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6章 次期団長と親交を深めよ
16 食べ物は大事です
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◆◆◆◆◆
(あれ……どこだっけここ……?)
レネは目を覚まし、見慣れぬ天井に考え込む。
横を見ると派手な金髪頭が隣のベッドに寝ている。
そういえば、フォンスと遠乗りに来てレカの町に泊ったのだと思い出す。
その後、飲み屋に連れて行かれ、一気に酒を呷って———
「あああああ~~~~」
自分の失態に、レネは思わず大きな声を上げる。
「ん……なんだよ……朝からうるせえ野郎だな……」
顔を顰めてフォンスがゴソゴソと起き出す。
大きな欠伸と共に大きく身体を反らして背を伸ばした。
(全部……金髪だ……)
上半身裸の逞しい肉体が朝日に照らされるが、それを覆う体毛がキラキラと光っている。
よく見ると金色の毛がうっすらと背中まで生えているが、金髪は肌の色に近いので目を凝らさないと気付かない。
「あんた、背中まで毛があるんだな」
レネがぽつりと漏らすと、怪訝そうな顔そしてフォンスがこちらを窺っている。
「……こっちが訊きてえよ。お前こそなんでそんなにツルツルなんだよ。男なら胸毛のひとつもあるのが普通だろ? 昨日も風呂入れてる時に思ったけど、剃ってんのか?」
「え? どこを?」
もう少し暑くなってきたら下の毛は処理するが、他に思いつかない。
「身体じゅうだよ、お前ぜんっぜん毛がねえじゃねえか。それに朝なのに髭も生えてねえってどういうことだ?」
フォンスはベッドから降りると、レネに顔を近付け髭が生えてないか観察する。
気にしていることをいわれフォンスを睨み返すが、その顔には髭がモジャモジャと生えている。
レネは気付いていたが、既に夕方辺りからジョリジョリと髭が伸びていた。
「オレから言わせると、あんたが毛深いんだと思うけど?」
こんなに毛深い男は、身近でヤンしか知らない。
「毛深さは男らしさの象徴だぞ」
「リーパじゃ毛深いと女から嫌われるからって、剃ってる奴が多いぞ」
「なんだとっ!? なんてもったいないことをっ!!」
フォンスは信じられない顔をしてこちらを凝視するが、レネにしたらフォンスの言っていることの方が信じられない。
(もったいない……?)
「あんたも冬は暖かいかもしれないけど、夏は暑くね? ヤンだって夏は剃ってるぞ?」
「——は? あいつめっ!! 男の誇りをっ!!」
なんだか急に、朝から毛についての不毛な争いをしていることが馬鹿らしくなってきた。
ちょうどいいタイミングで、レネの腹の虫がぐーぐーと鳴りだした。
「なあ、腹減った……」
「……お前食ったの全部吐いてたもんな……下の食堂に行くか……」
階下にある食堂は朝から客で賑わっていた。
朝食はメニューが決まっており、目玉焼きかオムレツの卵料理を選び、それにパンとスープが付いてくる。
いつも私邸の朝食では目玉焼きばかりなので、レネは迷わずオムレツを選ぶ。
「はい、スープとパンはおかわり自由だからね。たくさん食べてよ」
「わ~~美味そうっ!!」
女将が運んで来たフワフワのオムレツに、腹を空かせたレネは歓声を上げる。
幸い二日酔いもなく、卵とバターの香りがレネの食欲を刺激する。
「ここの料理は美味いんだぜ。昼の弁当も楽しみにしてろよ」
「あ、そうか。そういや昨日弁当頼んでたな。——うまっ!」
「美味いだろ?」
宿で弁当を頼むことはよくあるが、店によって色々だ。
火加減と塩加減が絶妙なオムレツを食べる限りでは、ここの弁当は期待できそうだ。
肉体労働者にとって、仕事の合間の楽しみといえば食事くらいだ。
これはけっこう切実な問題で、腹を空かせているのに、まずい飯を食うなんて拷問でしかない。
レネたちも行く先々で行きつけの宿や飯屋の情報は団員の中で共有されている。
「ここって昼飯もやってんの?」
ソラマメのスープにパンを浸しながら、レネはフォンスに尋ねる。
