菩提樹の猫

無一物

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6章 次期団長と親交を深めよ

プロローグ

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◆◆◆◆◆


 シリルは手紙を書き終わり、最後に手の平が描いてある奇妙な文様の判を押した。
 これで、相手は手紙に書かれた内容を信用するだろう。
 あとは配達人に渡すだけだ。

 一仕事終わり、椅子に座ったまま大きく背伸びをして身体をほぐす。
 しかし今夜はもう一仕事残っている。

(はあ……まだ眠れそうにないな……)

 
 机の引き出しから新しい便箋を取り出して、真っ新な紙の上になにを書くべきか考える。

(なんと書いて知らせればいいのか……)


 ロメオがリーパ護衛団について一通り調べてたのだが、シリルは自分たちがどう関わるかまだ判断しかねていた。
 
 情報を整理すると、十一年前、メストにある日用品雑貨店が襲撃され、店主とその妻が殺害された。
 しかし、そこにいたはずの子供たち二人の行方が掴めていない。


 ロメオの調べによると、リーパ護衛団の団長は先の大戦で大活躍した人物であり、その功績を称え国から勲章を授与されている。
 例の本によるとその英雄ともいえる人物の愛人が、灰色と黄緑色の瞳をもつ美青年だというのだ。
 
 特徴からして、例の本に載っていた美青年は日用雑貨店にいるはずだった子供の一人ではないのか?

 メストの地図で調べてみたが、日用雑貨店とリーパ護衛団の本部の距離はそう離れていない。
 あの髪と瞳の色の組み合わせはそう簡単に見つからない。
 きっと同一人物に違いないと、シリルは結論付けていた。

 今から書こうとしている手紙は、その結論が成り立たないと、相手に怪しまれるばかりの内容になってしまうだろう。

 
 ペン先にお気に入りの青いインクを滲ませ、慎重に言葉を選びながら、顔も見たことのない相手に手紙を書いていく。



◆◆◆◆◆



「なんだ……この手紙?」

 隣国セキアから届いた封筒を見て、差出人の名を見るが全く見覚えのない名前だ。

「シリル……男性ですか。団長の新たな落とし胤でも見つかったのかと思いましたが、違うみたいですね」

 ルカーシュは詰まらなそうな顔をする。
 午後から暇だったので、時間つぶしの話題が欲しかったのだろう。

「なんだそれは……人を種馬みたいに言いやがって……」

「いや実際そんなものでしょう。団長の子供を欲しがった女性たちはたくさんいたんじゃないですか?」

「なんだよ、過去形か? 今だって俺は……」

 少し険の有る視線とぶつかり、バルナバーシュは「うっ」と言葉を詰まらせる。
 
「そんなことより、早く手紙を開けてくださいよ」

 ルカーシュに急かされ、バルナバーシュは厚い上質の紙を使った封筒を開けた。


「…………」

 想像もしていなかった内容にバルナバーシュは言葉を失い、無言のままルカーシュにその手紙を渡す。

「あの本が、隣国まで広がっていたなんて……考えただけでもゾッとしますね……」

 間を置いて読み終わったルカーシュが、溜息を吐きながら便箋を畳む。


 手紙の内容は短く要約するとこうだった。

 ある本を読んで、貴殿が灰色の髪を持つ美しい青年と知人であることを知りました。
 もし十一年前、その青年の両親が何者かに殺害されているのだったら、貴殿に詳しく伝えなければいけないことがあります。どうかお返事をいただけないでしょうか。


「……どう思う?」

 この手紙の主は、レネの素性も、下手をすれば……殺した犯人も知っている口ぶりだ。

「罠だと思います」

 いつも冷静なバルナバーシュの腹心は即答する。

「でも相手の住所まで書いてあるぞ?」

 レネの出生の秘密を知っている人間なんて、今まであの日記帳を読んだ人物しかいなかったので、バルナバーシュは手紙の差出人に興味を覚えていた。

「そんなのなんとでもできますよ。奴らの仕業かもしれませんし」

「でも奴らだったら、隣国から手紙なんか出さずに、直接レネを攫いに来てるだろう? それにわざわざこっちのお伺いを立てる必要あるか?」

「……確かに、それは一理ありますね。でもこの手紙は私が預かっていていいですか?」

「ああ。なにか調べるのか?」

「ええ、ちょっと」

 そう言うと、ルカーシュは口元に思わせぶりな笑みを浮かべた。


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