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9章 山城での宴
11 生まれ変わり
しおりを挟む「この城に招待したのも、君に協力をしてもらいたいからだ」
「オレは魔法の復活なんて興味はない」
自分の意思は最初にちゃんと伝えておかなければと思った。
レネの言葉を聞いて、カムチヴォスは大仰に驚いた顔をする。
その仕草が芝居じみていて、少しムッとした。
「君の居た護衛団では癒し手が所属していたというのに、その恩恵に預かりながらそんな言葉を口にするのか? 君は喪われた四柱の魔法がどういうものだったか知らないだろう」
「お前だって実際は知らないくせに」とつっこみを入れたくなるのをなんとか堪えながら、レネはカムチヴォスを睨んだ。
「火・水・地・雷の魔法が実際どういう風に人々の役に立っていたか、君は想像もつかないと思うが、現在の民はスタロヴェーキ王朝の頃に比べたら原始的な生活を強いられている。癒しの魔法以外が消え、文明が退化したんだ」
「だからなんだよ?」
レネはつっけんどんな返事をする。
さっきから頭ごなしに『知らないだろう』と言われ、気分の良いはずがない。
父親の面影がある叔父に会ったというのに、この男に対してなんの感慨も湧かない。
仇は取ったというが、同じ組織に所属してその後釜に就いているということと、動作や話し方から滲みでてくる中身がレネとは相いれないのだ。
外見から誤解されがちだが、レネはかなり好き嫌いのハッキリしている方で、仕事の依頼主ではない限り相手に迎合したりはしない。
「こんな山城で暮らしていると不便なことが多くてね、水道がないから毎朝井戸から水を汲んで、燃料になる薪を運んで湯を沸かしている。ここへ来るまでの道を整備するのも全て人力だ」
「だからどうしたっていうんだ」
不便だと思うなら、わざわざこんな所で暮らさなければいいではないか。
「セキアの南西は乾燥地帯で、今年は雨が降らずに沢山の人が死んでいる。もし水の魔法が使えたら、上位の魔法使いは雨を降らせ、一番下位の者でも水甕に水を満たすことができただろう。火の魔法が使えれば、極寒の地でも薪がなくとも常に火で暖をとることができ、地の魔法が使えれば、人々は奴隷のように石切り場で働くことなく家を建てることができる。四柱は闘神といわれているが、人々の生活を支えていたんだ」
「雷は?」
まるで自分の手柄のように雄弁に語られると、揚げ足取りの一つもしたくなる。
「……雷をどう生活に活かしていたかは私も知らないが、先人たちはきっと役に立てていたはずだ」
「……はず?」
滑らかだった口調がレネの問いかけに、急にもたつきはじめ。
所詮この男も二千年前の言い伝えをただレネに伝えているだけだ。
自分よりも多くの情報を持っているだけで、中身は薄っぺらい人間だとうのが透けて見えてきた。
こんな時に剣士としての能力が役に立つ。
バルナバーシュやルカーシュに比べたら、まだ自分はひよっこ同然だが、命懸けで数々の男たちと剣を交えてきた。
相手を観察し分析する能力は人より秀でていると思っている。
「私が言いたいのは、魔法があった時の方が、人々はもっと豊かな生活を送っていたんだ。私は魔法の力で災害や貧困で死んでいく人々を救いたい。レネ、君がもう一度神との契約を果たしてくれたら、世界はきっと豊かになるはずだ」
「また、はずか……」
全てただの憶測でしかない。
言葉の重みのなさから、この男は本当に世界を豊かにしたいとは思っていないことがわかる。
レネを仲間へと引き入れるために綺麗事を並べているだけだ。
こんな男と話しても時間の無駄だ。
しかしレネは、やらなければならないことがある。
盗まれた聖杯を取り戻し、『復活の灯火』を壊滅させないといけない。
そのためにはもっと情報が必要だ。
少しは興味がある振りをして、カムチヴォスから情報を引き出す必要がある。
「神との契約ってなにをするんだ?」
「君が生まれた島で、契約の儀を行う必要がある。それには幾つかの条件があるが、それについては私たちが準備を進めていくので君が心配する必要はない」
「そもそも……なんでオレに神との契約ができると……」
「実は私も君に直接会うまでは確信が持てなかったが……場所を移動しよう。あれを見た方が手っ取り早いだろう。ついて来なさい」
(なんだよ、あれって……)
わざわざ移動するのなら、最初っからその部屋で話せばよかったのに。