「ああもちろん。でも早めに来ないと昼は地元客で込むからな」
「へ~そうなんだ。レカに泊ることはねえけど、昼飯だったら寄ることあるかもしんねえし。あんたそう言うの詳しそうだよな」
「あんまり遠くまでは行かないけど、メスト周辺だったら何軒かおすすめの飯屋があるぞ」
「オレもおすすめ教えるから教えてよ」
こうして朝食を摂りながら二人でおすすめの店を教え合った。
お互い既に知っている店もあったが、それはそれで妙な親近感が湧く。
フォンスと一緒に過ごすうちわかってきたことだが、食べ物の話をしている時が一番うまくいっている気がする。
団のことになるとプライドが邪魔をしてどうしても感情的になってしまうので避けた方がいい。
「なんかオレたちって飯食ってる時が一番仲良くできそうだよな……」
レネは思ったことを素直に口する。
「確かにな」
フォンスが、これまでの出来事を思い出したのか、苦笑いする。
レネも自分がフォンスに対して子供っぽい意地を張っていた自覚があるので、昨日のことも含めて申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「団長同士になっても顔を合わすだろうし、これから長い付き合いになっていくんだぜ? こんな遠出は難しいかもしれないけど、メストでこうやって偶に飯でも食わないか?」
思いがけないフォンスの提案にレネは驚くが、確かに元々団長同士の交流があるし、同じ立場の傭兵団として結束し足並みを揃えていく必要がある。
レネの個人的な感情で付き合いを疎かにすることなどはあってはならない。
「——でも、昨日みたいな店はなしだぞ」
一度わざと眉を顰めた後に、レネはニコリと笑ってみせる。
すると釣られるようにフォンスも笑顔になる。
「よし、決まりだ。お互い交代でおすすめの店を決めようぜ」
「それいいな」
(なんだよ……コイツ普通にいい奴じゃん)
初対面から、レネは随分とフォンスの見方が変わってきた。
(あれ……どこだっけここ……?)
レネは目を覚まし、見慣れぬ天井に考え込む。
横を見ると派手な金髪頭が隣のベッドに寝ている。
そういえば、フォンスと遠乗りに来てレカの町に泊ったのだと思い出す。
その後、飲み屋に連れて行かれ、一気に酒を呷って———
「あああああ~~~~」
自分の失態に、レネは思わず大きな声を上げる。
「ん……なんだよ……朝からうるせえ野郎だな……」
顔を顰めてフォンスがゴソゴソと起き出す。
大きな欠伸と共に大きく身体を反らして背を伸ばした。
(全部……金髪だ……)
上半身裸の逞しい肉体が朝日に照らされるが、それを覆う体毛がキラキラと光っている。
よく見ると金色の毛がうっすらと背中まで生えているが、金髪は肌の色に近いので目を凝らさないと気付かない。
「あんた、背中まで毛があるんだな」
レネがぽつりと漏らすと、怪訝そうな顔そしてフォンスがこちらを窺っている。
「……こっちが訊きてえよ。お前こそなんでそんなにツルツルなんだよ。男なら胸毛のひとつもあるのが普通だろ? 昨日も風呂入れてる時に思ったけど、剃ってんのか?」
「え? どこを?」
もう少し暑くなってきたら下の毛は処理するが、他に思いつかない。
「身体じゅうだよ、お前ぜんっぜん毛がねえじゃねえか。それに朝なのに髭も生えてねえってどういうことだ?」
フォンスはベッドから降りると、レネに顔を近付け髭が生えてないか観察する。
気にしていることをいわれフォンスを睨み返すが、その顔には髭がモジャモジャと生えている。
レネは気付いていたが、既に夕方辺りからジョリジョリと髭が伸びていた。
「オレから言わせると、あんたが毛深いんだと思うけど?」
こんなに毛深い男は、身近でヤンしか知らない。
「毛深さは男らしさの象徴だぞ」
「リーパじゃ毛深いと女から嫌われるからって、剃ってる奴が多いぞ」
「なんだとっ!? なんてもったいないことをっ!!」
フォンスは信じられない顔をしてこちらを凝視するが、レネにしたらフォンスの言っていることの方が信じられない。
(もったいない……?)
