合いかよ?」
アネッサたん?
お前もアネッサに対してふざけた呼び名を付けやがって。
ぶっ飛ばしたかったが、今はそれどころじゃない。
「アネッサと会ったんだな?
あいつは何処にいる?」
俺が問い詰めようと一歩踏み出すと、タマリウスは鋭い銀槍を構築して俺に向ける。
「……何の真似だ?」
俺がタマリウスをギロリと睨む。
しかしタマリウスもまたこちらを睨みつけて来る。
「あの娘に今、近付かせる訳ニャいかねぇよ。
今のアネッサたんの状態を分かってねぇのか?」
今のアネッサの状態だと?
「どういう事だ?
今日はまだブラッドムーンの夜じゃないだろ?」
その返答にタマリウスは溜息をついて答える。
「もうアネッサたんは半幻獣化しちまってるニャ。
だからこっから離れニャれるべきニャんだって事。
じゃねぇと死ぬぞ」
未だに槍を下ろさないタマリウス。
一歩でも踏み進もうとすれば、その切っ先が飛んできそうだ。
「……お前のその怪我は、アネッサにやられたのか?」
その問いかけにタマリウスは顔を歪める。
「……そうニャ。
そりゃあもうこっぴどくやられたニャ。
ともかく、ここでくっちゃべってる暇はニャい。
すぐに森から離れるニャ。
アネッサたんは誰も傷つけたくないみたいだニャ。
だから、離れるのがあの娘の為でもあるのニャ」
そう言って槍を下ろし、タマリウスは歩き出す。
しかし、すれ違いざまに俺は口を開く。
「悪いが断る。
俺はアネッサに会いに行く」
そう言った俺の首先に再度銀槍の刃が突きつけられる。
「チビ助、俺の話を聞いてたのかニャ?
おめーが行った所でどうにかニャるもんじゃねぇって言ってんだ」
俺はゆっくり振り返り、その銀槍の切っ先を掴む。
手が焼けるように熱くなり、直後燃え上がる。
しかし俺は手を放さない。
その行動にタマリウスが驚く。
「——ッ!
……チビ助……お前……っ」
俺は槍を燃え上がる手で掴んだまま、真っ直ぐにタマリウスを見つめる。
「アネッサは俺が必ず助け出す。
あの幻獣の苦しみから、抱えている恐怖から必ず解放させる。
それが、俺の今やるべき事だ」
睨み合う俺達。
すると、タマリウスの銀槍はゆっくりと下ろされ、消えていく。
同時に炎も消えたが、その火傷は消えはしなかった。
俺のスキルの自然治癒が急速にその怪我を治していく。
「……頑固者だニャ。
そして馬鹿だニャ。
おまけに命知らずたニャ」
タマリウスはそう言って背を向ける。
「オイラはもう行くニャ。
残るなら一人で残ればいいニャ」
そう吐き捨てるように言うタマリウス。
そんなタマリウスを俺は真剣な顔で見つめる。
「タマ、俺が会いに来たのはアネッサだけじゃなく、お前にも用があって会いに来たんだ」
「……いやいや、お前に会いに来られても全然嬉しくないニャ……」
うるせぇよ。
俺だってお前に頼らなくてはいけない状態になってるのは不本意だっつうの。
俺は黙ってスクロールを懐から取り出す。
それを見つめるタマリウス。
「……スクロール?
