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副団長にはどうやら秘密が沢山あるようです
14 とんだ思い違い ※
しおりを挟む「……!?」
パンッと頬を叩かれて、ルカは自分が意識を失っていたことに気付く。
「おねんねするには早すぎだろ?」
冷酷な顔をした男が、ルカを見下ろしていた。
よく知っているバルナバーシュとはまるで別人だ。
いつの間にか身体を仰向けにされ、膝の裏で固定された鞘を胸の上まで持ち上げることで、子供がオムツを替えるような屈辱的な体勢になっていた。
「ツルツルじゃねえか、これは剃ってるわけじゃねえよな」
以前は剃って処理をしていたが、いちいち面倒なので娼婦たちの間に出回っている特殊な薬草を使っている内に、毛が薄くなり今ではほとんど生えてこなくなっていた。
身体を折り曲げられていることで、自分の下半身も全て丸見えだ。
精液を纏わりつかせ力なくぶら下がる性器と、その奥にヒクヒクと物欲しそうに蠢く穴の入り口が見える。
「なあ、さすがのお前でも自分のケツの穴なんてそんなに見ることないだろ?」
「……うっ」
そう言って二本の指を下の口に潜りこませてゆく。
一度侵入を許しているので、なんの抵抗もなく根元まで飲み込んでしまう。
「ほら、美味そうに俺の指を食ってるぜ?」
二本の指を中で広げ、入り口をくぱくぱと開閉させて弄ぶ。
ルカに、自分の浅ましい穴を見せつけるように。
「……もう止めてくれ……」
今まで抱かれて来た男たちには、多少酷いことをされても耐えられた。
爛れた気持ちを忘れさせてくれるほど、自分を強く抱いてくれたから。
だが、目の前の男は自分のことをちっとも欲していない。
それなのに、こうやって屈辱だけを与えるやり方は、いくら罰とはいえルカには耐えられなかった。
相手は、バルナバーシュだ。
ルカの性格をわかった上でやっている。
これが一番堪えるだろうと。
この男は養子さえ戻ってくれば、ルカがいなくなろうとも構わないのだ。
だからどれだけ傷付こうとも関係ない。
愛しているのに。
全てを捨てて、側にいるのに。
そんな自分から、バルナバーシュをとってしまえば……なにも残らない。
それなら……死んだ方がマシだ……。
「……俺のことが許せないなら……もう一思いに……殺せよ……」
自然とぼろぼろ涙が零れてくる。
腕を拘束され泣き顔を隠すこともできない。
ルカが人前で泣いたのはあの時以来だ。
「——お前……そんなに俺に抱かれるのが嫌なのか?」
冷たい怒りを含んだ声が聞こえる。
「……あんたが……言うなよ……俺のことなんて……抱きたくもないくせにっ……」
不覚にも最後の方は嗚咽が混ざってしまった。
「…………」
バルナバーシュはなにも言い返さない。
沈黙は肯定の証だ。
「——本当は俺なんか……濃墨と出て行った方がよかったんだろ……」
「……お前……」
バルナバーシュが目を見開く。
「——こんな地味な副団長の役を……なんで俺が真面目に演じてたと思う?……なんでレネの師匠になったと思う?……」
「…………」
「あんたに惚れてたからだよっ! 指一本触れて来なくても、側にいるだけで我慢してたのに……あんたが必要としてくれたから俺はなんでも我慢できたっ! それなのに……あんな言葉を……」
今まで、バルナバーシュの一番になりたいなど差し出がましいと、自分を律してきた。
だが目の前で、レネと自分の差をこうも見せつけられると、ルカだって一応半分は人の子だ、耐えきれずに心が血を流す。
「……俺はどうせ……汚い身体の……雌犬なんだろ?……本当は触りたくもないくせに……」
強い男に犯される恐ろしさなんかよりも、惚れた男に軽蔑され、浅ましいこの身体を辱められることの方が辛かった。
今まで十数年溜めて来た溢れ出る思いを止めることができず、ルカは声を上げて泣いた。
さすがにこの状態は不味いと思ったのか、バルナバーシュがルカの拘束を解いてゆく。
そして、長時間固定されていたので思うように動けないルカの身体を、強い力で抱きしめた。
「…………!?」
「——なんでそんな思考になるんだ……」
溜息と共に呆れ顔でバルナバーシュが呟くと、太ももに硬いモノが押し付けられる。
「!?」
よく知った感触に、ルカは思わず目を見開く。
「……さっき『本当はこんなことしたくねぇ』って……」
「当たり前だろ。俺だって本当は合意の上で優しく抱きたいんだよ」
「……うそだ……あんたは……こんな醜い傷のある奴なんて興ざめだろ……」
「は……?」
「さっき、背中見て酷い傷だって言っただろ……レネの身体には傷一つ残るのも許さない癖に……」
また、色々な想いが涙と共に溢れてくる。
「——なんで『酷い』と『醜い』が同義になるんだ。アッパド語ちゃんと理解してるか? 俺はその傷が付けられた経緯を知ってるから『酷い』と言ったんだ。それにレネに傷を残さないのは、お前を見てるからだよ。もう俺は耐えられねーんだよ。傷を残すことが……お前の傷だって……あの時近くに癒し手がいたら……俺だってずっと後悔してんだよ……」
「え……?」
「今日、近場で男漁りしてたのは、俺の言った言葉のせいか?」