「あんたも冬は暖かいかもしれないけど、夏は暑くね? ヤンだって夏は剃ってるぞ?」
「——は? あいつめっ!! 男の誇りをっ!!」
なんだか急に、朝から毛についての不毛な争いをしていることが馬鹿らしくなってきた。
ちょうどいいタイミングで、レネの腹の虫がぐーぐーと鳴りだした。
「なあ、腹減った……」
「……お前食ったの全部吐いてたもんな……下の食堂に行くか……」
階下にある食堂は朝から客で賑わっていた。
朝食はメニューが決まっており、目玉焼きかオムレツの卵料理を選び、それにパンとスープが付いてくる。
いつも私邸の朝食では目玉焼きばかりなので、レネは迷わずオムレツを選ぶ。
「はい、スープとパンはおかわり自由だからね。たくさん食べてよ」
「わ~~美味そうっ!!」
女将が運んで来たフワフワのオムレツに、腹を空かせたレネは歓声を上げる。
幸い二日酔いもなく、卵とバターの香りがレネの食欲を刺激する。
「ここの料理は美味いんだぜ。昼の弁当も楽しみにしてろよ」
「あ、そうか。そういや昨日弁当頼んでたな。——うまっ!」
「美味いだろ?」
宿で弁当を頼むことはよくあるが、店によって色々だ。
火加減と塩加減が絶妙なオムレツを食べる限りでは、ここの弁当は期待できそうだ。
肉体労働者にとって、仕事の合間の楽しみといえば食事くらいだ。
これはけっこう切実な問題で、腹を空かせているのに、まずい飯を食うなんて拷問でしかない。
レネたちも行く先々で行きつけの宿や飯屋の情報は団員の中で共有されている。
「ここって昼飯もやってんの?」
ソラマメのスープにパンを浸しながら、レネはフォンスに尋ねる。
「ああもちろん。でも早めに来ないと昼は地元客で込むからな」
「へ~そうなんだ。レカに泊ることはねえけど、昼飯だったら寄ることあるかもしんねえし。あんたそう言うの詳しそうだよな」
「あんまり遠くまでは行かないけど、メスト周辺だったら何軒かおすすめの飯屋があるぞ」
「オレもおすすめ教えるから教えてよ」
こうして朝食を摂りながら二人でおすすめの店を教え合った。
お互い既に知っている店もあったが、それはそれで妙な親近感が湧く。
フォンスと一緒に過ごすうちわかってきたことだが、食べ物の話をしている時が一番うまくいっている気がする。
団のことになるとプライドが邪魔をしてどうしても感情的になってしまうので避けた方がいい。
「なんかオレたちって飯食ってる時が一番仲良くできそうだよな……」
レネは思ったことを素直に口する。
「確かにな」
フォンスが、これまでの出来事を思い出したのか、苦笑いする。
レネも自分がフォンスに対して子供っぽい意地を張っていた自覚があるので、昨日のことも含めて申し訳ない気持ちが湧いてくる。
「団長同士になっても顔を合わすだろうし、これから長い付き合いになっていくんだぜ? こんな遠出は難しいかもしれないけど、メストでこうやって偶に飯でも食わないか?」
思いがけないフォンスの提案にレネは驚くが、確かに元々団長同士の交流があるし、同じ立場の傭兵団として結束し足並みを揃えていく必要がある。
レネの個人的な感情で付き合いを疎かにすることなどはあってはならない。
「——でも、昨日みたいな店はなしだぞ」
一度わざと眉を顰めた後に、レネはニコリと笑ってみせる。
すると釣られるようにフォンスも笑顔になる。
「よし、決まりだ。お互い交代でおすすめの店を決めようぜ」
「それいいな」
(なんだよ……コイツ普通にいい奴じゃん)
初対面から、レネは随分とフォンスの見方が変わってきた。
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