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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
エピローグ
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◆◆◆◆◆
バルナバーシュの私室にはいつもの三人が集まっていた。
「マルツェルの奴、完全に身から出た錆じゃねえか」
バルナバーシュは今日の昼過ぎに帰ってきた団員たちの報告を受けて、思わず苦笑いしたことを思い出す。
「あんな美人な奥さんがいるのに、泣かせるようなことばかりしやがって」
先ほどハヴェルもマルツェルの屋敷に駆けつけて本人と会い『飯を食っていかないか』と誘われた。
しかし半年ぶりに自宅に帰ってきて、夫婦水入らずの時間を邪魔するわけにも行かず、こちらにやって来た。
「これ、さっきボリスから三人にお土産があるって渡されたぞ」
ルカーシュが袋からなにやら本を三冊取り出す。
「ボリスって、あの決闘の時にいた癒し手か。……【ドロステア美少年・美青年図鑑】?」
さっそくハヴェルが本を取り出して中をペラペラと捲る。
「なんだその巫山戯た本は……」
なぜボリスがそんな本を自分たちにわざわざ買って渡すのだろうか?
バルナバーシュはボリスの意図が掴めず中身を開き、眉を顰める。
「なんじゃこりゃ……『注目度ナンバー1の美青年は、リー○護衛団の団長の愛人だとされている灰色の髪の美青年。この青年を巡ってリー○の団長は、実の息子と決闘騒ぎを起こし、無事愛人を取り戻し帰還する姿を多くの通行人に目撃されている。この美青年については、ハ○ェル商人もテプレ・ヤロで愛人として連れ歩いていたと目撃情報がある。目撃者のB男爵は、灰色の髪と黄緑色の瞳がまるで猫のようで、目の覚めるような美しい撫子色の乳首をしていたと語っている。リー○の団長とハ○ェル商人は親友同士で、どうやら愛人までも共有しているようだ』……っておいっ!」
かろうじて伏せ字になっているが、見るものが見ればすぐに誰だかわかる。
「おいっ!? なんだよこの本はっ!」
ハヴェルもひくりと顔を引き攣らせて本に見入っている。
まさかテプレ・ヤロにレネを愛人に仕立てて連れて行ったことまで書かれているとは思ってもいなかったのだろう。
女好きとして名を馳せているハヴェルに、美青年の愛人がいるなんて噂が広がれば、沽券に関わる問題だ。
(傍で見ている分には笑えるがな……)
だがバルナバーシュとて、レネは養子なのに愛人だと書かれていい気分はしない。
男同士で馬に相乗りするという誤解される行動はとっていたが。その時はそう受け取られるとはまったく考えていなかった。
「愛人を共有って穴兄弟かよっ……」
執務室では絶対口にしないような下品な言葉を口に出し、ルカーシュが隣でゲラゲラ笑い転げている。
ゴロゴロ長椅子の上を転がるので、隣に座るバルナバーシュまで振動が伝わりグラスの中の酒が揺れた。
バルナバーシュは頭にきて、隣で揺れる薄茶色の三編みを掴んで頭を叩く。
今日もなかなかいい音が響いた。
「っいって……叩くなよっ」
この男を黙らせるために、バルナバーシュは本を読み上げる。
「てめえな対岸の火事だってうかうかしてられねえぞ? 『今回もトップ10入り、堂々の第6位は、その妖艶な悩ましい声で男たちを惑わし、気に入ったら個人的にもベッドの上で歌ってくれる、謎の吟遊詩人。背中に残る鞭の跡が男たちの加虐心を刺激する。もう十年前から目撃情報があるが、その美貌は衰えることを知らず、未だに多くの男たちを惑わせる、この本でも常連の美青年だ。』とあるがいったい誰のことだ?」
「…………」
「笑えねえよな? 妖艶な吟遊詩人さん。美青年なんてさっさと卒業しろよ。もうそんな年じゃねえだろ?」
ハヴェルに聞こえないようバルナバーシュはその耳元で囁くと、ルカーシュは頬を引き攣らせ煙草に火を付けた。
他人事ではなくなりルカーシュの機嫌が急降下すると、バルナバーシュは『穴兄弟』と馬鹿にされた分だけ、スッキリとした気分になる。
(——ざまあみやがれ!)
ふだんならここで飛び道具が飛んで来る場面だろうが、今はハヴェルがいるので煙草を吸って怒りを抑えているようだ。
「こんな本、どこが出してんだよ? メストじゃ見かけたこともねえぞ?——どうも、テジット金鉱山とテプレ・ヤロでしか販売してないらしい」
ルカーシュはクローブ煙草を片手に本の奥付を読んでいるが、販売場所が特殊すぎる。
「メストでこの本を売り出したら、すぐに発行元に殴り込みに行ってやる」
バルナバーシュは思わず拳を握りしめた。
「特殊な需要しかないのが救いだな……」
そう言いながら、ハヴェルがズルズルと背もたれにもたれ掛かった。
どこで情報を得ているのかは謎だが、バルトロメイも含めるとリーパ内で四人、ハヴェルまでもがこの本に登場している。
まだルカーシュは『謎の吟遊詩人』とリーパが紐付けされてないのが救いだ。
この本でいう、団長の愛人と謎の吟遊詩人が師弟関係にあり、バルナバーシュと同じ屋根の下で暮らしているとわかったら、きっとこの本は大騒ぎになるだろう。
(——美青年も困りもんだな……)
バルナバーシュはぼりぼりと頭を掻いた。
レネとルカーシュの存在が周知されると、都合の悪い問題が他にも色々と出てくる。
早めに手を打たないといかない。
(……レネの存在を奴らに知られる前に)
バルナバーシュの私室にはいつもの三人が集まっていた。
「マルツェルの奴、完全に身から出た錆じゃねえか」
バルナバーシュは今日の昼過ぎに帰ってきた団員たちの報告を受けて、思わず苦笑いしたことを思い出す。
「あんな美人な奥さんがいるのに、泣かせるようなことばかりしやがって」
先ほどハヴェルもマルツェルの屋敷に駆けつけて本人と会い『飯を食っていかないか』と誘われた。
しかし半年ぶりに自宅に帰ってきて、夫婦水入らずの時間を邪魔するわけにも行かず、こちらにやって来た。
「これ、さっきボリスから三人にお土産があるって渡されたぞ」
ルカーシュが袋からなにやら本を三冊取り出す。
「ボリスって、あの決闘の時にいた癒し手か。……【ドロステア美少年・美青年図鑑】?」
さっそくハヴェルが本を取り出して中をペラペラと捲る。
「なんだその巫山戯た本は……」
なぜボリスがそんな本を自分たちにわざわざ買って渡すのだろうか?