思うに、遠くまで見下ろせる景色の上に立って、自分が支配者であることを見せつけたかったに違いない。
現に、カムチヴォスが立っていた場所の方がレネの居た所よりも数段高く、本当はレネよりも背が低い癖に見下ろされる形となり、気分のいいものではなかった。
カムチヴォスの背中を追いながら迷路のような城の中の階段を下りていくと、ひときわ大きな扉が目の前に現れた。
円形のホールになっているこの部屋は、建物の一番奥にあり薄暗い。
数段高くなった祭壇の様な場所に玉座らしきものが見えるが、暗くて奥までよく見えない。
レネたちが近付くと、どういう仕掛けになっているのか、玉座の後ろの燭台に急に明かりが灯った。
「こ……これは!?」
今度ばかりはレネも驚きの声を上げる。
玉座の後ろの壁には、全く同じ作りをした玉座に王冠を被って座る人物の壁画があった。
ただの壁画だったらそこまで驚かなかっただろうが、その人物はレネと全く同じ顔を持っていた。
髪の色も瞳の色までが同じで、レネはまるで鏡でも見ているようで気味が悪くなってくる。
「スタロヴェーキ王朝最後の王、レナトスだ。この城自体がスタロヴェーキ王朝時代の物だから、レナトス本人の姿を忠実に再現していると言っていいだろう。レナトスは神々から愛され、火・水・地・雷・癒の全ての魔法が操れたそうだ。レネ、君と瓜二つだろう? レネという名は生まれ変わりの意味を持つ」
「……生まれ変わりだなんて……」
「まだ信じられないようだな。我々の一族に伝わる予言を紹介しよう」
=====
契約の島の太陽が消え、闇が全てを飲み込むとき
銀髪に若草色の瞳を持つ、神々に愛されし血を引き継ぐ者が
再び王冠を被り、聖杯を満たせば
五枝の灯火が復活し、神々との契約が再び結ばれん
=====
「『復活の灯火』とはこの予言を成就させるために結成された。神との契約に必要とされる燭台と聖杯は手に入れた。そして王冠は……契約の島——君の生まれた島にある。太陽が消えるとは日蝕のこと。銀髪に若草色の瞳を持つ神に愛されし血を引き継ぐ者とは、レネ……君のことだ」
(……そんな予言が……)
確かに全ての条件に自分が当て嵌まっている。
だから両親を殺してまで、『復活の灯火』は自分ことを探していたのか。
ずっと気になっていたのだが、燭台と聖杯は『復活の灯火』が持っていると言っていた。しかし王冠のあり処についてはドプラヴセは言及していない。
レネの生まれた島……カムチヴォスの故郷でもある島にあるのがわかっているから、こうして悠長に構えていられるのだろう。
王宮から聖杯を盗んだのは『復活の灯火』で間違いない。
それは今どこにあるのかうまいことカムチヴォスから聞き出せないかと、レネは試みる。
「そんな予言を信じてあんたたちはずっと活動して来たのか? その予言が嘘だったらどうする? それに聖杯や燭台とやらも本物なのか?」
「神器については、君が心配する必要はない。儀式の準備をするのは私たちの役目だ」
もっと簡単に口を割ってくれるかと思ったがそうもいかないようだ。
「予言のことも君がレナトスの生まれ変わりであることも、一気に信じろというのも無理な話だ。次に契約の島で日食が起こるのは十二の月だ。まだ時間はある。ゆっくり考えればいい。二日後、私たちの仲間が集まる宴をこの城で行う。そこで君を紹介したい。君は『復活の灯火』がただの窃盗団だと誤解しているかもしれないが、仲間と会ったらその見方も変わるはずだ」
「そのために手紙を出してわざわざここに呼び出したのか……」
しかし、レネにとってそれは好都合だった。
あちらからのこのこ集まって来るのなら一気に片を付けることができる。
「言い方を変えればそう捉えることもできるかもしれない。仲間だけでなくゲストも呼んでいる。君にとっても大いに興味深い宴になるだろう」
「……どうせこんななにもない所に篭っていてもつまんないしな。暇つぶしに出てやるよ」
「よかった。今度の満月の夜に宴が行われる。是非とも楽しみに待っていてくれ」
満月まではあと二日。
それまでにバルトロメイと策を練る時間はある。
レナトスの生まれ変わりである自分がいなければ、この組織の悲願は達成されない。
妙なマネをしたとしても無暗に傷付けてくることはないはずだ。
カムチヴォスを人質にしてしまえば二人でもなんとかなるかもしれない。
(あとは聖杯の場所さえわかれば……)
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