菩提樹の猫

無一物

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13章 ヴィートの決断

6 攻略

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「レネだって同じ男だからわかるだろ? 一度スイッチが入ったらどうしようもなんないの」

「……わかるけど……」

 レネは仲間からの押しに弱い。
 無理矢理強行突破するよりも、拝み倒す方がいいに違いない。

「別に抱かせてくれってことじゃない。俺だって男が好きなワケじゃないし……ただちょっとヌクの手伝ってよ」

「……そんなの自分でやればいーだろ」

「ねえ、レネは戦った後にムラムラすることってないの?」
 
「……ねーよ…」

 そう言いながら黄緑色の瞳が横に逸らされたので、ヴィートは確信する。

(——嘘だ)

 レネも戦った後は身体に熱が溜まっているはずだ。

「一人でする時、どうやってんの?」

「は?」

 完全に否定される前に視点を変えて、レネの頭の中を混乱させ自分に有利な答えを引き出していく。
 ポリスタブの歓楽街で人を騙して金を稼いでいた時によく使った手口だ。
 思考停止している間にどんどんことを進めていく。

「俺さ~~エミルたちと同部屋だろ? だからいっつも夜中になると一人で手洗いに行くか、用具室の中に隠れてヌイてるんだぜ。いいよなぁ……レネは個室で」

 同室だとお互い気を使うことが沢山ある。

「オレだって……個室っていっても、夜中にルカ…副団長が修行の一環として奇襲をかけて来るからな。とてもじゃねーけど一人で風呂入ってる時くらいしかできねーよ」

 副団長のくだりは想像しただけでも恐ろしいが、ヴィートの思惑通りにレネが口を開きはじめ、内心ニヤリとほくそ笑む。
 自分のことをレネが話している隙に、向かい合っていた椅子を左隣に運んで身体を密着させる。話すことに夢中で隣へ来てもあまり気にしていない。

「じゃあ、大浴場で風呂に入らない時って溜まってる時なんだ」

 身体を屈めて斜め下からレネを見上げた。
 こんな時に上から見下ろすと相手に警戒感を与えてしまう。
 視線ひとつで相手に与える印象が変わってくる。

「……っ!? いや……そんなわけじゃねえって。疲れてる時とかも自分の部屋で入るし……」

 顔を真っ赤にしているということは、口では否定しているがほぼ正解だ。

(恥ずかしがって、可愛い)

 レネの方が年上なのだが、こういった所はうぶなので、ヴィートの方が一枚も二枚も上手だ。

「風呂でヌク時って石鹸で泡立ててやる派?」

「……石鹸はなんかジンジンしねえ? オレは普通にシャワー浴びながらするかな……」

 まんまとヴィートの口車に乗せられ、自慰のやり方を告白しているレネ。
 あと一押しだ。

「え、そう? もしかしてレネって敏感なのかな?」

「……わっ!?……ちょっ……お前なにしてんだよっ!」

 すぐ隣りにある裸の脇腹を撫でると、レネはビクリと身体を竦ませヴィートから遠ざかる。

「やっぱ、レネは敏感なんじゃ? ほら、俺の脇腹さわってみろよ。全然なんも感じね~し」

 再びレネの手を取ると、ヴィートは自分の脇腹に誘導する。

「ほら」

 脇腹や腹筋の辺りを撫でさせるが、ヴィートは平気な顔をして笑いながらレネを見返す。

「むっ……」

 ピンク色の唇を一文字に結んで、ヴィートを横目で睨む。

(へっ、悔しがってる)
 
 どうにかしてヴィートを感じさせようと、レネは先ほどよりも微妙なタッチで脇腹を撫でてきた。

「……っ」

「ほら、お前だって感じてるじゃねーか」

 ぴくっとヴィートの身体が反応するのを確認すると、やり返したとばかりにレネはにんまりと笑った。

「じゃあ、お返しだっ!」

 ヴィートは先ほど反応を見せた胸の飾りを横から指先でくすぐる。

「……あっ…クソッ……お前どこ触ってんだよっ……っ……」
 
「あれ?……まさか女の子みたいに乳首イジられて感じるわけないよな?」

 試すように乳輪をなぞりゆっくりと円を描く。

「まっ、まさかっ……」

「そうだよな。それじゃあまるで女の子だもんな」

 レネは女扱いされることをなによりも嫌う。
 ヴィートの手を阻止したら、レネは感じていることを認めることになる。
 この負けず嫌いは、絶対に認めない。

 次第に芯を持つようになったピンク色の突起を、今度は人差し指でピンと弾いた。

「あっ……」

 少し高めの明らかに普段とは違うレネの声が、直接ヴィートの股間に響く。
 しかし今はレネを攻めているのだ自分が感じてはいけないと、前屈みになっていた背筋をグッと伸ばす。

「ん? なに女の子みたいな声出してんの? もしかして今の気持ちよかったの?」

「……ち…違うっ!」

 猫の目で睨み返して来るが、それさえもヴィートにとっては身体をたぎらせる燃料にしかならない。

「ふ~~ん……」

 背中側から反対側に腰を抱くように手を回し、脇腹をそろりと撫でる。

「ひゃっ!?」

「無理しなくっていいんだぜ? 素直になりなよ」

 レネは自分より弱い人間にマウントを取られるのが大嫌いだ。
 同じ方法で自分が優位に立とうと行動を起こしてくるはずだと、ヴィートは読んでいた。

「わっ!?」

 太腿の内側をレネの左手が探ってくる。
 驚いた声を上げながらも予想通りの展開に、ヴィートは人の悪い笑みを浮かべていた。

「ふん。ガキが舐めたマネすんじゃねえよ」

 レネはそんなことにも気付かず、自分が優位に立っていると勘違いしている。

「おいっ……」

 少し焦った声を上げてやると、レネは気を良くしたのかますますヴィートの際どい場所をさすりはじめた。
 今のところ恐ろしいくらいヴィートの思惑通りに進んでいる。

(こいつあんまりチョロすぎないか?)

 他人事ながら、こんな人を惹きつける容姿をしているのにレネの無防備さが心配になってくる。


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