バルナバーシュはボリスの意図が掴めず中身を開き、眉を顰める。
「なんじゃこりゃ……『注目度ナンバー1の美青年は、リー○護衛団の団長の愛人だとされている灰色の髪の美青年。この青年を巡ってリー○の団長は、実の息子と決闘騒ぎを起こし、無事愛人を取り戻し帰還する姿を多くの通行人に目撃されている。この美青年については、ハ○ェル商人もテプレ・ヤロで愛人として連れ歩いていたと目撃情報がある。目撃者のB男爵は、灰色の髪と黄緑色の瞳がまるで猫のようで、目の覚めるような美しい撫子色の乳首をしていたと語っている。リー○の団長とハ○ェル商人は親友同士で、どうやら愛人までも共有しているようだ』……っておいっ!」
かろうじて伏せ字になっているが、見るものが見ればすぐに誰だかわかる。
「おいっ!? なんだよこの本はっ!」
ハヴェルもひくりと顔を引き攣らせて本に見入っている。
まさかテプレ・ヤロにレネを愛人に仕立てて連れて行ったことまで書かれているとは思ってもいなかったのだろう。
女好きとして名を馳せているハヴェルに、美青年の愛人がいるなんて噂が広がれば、沽券に関わる問題だ。
(傍で見ている分には笑えるがな……)
だがバルナバーシュとて、レネは養子なのに愛人だと書かれていい気分はしない。
男同士で馬に相乗りするという誤解される行動はとっていたが。その時はそう受け取られるとはまったく考えていなかった。
「愛人を共有って穴兄弟かよっ……」
執務室では絶対口にしないような下品な言葉を口に出し、ルカーシュが隣でゲラゲラ笑い転げている。
ゴロゴロ長椅子の上を転がるので、隣に座るバルナバーシュまで振動が伝わりグラスの中の酒が揺れた。
バルナバーシュは頭にきて、隣で揺れる薄茶色の三編みを掴んで頭を叩く。
今日もなかなかいい音が響いた。
「っいって……叩くなよっ」
この男を黙らせるために、バルナバーシュは本を読み上げる。
「てめえな対岸の火事だってうかうかしてられねえぞ? 『今回もトップ10入り、堂々の第6位は、その妖艶な悩ましい声で男たちを惑わし、気に入ったら個人的にもベッドの上で歌ってくれる、謎の吟遊詩人。背中に残る鞭の跡が男たちの加虐心を刺激する。もう十年前から目撃情報があるが、その美貌は衰えることを知らず、未だに多くの男たちを惑わせる、この本でも常連の美青年だ。』とあるがいったい誰のことだ?」
「…………」
「笑えねえよな? 妖艶な吟遊詩人さん。美青年なんてさっさと卒業しろよ。もうそんな年じゃねえだろ?」
ハヴェルに聞こえないようバルナバーシュはその耳元で囁くと、ルカーシュは頬を引き攣らせ煙草に火を付けた。
他人事ではなくなりルカーシュの機嫌が急降下すると、バルナバーシュは『穴兄弟』と馬鹿にされた分だけ、スッキリとした気分になる。
(——ざまあみやがれ!)
ふだんならここで飛び道具が飛んで来る場面だろうが、今はハヴェルがいるので煙草を吸って怒りを抑えているようだ。
「こんな本、どこが出してんだよ? メストじゃ見かけたこともねえぞ?——どうも、テジット金鉱山とテプレ・ヤロでしか販売してないらしい」
ルカーシュはクローブ煙草を片手に本の奥付を読んでいるが、販売場所が特殊すぎる。
「メストでこの本を売り出したら、すぐに発行元に殴り込みに行ってやる」
バルナバーシュは思わず拳を握りしめた。
「特殊な需要しかないのが救いだな……」
そう言いながら、ハヴェルがズルズルと背もたれにもたれ掛かった。
どこで情報を得ているのかは謎だが、バルトロメイも含めるとリーパ内で四人、ハヴェルまでもがこの本に登場している。
まだルカーシュは『謎の吟遊詩人』とリーパが紐付けされてないのが救いだ。
この本でいう、団長の愛人と謎の吟遊詩人が師弟関係にあり、バルナバーシュと同じ屋根の下で暮らしているとわかったら、きっとこの本は大騒ぎになるだろう。
(——美青年も困りもんだな……)
バルナバーシュはぼりぼりと頭を掻いた。
レネとルカーシュの存在が周知されると、都合の悪い問題が他にも色々と出てくる。
早めに手を打たないといかない。
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