ニャんでそんニャもんをお前が持ってるだニャ」
「俺の攻め込んだ砦で、一人テレポートのスクロールを使われて取り逃がした奴がいる。
このスクロールは他の砦を攻めた人達が手に入れたものだ。
同じテレポートの力を持ってることから、行き先が同じ可能性が高い」
そこまで俺が言うと、何が言いたいのかはタマリウスも察する。
「……それをオイラに託したい、って話かニャ?」
睨んでくるタマリウス。
俺は迷い無く答える。
「そうだ。
明日の晩、盗賊達はジーナスを襲ってくる計画があるそうだ。
盗賊の計画を止める手立てがこの先にあるかもしれない。
お前の力を見込んで頼みたい。
タマリウス、力を貸してくれ」
俺は頭を下げる。
その姿を驚くように見つめるタマリウス。
しばらく静寂が二人を包み込むが、その沈黙をタマリウスの溜息が破る。
「……どこでいろんな情報を仕入れたのかは知らニャいけどニャァ……。
死にかけでボロボロの奴を捕まえて、また戦地に送り込もうとするとか、お前は鬼だニャ。
いや、悪魔だニャッ!」
そう言い放ってくるタマリウス。
思わず俺が頭を上げると、タマリウスはやれやれと首を振っていた。
そして真顔になって、俺の差し出したスクロールに手を伸ばす。
「アネッサたんが言ってたニャ。
もう、誰も殺したくニャい、ってニャ。
だからチビ助。
ここに残るんニャら、絶対死ぬニャ
それだけは約束しろ。
たとえ無様でも、死ぬくらいニャら逃げ出せ。
それが、あの娘の為でもある」
強い口調でタマリウスはそう言った。
「約束する」
俺もまた強い
「勝算はあんのかニャ?」
「無い訳じゃ無い。
だが、アネッサを殺す訳にもいかねぇ。
かと言って手加減出来る相手でも無さそうだ。
だから出たとこ勝負、だろうな」
俺の返答に眉をひそめるタマリウス。
「……全然説得力がニャいニャ」
率直な言葉が飛んでくるが、俺は変わらず強い眼差しでタマリウスを見て口を開く。
「……俺はどうやら不器用みたいで、色んなもんは救えないらしい。
だが、絶対に手放したく無いモノだってある。
必ず救いたい存在がある。
それがアネッサだなのだ」
その言葉にタマリウスは黙り込み、一つ頷いてスクロールを開き始めた。
「……おめーがどうにか出来るとは到底思えニャい。
ステータス見た限りじゃ、オイラとさほど違いは無ぇからな。
でも、その覚悟だけは認めてやるニャ。
やれるもんならやってみニャ。
シン・オルディール」
そう言い残し、タマリウスは消えていった。
残ったのは紫色の炎に燃えるスクロール。
……そっちは頼んだぞ、タマ。
そして俺はゆっくりと振り返る。
近づいて来るその存在を感じたからだ。
そして、その姿が闇夜の中から露わになる。
俺の知ってるアネッサの風貌とは少し変わっていた。
髪の色も銀髪になっており、目の色も両目が金色になっている。
手足の膝や肘から先は銀色の体毛が艶やかになびいている。
そして、鋭い牙を煌めかせてこちらに言い放つ。
「猫の気配が消えたな。
面白い奴だったのに。
次はお前が相手か?
器の主人の小僧」
そう言って嘲笑うアネッサ……いや、半幻獣。
どうやらアネッサの意識は潜んでいるようだ。
「あぁ、俺が相手だ。
勝手に家出した元凶のお前に、主人の俺が躾をしてやるよ。
そして、その身体をアネッサに返してもらう」
俺は睨みつけてそう言い放つ。
すると、半幻獣は笑い出す。
「アッハッハッハッハッ!
返してもらうだと?
この器はもう私のモノだっ!!」
叫ぶように言い放ち、次いで遠吠えする半幻獣。
その直後、半幻獣の周囲に煌めく結晶が広がっていく。
「いいや、違うね。
その身体は、はじめからアネッサのもんだ。
そして、今は俺のものだっ!!」
俺の身体昇華と身体金剛が解き放たれる。
互いの闘気と魔力が吹き荒れ、ぶつかり合い、再び森が震え上がる。
目指すはシャーウッドの樹海。
速度を上げて飛んでいけば三時間程。
すでに昼をとうに過ぎ、あと二時間程で日が落ち始める。
夜になる前に辿り着きたかったが、着く頃には夜になっているだろう。
