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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
番外編 狼vs猫2
しおりを挟む「痛い目みないといけねえのはお前だろ? 一発ぶち込まれねえとわかんねえみてえだな……」
(——コイツに遠慮する必要なんてない。コイツは俺の獲物だ)
ただの手合わせから、狩りに変わった瞬間だ。
それからというものバルトロメイはレネに容赦なく攻撃を仕掛けていく。
身体のあちこちに血を滲ませ、美しい手負いの獣はバルトロメイの雄の欲望を刺激する。
雄の本能は、得物を獲って食らうことだ。
すでにもうバルトロメイの頭は、レネを気絶させ肩に担いで持ち帰り、犯すことしか考えていない。
しかしレネも負けておらず、手や太ももを何度も剣を叩き込まれた。
打ち込まれる度に、身体にゾクゾクとした快感が走る。
手強い獲物ほど、征服した時の達成感は大きい。
若い狼は完全に本能を剥き出しにし、獲物に向かって駆け出した。
◆◆◆◆◆
レネはこの男のことがわからない。
心が通じ合ったと思った時は一瞬で、すぐに自分のことをまるで女のように扱う。
バルトロメイも同じ男から屈辱を受けていた経験があるのなら、どうして自分をそのように扱うのだろうか?
レネはどうしても納得いかなかった。
この……なにものにも代え難い悔しさを、バルトロメイも味わっているというのに。
レネにとっては力ずくだろうが、優しさからだろうが、男の身でありながら受け身に回ることは屈辱意外のなにものでもない。
だからレネは、バルトロメイの自分に見せる甘さを徹底的に拒絶した。
「てめぇは……オレのことを女と勘違いしてんじゃねえか? オレじゃなくゼラやヤンだったら、こんな舐めたマネしてねえだろ? お前みたいな馬鹿は一度痛い目に遭わねえと治らねえんだろーな」
「痛い目みないといけねえのはお前だろ? 一発ぶち込まれねえとわかんねえみてえだな……」
返ってきた言葉とともに、バルトロメイは態度をガラリと変えた。
その目は、班長室にいた男たちと同じだった。
あの屈辱を思い出してレネはゾクりと背中が寒くなると同時に、ドキドキと心臓が高鳴るのを感じる。
今はあの時と違い手には武器がある。
レネは時おり何者かに追いかけられる夢を見る。
夢を見ている時は、得体の知れない相手に追いかけられるのが不気味で、捕まったらいったい自分はどうなるのだろう……という震えるような恐怖しか感じない。
だが、中途半端な所で目が覚めるとレネは目を瞑り、もう一度その夢を頭の中で再現して、自分のことを追いかけていた相手を探しているのだ。そして頭の中で何度も、次に追いかけられたらこう対処するのにとシミュレーションをしている。
獲物になることを屈辱と感じているのに、一方では追いかけられることを求めている。
正反対の反応に、自分はなにを望んでいるのだろうかと不思議に思う。
きっと、ギリギリのところで危険を回避することに快感を覚えているからだ。
もしかしたら、今の感覚はそれに似ているかもしれない。
バルトロメイの剣は一撃が重い。
容赦のない攻撃を何度かくらい、身体は悲鳴を上げていたが、負けたらこの身を食われてしまいそうな……そんな迫力が今のバルトロメイにはあった。
ここで負けたら、たぶん一生この男から格下として見られる。
いくらバルナバーシュと似ているからといって、バルトロメイにまでマウントを取られ腹を見せるなんて御免だ。
バルトロメイは、いま一番レネが恐れている雄の匂いを纏わせ、襲いかかってきた。
「くっ……」
何度もバルトロメイの重い攻撃を受けたため足元がフラついている。
そこへ足払いを掛けられ、気がついた時には地面へ仰向けに倒れていた。
ギラギラした目が自分を見下ろしている。
口から涎がだらだらと零れ落ちてきそうなくらい、牙を剥き出しにしてハアハアと息を乱していた。
レネは強烈な既視感に襲われていた。
この欲望に満ちた目に、前にも一度この体勢で見下されていたことがある。
(——なんだ……なにがあった?)
思い出そうとするが、どうしても思い出せない。
その間にもバルトロメイが、レネの身体を膝立ちに跨いで拳を振り下ろしてくる。
「ぐぅっ……」
腹を殴られ、口の中に胃酸の味が広がった。
もう一発殴られたら意識を失う。
そう思った時に、身体が咄嗟に動いた。
完全に馬乗りにはなられていなかったので、腹筋の力で上半身を起き上がらせると、お返しだと言わんばかりにバルトロメイの腹に拳を沈める。
「がっ……」
レネの方が体重の軽い分、バルトロメイのパンチに比べ威力は少ないが、不利な体勢からは抜け出すことができた。
先ほど殴られた際に地面へ落としてしまった木刀を掴むと、バルトロメイの鳩尾を思いっきり突いた。
「——おいっ大丈夫か?」
仰向けに倒れたままのバルトロメイに、手合わせを見ていた団員たちが急いで駆け寄る。
「完全に気絶してるな」
「担架で運ぶぞっ」
手合わせでこうなることは、リーパではよくあることなので、団員たちも意識のない人間を運ぶのに慣れている。
レネはそれを見届けるとヘナヘナと地面に膝をついた。
「はっ……」
今までにないゾクゾクとした感覚がレネの身体を駆け抜けた。
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