『——後を追わなくていいのか? 今ならまだ間にあうぞ?』
ルカは、濃墨を見送った後にバルナバーシュが言った言葉を思い出す。
「お前が俺を選ぶってわかってたから、冗談のつもりで言ったんだよ……まさかお前がこんなに傷付いてたなんて思わなかったよ。ごめんな……」
バルナバーシュはもう一度ルカを強く抱きしめる。
「でも……あんたの気持ちがわからない……俺になんか興味ないだろ……」
バルナバーシュが自分と同じような気持ちで想ってくれているとは思えなかった。
この男は十数年も同じ屋根の下にいたのに指一本触れて来なかったのだ。
「……俺は本当はずっとお前を抱きたかったんだ。お前は覚えてないだろうけど……十数年前、オゼロからこっち来る時、隣で寝ているお前にムラムラきて我慢できなくなったから手ぇ出したの知ってるか?」
「え……」
そんな記憶なんて全くない。
愛する男が手を出してきたら、絶対に断らない。
「急にパニックになってそのまま気絶して……普通にオゼロでも男漁りしてたから、まさかそうなるなんて思ってもなくてな……俺も吃驚してお前にさわれなくなったんだよ……」
「嘘だ……」
「あの時は、目を覚ましたら俺に乗っかかられて錯乱してたもんな。次の朝には全然覚えてなかったし。俺はな……初めて逢った時からお前をず~~~っと……邪な目で見てたんだよ」
そう言うとバルナバーシュはルカの太ももに、猛ったモノを擦りつけた。
男の身体は嘘をつかない。
「団長になってからサーコートなんて真面目に着てなかったよ。でもな……お前がシャツとパンツだけじゃあ、この魅惑の尻が他の団員たちに見つかっちまうだろ? いつも気が気じゃあなかったから、俺も着て、お前にも着せたんだ。」
そう言うと、抱きしめたままルカの尻を揉みしだく。
「痛えよ……散々叩きやがって」
ジンジンと熱を持つ尻たぶを揉まれ、痛みにルカは眉を顰めた。
「すまねえ……ああ……内出血してるな。でも念願の生尻見たら、どうしてもひっぱたきたくなっちまったんだ。許してくれ……」
(それにしても……魅惑の尻……?)
そんなことを言う男だったろうか……。
サーコートの話も初耳だ。バルナバーシュが着ていたのでいつも着るものだと思っていた。
パラパラとバルナバーシュの人物像が壊れてゆく。
「なあ……ここまで酷いことしといてなんだけど、今度はちゃんとお前を抱かせてくれ。お前の心の傷が癒えるまで待っていようと思ったけど、このままじゃ俺がジジイになっちまう」
その顔は、今までにないくらい真剣だ。
「……うん」
その切実なまでの眼差しに、ルカは思わず赤面し俯く。
「——お前は、いつ見ても綺麗だ……本当は誰の目にも触れない所にお前を閉じ込めておきたい」
バルナバーシュは両手で顔を包むと、そっとルカの涙の跡を親指でなぞる。
「いきなりそんなこと言うなよ。あんたらしくない」
視線を上げてルカはバルナバーシュの男らしい顔を見つめた。
もう長い時間一緒にいるのに、こんなに至近距離で見つめ合ったことなどなかった。
「なに言ってんだ、俺はお前をずっと口説き続けてきただろ」
(……俺の勘違いじゃなかったんだ……)
指一本触れて来ないから、ルカはずっと自分の勘違いだと思っていた。
バルナバーシュが笑うと、口の横に皺ができてとてもセクシーだとルカは思う。
年々、バルナバーシュは渋みのあるいい男になっていく。
若い男にはとても出せない、奥行きのある今の顔の方が好きだ。
顔の皺は、今まで刻んできた表情の跡だ。酸いも甘いも噛み分けてきた年輪のようで、ますます愛おしさがこみ上げてくるる。
「……バル……んっ……」
互いに貪り合うように口を合わせると、ルカはバルナバーシュの首に腕を回し、先程から臨戦態勢になっている股間を膝で刺激する。
お返しだといわんばかりに、今度はバルナバーシュがルカの朱鷺色の胸の飾りに手を這わせ、指先で刺激を加えて来る。
「……ふっ……ん……」
口の中と胸がまるで繋がっているようで、それぞれの刺激が相乗効果のようにルカの快感を高めていく。
自分より強い男に抱かれるのは恐ろしいことだと思っていたのに……。
たまらなくなって、バルナバーシュのシャツに手を掛けるとボタンを外していく。
ルカはシャツを脱がせようとして、左腕の袖の上から巻かれた血の滲んだ布に気付き、ハッと身体を震わせる。
「——腕……ごめん……」
気が立っていたとはいえ、ナイフで刺してしまった。
「気にすんな。俺にこんなことができるのはお前だけだ。そんなお前だから俺は好きなんだ。それに俺も散々お前を泣かせた……おあいこだ」
シャツの袖はそのままに、バルナバーシュの逞しい胸筋を露わにすると、ルカはそこに顔を埋めた。
ずっと、この逞しい胸に抱かれるのを夢見ていた。
薄っすらと生えた体毛がルカの頬をサラサラと刺激する。
鼻からバルナバーシュの体臭を吸い込み、あんなに出したのに、またはしたなく勃ち上がっている自分の股間を逞しい太ももに擦りつける。
「ヤバい……もう我慢できない。お願い……バル……入れて……」
本当はずっと、ずっと……バルナバーシュに抱かれたかったのだ。
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