それでも、少しでも早く到着する為に速度を上げていく。
二時間ほど飛び続けていると少し速度が落ちてきた。
速度を上げるのはマナと体力の消耗が激しくなる。
マナ切れにはならないだろうが、昨日からまともに食事もとらず、少しの仮眠だけしか休んでいないこの身体は想像以上に消耗していた。
マナ変換で誤魔化しながらやってきたが、流石に疲れも出始めてきているようだ。
しかし、今はちんたら休んでる暇もない。
速度を少しだけ落とし、ローブのポケットからマナポーションを取り出して一気に飲み干す。
マナ回復の為というより、もはや栄養ドリンク代わりである。
急がないと、な……。
既に陽が傾きはじめてきている。
アネッサの事もどうにかしなければいけないし、タマにも盗賊の事を頼まなければ。
どちらもどうやって説得するかが決め兼ねているが、ゆっくり考える暇もない。
それに、会わないことには始まらない。
だからまずは一秒でも早く到着する事だ。
シャーウッドの樹海が見えて来る頃には既に陽が暮れていた。
辺りは闇に包まれているが、もう満月にほぼ近い赤く光った月が暗闇を妖しく照らし出している。
俺はゆっくり降り立ち、森へと歩き出す。
すると、近付く樹海からは何匹も何種類も魔物が飛び出してきた。
ゴブリンやオーク、ダークハウンドといった下位の魔物から、ポイズンサーペント、ブラッドウルフ、ハイオークといった中位の魔物も飛び出してくる。
何匹かはこちらに混乱しながらこちらに襲いかかってきたので礫の弾丸で頭を撃ち抜いたのだが、ほとんどの魔物は俺を無視して駆け出していく。
まるで、森の中のなにかから逃げるように。
森の中に入って突き進むと上位種でもあるオーガとも遭遇する。
コイツらは森から逃げ出すというより、何かに警戒し、殺気を放ち続けていた。
そんなオーガの視界に俺が入ると、瞬時に四匹襲いかかってきた。
地を駆け、風を切ってこちらに向かってきた四匹のオーガが一斉にそれぞれの得物を振り抜いてくる。
シンはソッと首からぶら下がる狼のペンダントを握り締める。
その直後、迫り来る四匹のオーガの胴体が前触れもなく切り裂かれた。
まるで、爪で引き裂かれたような傷跡を残して。
その傷は致命傷では無いのだが、いきなりの出来事に動揺するオーガ達。
その首を風を纏って駆け抜け、嵐丸の一閃が走ってその首を飛ばす。
たまに使うだけでは銀狼の矛のスキルレベルが上がっておらず、威力はまだ低く致命傷とはならない。
それでも上位の魔物を切り裂く力があるので、牽制や奇襲には十分有効である。
それからも森の奥へと進むにつれ、吹き荒れる魔力と凄まじい存在感を肌で感じ始める。
しかも、それが二つも存在するのだ。
二つの猛威がぶつかり合い、森全体を震わせている。
それは間違いなくタマとアネッサである。
二人は今、戦っている。
しかし、急に猛威と感じたその二つの存在が小さくなってしまった。
まさか……どちらかが倒れたのか!?
胸騒ぎがして俺は森を駆け抜ける。
すると、前方から近づいてくる気配を感じた。
この気配は……。
そして、俺は血まみれになったタマリウスに出会した。
「——ッ!!
なんで、てめぇがこんニャ所にいるニャッ!
こっちの盗賊はもう片付け終えたニャ」
忌々しげに言うタマリウス。
「別にお前の盗賊退治を加勢する為に来た訳じゃない。
アネッサ……狼人族の女の子と、さっきまでやり合っていたのはタマだろ?」
「相変わらず、ふざけた呼び方しやがって……。
……おめー、アネッサたんと知り合いかよ?」
アネッサたん?
お前もアネッサに対してふざけた呼び名を付けやがって。
ぶっ飛ばしたかったが、今はそれどころじゃない。
「アネッサと会ったんだな?
あいつは何処にいる?」
俺が問い詰めようと一歩踏み出すと、タマリウスは鋭い銀槍を構築して俺に向ける。
「……何の真似だ?」
俺がタマリウスをギロリと睨む。
しかしタマリウスもまたこちらを睨みつけて来る。
「あの娘に今、近付かせる訳ニャいかねぇよ。
今のアネッサたんの状態を分かってねぇのか?」
今のアネッサの状態だと?
「どういう事だ?
