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閑話
エピローグ
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「馬鹿馬鹿馬鹿! 男同士で愛し合うなんて頭おかしいわっ!!」
屋敷に帰って来るとヴィオラは自室に篭り、思わず叫んでいた。
目を瞑ると、二人が熱い口付けを交わす光景が浮かび上がってくる。
カーテンの裏に隠れて二人の様子を盗み見ていたヴィオラは、ロランドが自分ではない他の誰かと愛し合っている光景を見るのに耐えられず、二人が浴室へ消えた隙に部屋を飛び出してきたのだ。
二人を見ていたら、ヴィオラと一緒にいた時のロランドがどれだけよそいきの仮面を被っていたのかがわかった。
恋人に対しては少し強引で情熱的だった。
それなのに青年は、どこか素直ではない所があり、渋々と行為を受け入れていたのに、それさえもロランドにとっては可愛いのか、愛おし気に接吻をして青年が素直になるまで待っていた。
飛び出してきたのでわからないが、あの後二人はヴィオラが想像もつかない方法で愛を育みあったのだろう。
考えただけで頭が沸騰しそうだ。
そんなロランドを振り向かせることができると簡単に考えていた自分が浅ましい。
知らず知らずのうちに頬を涙が伝い、声を上げて泣いていた。
ロランドのことだけではない、今まで鬱積していたすべての不満が堰を切ったように溢れてきた。
ヴィオラは周りから自分が我儘だと陰口を叩かれているのを知っているが、今まで生きてきた中ですべてが自分の意のままになって来たわけではない。
クリーチ男爵家は代々商売の才があり、そこらの伯爵家などよりも裕福だが、どんなに金を持っていようとも、越えられない階級差というものが存在する。
どんなに美しく着飾っても、自分より身分が上の令嬢たちから陰でコソコソと『勘違いしておこがましい』と言われていることも十分承知している。
名ばかりの傾きかけた家柄にしがみ付き金に困ってる貴族たちは、身分は低いが裕福なヴィオラをひがんでいるのだ。
だがそれらの悪意は関心の裏返しであって、結局令嬢たちは自分のことを無視できないほど意識している。
それを実感したのが、春先に父からプレゼントされたドレスだ。
『灰色と組み合わせるなんて!?』と最初令嬢たちは嫌味を言っていたくせに、撫子色をより美しく見せるという理由で、次々と令嬢たちはこの色の組み合わせのドレスを真似して作った。そしてアクセサリーには黄緑色を持ってくるところまでヴィオラの真似をしていた。
(馬鹿にしながらも、結局人の真似ばかりして……)
身分が上の者からは蔑まれ、身分が下の者に恋することも許されない。
ヴィオラはそんな中途半端な境遇にある自分を忌まわしく思う。
ドロステアでは長子相続制で、クリーチ男爵家には娘のヴィオラしかおらず、甥を養子にして跡継ぎとする。
相続権のない娘のヴィオラは結婚して家を出て行かなければならず、どんなに父に可愛がられていても財産は相続できない。
ロランドのことを諦めないといけないのなら、いっそのこと身分の高い相手と結婚して、自分を馬鹿にした者たちを見返してやろう。
そう思い立つと、壊れた蛇口のように流れていた涙がピタリと止まった。
答えが出ると、雨上がりの空の様に心の中に陽が差して来た。
(お父様が帰って来たら、幾つか来ている縁談話について相談しよう)
しばらくして、あれよあれよという間にヴィオラはある青年との結婚が決まる。
相手は父である伯爵の領地を管理し、既に嫡男として子爵を名乗っている美貌の青年だ。
その美貌もあってか常に令嬢たちの話題の人だったが、いい年をして今まで浮いた噂の一つもなかったので、社交界はその結婚の話題で持ちきりになった。
