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6章 次期団長と親交を深めよ
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しおりを挟むメストの南にあるホルニーク傭兵団の団長室。
七十半ばの立派な白い顎髭を生やした老人と厳つい金髪の青年が、なにやら話し合っている。
「なあ祖父ちゃん、ホルニークの中だけで鍛練したって刺激が足らねえよ」
フォンスは、ここ数年ずっとそんな悩みを抱えていた。
ホルニークでは自分より腕の立つ相手はゾルターンしかいない。
毎日同じ相手に手合わせをしていても、お互いの癖もわかっているし刺激が足らない。
ホルニーク傭兵団の団長を務めるフォンスの祖父ボジェクは、眉間に皺を寄せて考え込んでいる。
ボジェクは高齢で、団員たちを直接指導ができないことに心を痛めていた。
フォンスの訴えは、ボジェクにとっても深刻な問題なのだ。
「なあ、リーパの鍛練に参加させてもらうとかできねえの?」
実はこの言葉の裏には、下心が隠れている。
シニシュで出会ってから、フォンスはもう一度レネに会いたいと思っていた。
そのためには、リーパ護衛団に出向いて行く口実が必要だった。
「リーパとか……?」
リーパという言葉に反応して、ボジェクの白い眉が片方だけ上がる。
「竜騎士団に申し出たって断られるだけだろ?」
騎士団から見たら、傭兵団など格下の存在だ。相手にされるわけがない。
だったら、同じ傭兵団にお願いするしかないだろう。
いや、断られる以前に竜騎士団と一緒に鍛練などやりたくもないのだが、ものの例えだ。
「祖父ちゃんはリーパの先代とも仲いいし、交流があるだろ?」
少し前にも先代団長が現副団長を供に連れて団長室を訪れていたのを、フォンスは知っている。
「……うーむ……確かに悪くない話だな。でもお前からそんなこと言い出すなんてどうしたんだ?」
ボジェクが孫に対して疑問を持つのも不思議ではない。
同じ傭兵団としてリーパに対しては、ライバル心こそ持っていたが、これまで交流を深めようなんて気持ちなど、フォンスはこれっぽっちも持っていなかった。
「いや、次期団長としてリーパとは交流を深めておきたかったんだ」
フォンスは自分の立場を利用して、レネに再会し、あわよくばホルニークへ引き抜こうと思っていた。
以前ゾルターンから『リーパの団長を敵に回したいのか?』と止められたが、フォンスはぜんぜん諦めていなかった。
なぜリーパの団長を敵に回すのか理由もわからないのに納得できるわけがない。
「まあいい。団員たちの強化にも繋がるし、さっそくあっちの団長に手紙を書くか……」
ボジェクは引き出しから便箋を取り出し、サラサラとペンを走らせた。
◆◆◆◆◆
「ホルニークとの合同鍛練?」
「団員たちがたるんでるから俺に気合を入れ直してほしいんだと。——あっちの団長は親父よりも年上だからな……」
バルナバーシュがボジェクから来た手紙を読みながら、ルカーシュへと説明する。
きっと団員たちを自ら鍛えることができなくなり、ボジェクも思い悩んだ末にこの手紙を書いたのだろう。
もしこの様子をフォンスが聞いていたら、「俺はそんなこと一言も言ってねえッ!」と叫びだしたに違いない。
リーパとの交流目的が、いつの間にか団員たちの気合を入れ直すことに趣旨が入れ替わっている。
そんなこと、バルナバーシュは知る由もないので、ボジェクのために身体の動く自分が一肌脱ごうとやる気になっている。
「こっちに来るんですか?」
「手紙にはそう書いてあるな。ホルニークから二十名ほど連れて来るから、都合のいい日時を教えてくれと」
「じゃあこっちも、主要な団員たちのいる日がいいですね」
ルカーシュが、スケジュール帳と睨めっこを始める。
「まあ、最低、レネ、ゼラ、バルトロメイ、ヤン、カレル辺りは欲しいな」
せっかくやるのなら、有意義なものにしたい。
「たぶんホルニークの団員たちには、ロランドみたいな相手も必要です」
元は炭鉱夫の集まりだったホルニークの傭兵団。
力任せの戦法が大半で、トリッキーなレイピア使いなどあまり相手にしたことはないだろう。
「確かにそうだな……あいつが空いてる日を選んでくれ」
「後は、怪我人がたくさんでそうなので、癒し手も二人いる日がいいですね」
「じゃあ、ボリスが帰って来てからの方がいいな」
ボリスがジェゼロに行っている間は、癒し手の中でも一番若手のイェロニームが救護室で仕事をしている。
大勢の怪我人がでた場合、イェロニーム一人ではまだ荷が重すぎるし、イグナーツにもあまり無理はさせたくない。
やはりここは、ボリスの力が必要だ。
「手紙のやり取りだと時間がかかるので、私がホルニークに顔を出してあっちの団長と細かい話を詰めてきます」
ボジェクは、旧友の息子でもあるルカーシュをなにかと気にかけている。
ルカーシュもそれをわかっているのか、用事があればホルニークに顔を見せに行っている。
「それがいいかもな」
スケジュールを合わせるために、何度も手紙をやり取りするのを億劫だと思っていた所だ。
「じゃあ、さっそくあっちに行ってきます。私がいない間、サボらないでくださいね」
「……わかってるって」
いつもの台詞を口酸っぱく言うと、ルカーシュは執務室を後にした。
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