菩提樹の猫

無一物

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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ

16 待ち構えていたのは 

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 昨日マルツェルに事情を説明し、この遊技施設にある自習室で朝一番に待ち合わせをしておいた。マルツェルには、来る時に八班の誰かに自分の行き先を告げてくることも忘れずにと言ってある。
 
 レネは朝からハミルがこっそり宿を抜け出すのを確認すると、自分も宿を抜け出し計画していた行動を開始する。
 他の団員たちに話すと、また昨日のバルトロメイのように面倒なことになりかねないので、置き手紙だけ手短に書いておいた。
 そしてレネの予想通り、ハミルはここへ幼馴染とともにやって来たと言うわけだ。
 

 ハミルを連れ自習室から廊下に出ると、ホールのようになっている入口に、来る時にはいなかった男たちが待っていた。

「昨日から、やけにお前の周辺が騒がしいと思ったら、まさか一人で抜け駆けでもするんじゃないだろうな?」
 
「……班長っ」
 
 八班の班長が班の連中を引き連れて、ここまでやって来ていた。十五、六人は居るだろうか、いかにも強そうな男たちばかりだ。

「お前も、昨日はよくもやってくれたな。昨日はあれだけじゃ物足りなかったろ? ここの連中で後でたっぷり可愛がってやる」
 
 班長の言葉に、昨日の出来事が脳裏を過るが、隣に護るべきマルツェルが居るお陰で、グッと踏みとどまることができた。

「なあ……あの緑色のサーコートはリーパだろ?」
「まさか……あの猫ちゃんがか?」
「マルツェルの護衛?」
「どうなってんだよ?」
「——あっ!? 灰色の髪をした美青年!!」
「あの本の?」
「は? もしかしてリーパの団長の愛人っ!?」

 八班の男たちは、メストから連れてこられた浮浪者たちがほとんどだ、レネが着ている松葉色のサーコートを見て反応を示している。最後の方は聞き捨てならないが。

「おいお前らっ、あの二人を捕まえろっ!」
 
 班長の命令で、男たちが二人に襲いかかってくる。
 レネは背中にマルツェルを庇うと、向かってくる男たちと対峙した。
 体格のいいマルツェルを華奢なレネが護る構図は滑稽に見えるだろう。
 
 殴りかかって来る男の腕をサッと掴んで、次々と攻撃してくる男たちの盾にした。
 
「グホッ……」
 
 味方の攻撃をもろに受け、盾にされた男はくぐもった声を上げる。
 だがレネもこのままでは身動きがとれず、マルツェルの方に回り込まれてしまうかもしれない。
 レネが盾にしていた男の背中を思いっきり蹴り倒すと、前の方にいた何人かの仲間が巻き添えになって床に倒れた。
 迫ってきていた男たちも後退せざるをえない。

(——ここからどうする?)
 
 男たちの勢いは止まったものの、大人数相手の肉弾戦にさすがのレネも考えあぐねていた。

「あいつよりマルツェルを狙えっ!」
 
 班長の声で、硬直していた状況が一気に変化した。
 男たちは横へと回り込みマルツェルの方へと向かいだした。

(——やばいっ!)
 
「おい、テメェらは俺たちが相手だっ!」
 
 八班の男たちを挟み込むように、建物の入口から松葉色の揃いのサーコートを着た男たちが雪崩込んできた。
 
「なんだお前らはっ!?」
 
 まさかの侵入者たちに、マルツェルの方へと向かおうとしていた男たちの勢いが削がれると、リーパの団員たちは迷うことなくマルツェルの方へと走り出す。

(——よかった。ちゃんと置き手紙を読んで来てくれた)
 
 レネは仲間たちの加勢に胸を撫で下ろす。

 一瞬の隙をついてマルツェルを囲んだ松葉色にの集団を、班長が凄みのある眼光で睨みつけた。
 
「お前たちに、うちの班の鉱夫に手を出す権限はない。貴重な労働力だ、そいつをこっちに返してもらおうか」
 
 班長の言葉を聞いて、ボリスが不敵な笑みを浮かべた。

「もうマルツェルさんはここの労働者ではない。管理棟で正式な手続きを済ませてきた」

「なんだとっ!? どういうことだっ!」
 
 予想もしない事態に、班長は驚きを隠せないでいるようだ。
 
「マルツェルさんの身分を証明する書類を用意して来ていたのさ。浮浪者でないと証明できれば、ここに縛り付けられる謂れもないからな」
 
 マルツェルの労働者番号がわからないと手続きに移れなかったので、今朝になってしまったが、なんとか間に合った。
 レネは昨晩、ボリスに傷の治療を受けている時に、バルナバーシュの手紙の内容を大まかに説明して、朝一番で管理棟に手続きへ行くよう頼んでいた。

「舐めたマネしてくれやがって」
 
 歯噛みしながら、班長が淡々と説明するボリスを睨む。
 もう、自分の班とは関係ない人間に手出しすることはできなくなった。
 班の男たちも先ほどの勢いはどこへやら、リーパ護衛団と戦う気概のある者はいないようで、悔しそうな顔をしながらも、班長は男たちを連れて渋々と宿舎へと戻っていった。


「俺たちも取り敢えず宿に戻ろうぜ。猫ちゃんには訊きたいことが山ほどあるからな」
 
 カレルは人の悪い笑みを浮かべながら、レネの方を見た。
 
「そうだよな。俺たちがしらねえ間にコソコソ動きやがって」
 
 ベドジフからも睨まれる。

「わかったよ……」
 
 仲間たちに隠れて行動していたし、ちゃんと説明しないと納得してくれないだろう。
 
(面倒臭いな……)
 
 レネは少し困った顔をして鼻の頭を掻いた。

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