この結婚でヴィオラは貴族社会の闇を見ることになったが、未来の伯爵夫人としてのし上がれるのなら悪くはないと思った。
決して後悔はしていない。
屋敷に帰って来るとヴィオラは自室に篭り、思わず叫んでいた。
目を瞑ると、二人が熱い口付けを交わす光景が浮かび上がってくる。
カーテンの裏に隠れて二人の様子を盗み見ていたヴィオラは、ロランドが自分ではない他の誰かと愛し合っている光景を見るのに耐えられず、二人が浴室へ消えた隙に部屋を飛び出してきたのだ。
二人を見ていたら、ヴィオラと一緒にいた時のロランドがどれだけよそいきの仮面を被っていたのかがわかった。
恋人に対しては少し強引で情熱的だった。
それなのに青年は、どこか素直ではない所があり、渋々と行為を受け入れていたのに、それさえもロランドにとっては可愛いのか、愛おし気に接吻をして青年が素直になるまで待っていた。
飛び出してきたのでわからないが、あの後二人はヴィオラが想像もつかない方法で愛を育みあったのだろう。
考えただけで頭が沸騰しそうだ。
そんなロランドを振り向かせることができると簡単に考えていた自分が浅ましい。
知らず知らずのうちに頬を涙が伝い、声を上げて泣いていた。
ロランドのことだけではない、今まで鬱積していたすべての不満が堰を切ったように溢れてきた。
ヴィオラは周りから自分が我儘だと陰口を叩かれているのを知っているが、今まで生きてきた中ですべてが自分の意のままになって来たわけではない。
クリーチ男爵家は代々商売の才があり、そこらの伯爵家などよりも裕福だが、どんなに金を持っていようとも、越えられない階級差というものが存在する。
どんなに美しく着飾っても、自分より身分が上の令嬢たちから陰でコソコソと『勘違いしておこがましい』と言われていることも十分承知している。
名ばかりの傾きかけた家柄にしがみ付き金に困ってる貴族たちは、身分は低いが裕福なヴィオラをひがんでいるのだ。
だがそれらの悪意は関心の裏返しであって、結局令嬢たちは自分のことを無視できないほど意識している。
それを実感したのが、春先に父からプレゼントされたドレスだ。
『灰色と組み合わせるなんて!?』と最初令嬢たちは嫌味を言っていたくせに、撫子色をより美しく見せるという理由で、次々と令嬢たちはこの色の組み合わせのドレスを真似して作った。そしてアクセサリーには黄緑色を持ってくるところまでヴィオラの真似をしていた。
(馬鹿にしながらも、結局人の真似ばかりして……)
身分が上の者からは蔑まれ、身分が下の者に恋することも許されない。
ヴィオラはそんな中途半端な境遇にある自分を忌まわしく思う。
ドロステアでは長子相続制で、クリーチ男爵家には娘のヴィオラしかおらず、甥を養子にして跡継ぎとする。
相続権のない娘のヴィオラは結婚して家を出て行かなければならず、どんなに父に可愛がられていても財産は相続できない。
ロランドのことを諦めないといけないのなら、いっそのこと身分の高い相手と結婚して、自分を馬鹿にした者たちを見返してやろう。
そう思い立つと、壊れた蛇口のように流れていた涙がピタリと止まった。
答えが出ると、雨上がりの空の様に心の中に陽が差して来た。
(お父様が帰って来たら、幾つか来ている縁談話について相談しよう)
しばらくして、あれよあれよという間にヴィオラはある青年との結婚が決まる。
相手は父である伯爵の領地を管理し、既に嫡男として子爵を名乗っている美貌の青年だ。
その美貌もあってか常に令嬢たちの話題の人だったが、いい年をして今まで浮いた噂の一つもなかったので、社交界はその結婚の話題で持ちきりになった。
この結婚でヴィオラは貴族社会の闇を見ることになったが、未来の伯爵夫人としてのし上がれるのなら悪くはないと思った。
決して後悔はしていない。
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