今日はまだブラッドムーンの夜じゃないだろ?」
その返答にタマリウスは溜息をついて答える。
「もうアネッサたんは半幻獣化しちまってるニャ。
だからこっから離れニャれるべきニャんだって事。
じゃねぇと死ぬぞ」
未だに槍を下ろさないタマリウス。
一歩でも踏み進もうとすれば、その切っ先が飛んできそうだ。
「……お前のその怪我は、アネッサにやられたのか?」
その問いかけにタマリウスは顔を歪める。
「……そうニャ。
そりゃあもうこっぴどくやられたニャ。
ともかく、ここでくっちゃべってる暇はニャい。
すぐに森から離れるニャ。
アネッサたんは誰も傷つけたくないみたいだニャ。
だから、離れるのがあの娘の為でもあるのニャ」
そう言って槍を下ろし、タマリウスは歩き出す。
しかし、すれ違いざまに俺は口を開く。
「悪いが断る。
俺はアネッサに会いに行く」
そう言った俺の首先に再度銀槍の刃が突きつけられる。
「チビ助、俺の話を聞いてたのかニャ?
おめーが行った所でどうにかニャるもんじゃねぇって言ってんだ」
俺はゆっくり振り返り、その銀槍の切っ先を掴む。
手が焼けるように熱くなり、直後燃え上がる。
しかし俺は手を放さない。
その行動にタマリウスが驚く。
「——ッ!
……チビ助……お前……っ」
俺は槍を燃え上がる手で掴んだまま、真っ直ぐにタマリウスを見つめる。
「アネッサは俺が必ず助け出す。
あの幻獣の苦しみから、抱えている恐怖から必ず解放させる。
それが、俺の今やるべき事だ」
睨み合う俺達。
すると、タマリウスの銀槍はゆっくりと下ろされ、消えていく。
同時に炎も消えたが、その火傷は消えはしなかった。
俺のスキルの自然治癒が急速にその怪我を治していく。
「……頑固者だニャ。
そして馬鹿だニャ。
おまけに命知らずたニャ」
タマリウスはそう言って背を向ける。
「オイラはもう行くニャ。
残るなら一人で残ればいいニャ」
そう吐き捨てるように言うタマリウス。
そんなタマリウスを俺は真剣な顔で見つめる。
「タマ、俺が会いに来たのはアネッサだけじゃなく、お前にも用があって会いに来たんだ」
「……いやいや、お前に会いに来られても全然嬉しくないニャ……」
うるせぇよ。
俺だってお前に頼らなくてはいけない状態になってるのは不本意だっつうの。
俺は黙ってスクロールを懐から取り出す。
それを見つめるタマリウス。
「……スクロール?
ニャんでそんニャもんをお前が持ってるだニャ」
「俺の攻め込んだ砦で、一人テレポートのスクロールを使われて取り逃がした奴がいる。
このスクロールは他の砦を攻めた人達が手に入れたものだ。
同じテレポートの力を持ってることから、行き先が同じ可能性が高い」
そこまで俺が言うと、何が言いたいのかはタマリウスも察する。
「……それをオイラに託したい、って話かニャ?」
睨んでくるタマリウス。
俺は迷い無く答える。
「そうだ。
明日の晩、盗賊達はジーナスを襲ってくる計画があるそうだ。
盗賊の計画を止める手立てがこの先にあるかもしれない。
お前の力を見込んで頼みたい。
タマリウス、力を貸してくれ」
俺は頭を下げる。
その姿を驚くように見つめるタマリウス。
しばらく静寂が二人を包み込むが、その沈黙をタマリウスの溜息が破る。
「……どこでいろんな情報を仕入れたのかは知らニャいけどニャァ……。
死にかけでボロボロの奴を捕まえて、また戦地に送り込もうとするとか、お前は鬼だニャ。
いや、悪魔だニャッ!」
そう言い放ってくるタマリウス。
思わず俺が頭を上げると、タマリウスはやれやれと首を振っていた。
そして真顔になって、俺の差し出したスクロールに手を伸ばす。
「アネッサたんが言ってたニャ。
もう、誰も殺したくニャい、ってニャ。
だからチビ助。
ここに残るんニャら、絶対死ぬニャ
それだけは約束しろ。
たとえ無様でも、死ぬくらいニャら逃げ出せ。
それが、あの娘の為でもある」
強い口調でタマリウスはそう言った。
「約束する」
俺もまた強い
「勝算はあんのかニャ?」
「無い訳じゃ無い。
だが、アネッサを殺す訳にもいかねぇ。
かと言って手加減出来る相手でも無さそうだ。
だから出たとこ勝負、だろうな」
俺の返答に眉をひそめるタマリウス。
「……全然説得力がニャいニャ」
率直な言葉が飛んでくるが、俺は変わらず強い眼差しでタマリウスを見て口を開く。
「……俺はどうやら不器用みたいで、色んなもんは救えないらしい。
だが、絶対に手放したく無いモノだってある。
必ず救いたい存在がある。
それがアネッサだなのだ」
その言葉にタマリウスは黙り込み、一つ頷いてスクロールを開き始めた。
「……おめーがどうにか出来るとは到底思えニャい。
ステータス見た限りじゃ、オイラとさほど違いは無ぇからな。
でも、その覚悟だけは認めてやるニャ。
やれるもんならやってみニャ。
シン・オルディール」
そう言い残し、タマリウスは消えていった。
残ったのは紫色の炎に燃えるスクロール。
……そっちは頼んだぞ、タマ。
そして俺はゆっくりと振り返る。
近づいて来るその存在を感じたからだ。
そして、その姿が闇夜の中から露わになる。
俺の知ってるアネッサの風貌とは少し変わっていた。
髪の色も銀髪になっており、目の色も両目が金色になっている。
手足の膝や肘から先は銀色の体毛が艶やかになびいている。
そして、鋭い牙を煌めかせてこちらに言い放つ。
