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1章 君に剣を捧ぐ
15 決断
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慣れない手続きに手間取ったがなんとか全てを終わらせ、必要な荷物をシモンの屋敷へと送る準備も済んだ。
これでやっとメストへ戻ることができる。
バーラと二人で過ごす間、バルトロメイは悩みに悩みまくっていた。
マトヴェイたちから指摘されたように、祖父のシモンは、あわよくば自分とバーラが所帯を持つことを望んでいるのだろう。
でないと未婚の女性を若い男と旅をさせたりはしない。
そして、間違いなくバーラは自分に好意を持っている。
バーラはレネを嫌ってはいないが、少し疎ましく思っていることもちゃんと気付いている。
自分はどうだ?
バーラを独身の若い女性として失礼のないように扱うが、相変わらずレネの方ばかり見ている。
こればかりはどうしようもない。
彼女はあくまでも護衛対象であって恋愛対象ではない。
心から求めているのはレネなのだ。
もし自分がバーラの気持ちを受け入れなくとも、婿候補がテサク家にはあと三人もいるので心配はいらない。
だが、バーラの気持ちはどうなる?
犬猫を番わせるのではないのだ。
バルトロメイから断られ傷付いているところに、じゃあ違う孫とはどうだ? と言われても傷を抉るだけだろう。
祖父は無思慮な人物ではないので、そんなことはしないと思うが、バルトロメイがバーラの気持ちを受け入れないならば、バーラの心が傷付くのは間違いない。
そもそも、なぜこんなにバルトロメイが悩んでいるかと言うと——レネへの気持ちを抑えきれないからだ。
レネとバルトロメイは信頼できる同僚で、プライベートでも仲はよい。
だがレネにとっては、それ以上でもそれ以下でもない。
それはそうだ。
レネは同性に対して恋愛感情を抱かないのだから。
バーラを異性として意識しているレネを見て、バルトロメイは少なからずともショックを受けた。
(あいつは普通に女の子が好きなんだ……)
そして遠回しにバーラから言われた。
実子のバルトロメイがリーパにいることによって、養子のレネの立場が危うくならないのかと。
想いが通じ合っているのならば、まだそんな障害も乗り越えることができる。
しかし、このままだと二人は平行線を辿るだけだ。
周りを混乱させながらそんな状態を続けても、レネの為にはならない。
レネの立場をあやふやにしたまま、あの場に留まるのは、バルトロメイのエゴでしかない。
この前行った温泉だって、マトヴェイの幼馴染に裸体を揶揄われながらも、レネは動じることなく自然にあの二人と馬鹿話を繰り広げていた。
変な方向に話が転ばないかと、冷や冷やしていたのはバルトロメイだけだった。
今まで、無自覚で無防備なレネにバルトロメイはひとりで気を揉んでいたのだが、他の団員たちはなんてことない扱いをしていた。それはレネが一人でちゃんと対処できることを知っていたからだ。
自分には等身大のレネの姿を正しく認識できていない。
リーパの腕利き団員として見ていないから、自分の知らないところで無茶をすると怒りが湧いてくるのだ。
これが他の団員だったら気を揉むこともなく勝手にやって入ろとしか思わないのに、相手がレネだと目が離せなくなる。
(これじゃあただの干渉野郎だ……)
レネの役に立てたらと思っていたが、本当に自分は必要か?
ただ邪魔になっているだけじゃないか?
自分と同じ想いをレネに抱きながら、潔く身を引いたヴィートの姿が浮かんで来る。
決断する直前に、バルトロメイがヴィートに投げかけた言葉は、間違いなく彼に身を引かせた原因の一つになっている。
そんなことをしておきながら、自分はおめおめとレネの側にいるのか?
果たして自分に……その資格はあるのか?
祖父は、自分が騎士でいることを望んでいる。
小さい頃から自ら剣を握り、バルトロメイを騎士の道へと導いてきたシモンだが、久しぶりに会ったその姿は、以前よりも小さく年老いていた。
正月早々あんな大喧嘩をしてしまったが、本当は誰よりも祖父を尊敬していた。
そんな祖父を、安心させてやりたい気持ちはある。
バルトロメイが、溢れる気持ちを飲み込めば、全て丸く収まる。
自分が我儘さえ通さなければ、誰も悲しむ人間はいなくなるのだ。
(——俺がこの想いを殺しさえすれば……)
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