「猫の気配が消えたな。
面白い奴だったのに。
次はお前が相手か?
器の主人の小僧」
そう言って嘲笑うアネッサ……いや、半幻獣。
どうやらアネッサの意識は潜んでいるようだ。
「あぁ、俺が相手だ。
勝手に家出した元凶のお前に、主人の俺が躾をしてやるよ。
そして、その身体をアネッサに返してもらう」
俺は睨みつけてそう言い放つ。
すると、半幻獣は笑い出す。
「アッハッハッハッハッ!
返してもらうだと?
この器はもう私のモノだっ!!」
叫ぶように言い放ち、次いで遠吠えする半幻獣。
その直後、半幻獣の周囲に煌めく結晶が広がっていく。
「いいや、違うね。
その身体は、はじめからアネッサのもんだ。
そして、今は俺のものだっ!!」
俺の身体昇華と身体金剛が解き放たれる。
互いの闘気と魔力が吹き荒れ、ぶつかり合い、再び森が震え上がる。
0
お気に入りに追加
4,412
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ
雑木林
ファンタジー
現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。
第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。
この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。
そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。
畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。
斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。
異世界の親が過保護過ぎて最強
みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。
しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。
魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。
狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。
男はこの状況で生き延びることができるのか───?
大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。
☆
第1話~第7話 赤ん坊時代
第8話~第25話 少年時代
第26話~第?話 成人時代
☆
webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました!
本当にありがとうございます!!!
そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦)
♡Thanks♡
イラスト→@ゆお様
あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ!
ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの……
読んで貰えると嬉しいです!
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
戦車で行く、異世界奇譚
焼飯学生
ファンタジー
戦車の整備員、永山大翔は不慮の事故で命を落とした。目が覚めると彼の前に、とある世界を管理している女神が居た。女神は大翔に、世界の安定のために動いてくれるのであれば、特典付きで異世界転生させると提案し、そこで大翔は憧れだった10式戦車を転生特典で貰うことにした。
少し神の手が加わった10式戦車を手に入れた大翔は、神からの依頼を行いつつ、第二の人生を謳歌することした。
貴方の隣で私は異世界を謳歌する
紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰?
あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。
わたし、どうなるの?
不定期更新 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
バイクごと異世界に転移したので美人店主と宅配弁当屋はじめました
福山陽士
ファンタジー
弁当屋でバイトをしていた大鳳正義《おおほうまさよし》は、突然宅配バイクごと異世界に転移してしまった。
現代日本とは何もかも違う世界に途方に暮れていた、その時。
「君、どうしたの?」
親切な女性、カルディナに助けてもらう。
カルディナは立地が悪すぎて今にも潰れそうになっている、定食屋の店主だった。
正義は助けてもらったお礼に「宅配をすればどう?」と提案。
カルディナの親友、魔法使いのララーベリントと共に店の再建に励むこととなったのだった。
『温かい料理を運ぶ』という概念がない世界で、みんなに美味しい料理を届けていく話。
※のんびり進行です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる