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11章 金鉱山で行方不明者を捜索せよ
9 労働者名簿
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二人の間で沈黙が続く。
すると廊下にドカドカと複数の足音が響いた。
皆、帰ってきたようだ。
「凄かったぞ。客たちがお前の話題で持ちきりだった」
「あの美青年は?ってえらい質問攻めにあったぞ」
どっさりとそれぞれに本を買い込んで、団員たちが部屋へと戻ってきた。
なんと、ボリスまでもがなにやら荷物を抱えているではないか。
「オレも欲しかったな……」
レネがぼそりと呟く。
「巨乳物で良かったら俺が読み終わったあとに回してやるよ」
しょんぼりと項垂れるレネの背中を叩いてベドジフが慰める。
「……うん。未亡人モノじゃないのがいい」
未亡人はレネにとって地雷だ。
「でも、お前早めに帰ってきて正解だったよ。あれからお前をひと目見ようと店に人が集まって来てたぞ」
「美人なら男でも拝みたいんだろうな」
「ペニーゼにもヌキに行けねえし、ここの奴らには同情しかねえな……」
団員たちは、閉鎖された空間に閉じ込められた男たちに同情的だ。
「なんだよそれ……」
レネにとっては全部が面白くない。
翌朝、主人捜しを行うハミルに付いて、団員たちは再び管理棟へと訪れていた。
「あの、労働者名簿を見せてもらえますか?」
ハミルは受付で案内された部屋に行き、係の事務員に尋ねた。
「はい、名簿ならその棚にあります。一応説明しておきますと、ここの鉱夫たちは五十人ずつの八班に分かれて作業しています。宿舎も八つに分かれて、それぞれに班長がいて鉱夫たちを取り仕切っています。なにかわからないことがあったら私に質問して下さい」
的確に質問に答えると、事務員はまた自分の作業に戻る。
「じゃあ手分けして探そうよ」
レネもハミルから名簿をわけてもらい、他の団員たちに配る。
「あんたのご主人様の名前ってなんだっけ?」
ベドジフが名簿を見ながら尋ねる。
「マルツェルです」
50人×8班なので、皆で探せばすぐに終わるはずだ。
「おい待て、俺の名簿は番号しか載ってねえぞ」
カレルが眉を顰める。
「それは八班の名簿ですね。八班は浮浪者たちの集まりなので名前ではなく番号で管理しています」
ピクリと耳を動かした事務員が、質問してもいないのに答えをくれた。
なかなか気の利く男だ。
「ああ、あの空き地に集められてる人たちの行きつく先なのね……」
リーパ本部の近くにある河原の空き地で浮浪者たちが集められ、家畜用の荷馬車に乗せられて運ばれるのをレネも何度も見たことがある。
結局、全員でマルツェルの名前を探したが、名簿に名前は載っていなかった。
「ということは……八班にいるかもしれないんだな」
「それか、まったく他人の空似でここには旦那様がいない可能性もあります」
ハミルが告げる。
「八班の鉱夫たちとはどうやったら会えるんですか?」
ボリスが事務員に質問する。
「休日だったら居住地内を自由にしてますよ。まあ後は、就業後宿舎を訪ねていく手もありますが、八班は止めた方がいいです。他の労働者とは違うので……」
事務員は言葉を濁す。
「どういう意味ですか?」
ボリスは詳しく事情を尋ねる。
「あの班は国の政策で、強制的に労働させている浮浪者たちの集まりです。彼らは敷地外に出る自由はありません。ですから部外者に対して友好的ではないのです。それに八班をまとめる班長は浮浪者ではないのですが、あまりいい噂は聞きません。ですから、休日に労働者たちを外で一人一人見て回った方が得策かと思われます」
「鬱憤が溜まってるってことか……」
カレルが呟く。
「まあ、そうですね……宿舎は彼らの縄張りですから無闇矢鱈と近付かない方がいいです」
「あの……その八班の休みの日って今わかりますか?」
ハミルがおずおずと尋ねると、事務員は壁に掛けてある黒板を指さした。
労働日○
休日●
↓
12345678910
1班 ●○○○○○○○〇●
2班 ●●○○○○○○○○
3班 ○●●○○○○○○○
4班 ○○●●○○○○○○
5班 ○○○●●○○○○○
6班 ○○○○●●○○○○
7班 ○○○○○●●○○○
8班 ○○○○○○●●○○
「あそこに書いてあるのが、シフト表で●が休日です。因みに今日は6番なので……運がいいですね。明日と明後日が八班の休日です」
「ということは、明日になって居住地内を探せばマルツェルさんが見つかるかもしれないんだな」
カレルが顎に手を遣りながら考え込んでいる。
「見つかるといいな」
ベドジフはハミルに声をかけた。
「ええ」
ハミルが今までにない真剣な顔で頷く。
すると廊下にドカドカと複数の足音が響いた。
皆、帰ってきたようだ。
「凄かったぞ。客たちがお前の話題で持ちきりだった」
「あの美青年は?ってえらい質問攻めにあったぞ」
どっさりとそれぞれに本を買い込んで、団員たちが部屋へと戻ってきた。
なんと、ボリスまでもがなにやら荷物を抱えているではないか。
「オレも欲しかったな……」
レネがぼそりと呟く。
「巨乳物で良かったら俺が読み終わったあとに回してやるよ」
しょんぼりと項垂れるレネの背中を叩いてベドジフが慰める。
「……うん。未亡人モノじゃないのがいい」
未亡人はレネにとって地雷だ。
「でも、お前早めに帰ってきて正解だったよ。あれからお前をひと目見ようと店に人が集まって来てたぞ」
「美人なら男でも拝みたいんだろうな」
「ペニーゼにもヌキに行けねえし、ここの奴らには同情しかねえな……」
団員たちは、閉鎖された空間に閉じ込められた男たちに同情的だ。
「なんだよそれ……」
レネにとっては全部が面白くない。
翌朝、主人捜しを行うハミルに付いて、団員たちは再び管理棟へと訪れていた。
「あの、労働者名簿を見せてもらえますか?」
ハミルは受付で案内された部屋に行き、係の事務員に尋ねた。
「はい、名簿ならその棚にあります。一応説明しておきますと、ここの鉱夫たちは五十人ずつの八班に分かれて作業しています。宿舎も八つに分かれて、それぞれに班長がいて鉱夫たちを取り仕切っています。なにかわからないことがあったら私に質問して下さい」
的確に質問に答えると、事務員はまた自分の作業に戻る。
「じゃあ手分けして探そうよ」
レネもハミルから名簿をわけてもらい、他の団員たちに配る。
「あんたのご主人様の名前ってなんだっけ?」
ベドジフが名簿を見ながら尋ねる。
「マルツェルです」
50人×8班なので、皆で探せばすぐに終わるはずだ。
「おい待て、俺の名簿は番号しか載ってねえぞ」
カレルが眉を顰める。
「それは八班の名簿ですね。八班は浮浪者たちの集まりなので名前ではなく番号で管理しています」
ピクリと耳を動かした事務員が、質問してもいないのに答えをくれた。
なかなか気の利く男だ。
「ああ、あの空き地に集められてる人たちの行きつく先なのね……」
リーパ本部の近くにある河原の空き地で浮浪者たちが集められ、家畜用の荷馬車に乗せられて運ばれるのをレネも何度も見たことがある。
結局、全員でマルツェルの名前を探したが、名簿に名前は載っていなかった。
「ということは……八班にいるかもしれないんだな」
「それか、まったく他人の空似でここには旦那様がいない可能性もあります」
ハミルが告げる。
「八班の鉱夫たちとはどうやったら会えるんですか?」
ボリスが事務員に質問する。
「休日だったら居住地内を自由にしてますよ。まあ後は、就業後宿舎を訪ねていく手もありますが、八班は止めた方がいいです。他の労働者とは違うので……」
事務員は言葉を濁す。
「どういう意味ですか?」
ボリスは詳しく事情を尋ねる。
「あの班は国の政策で、強制的に労働させている浮浪者たちの集まりです。彼らは敷地外に出る自由はありません。ですから部外者に対して友好的ではないのです。それに八班をまとめる班長は浮浪者ではないのですが、あまりいい噂は聞きません。ですから、休日に労働者たちを外で一人一人見て回った方が得策かと思われます」
「鬱憤が溜まってるってことか……」
カレルが呟く。
「まあ、そうですね……宿舎は彼らの縄張りですから無闇矢鱈と近付かない方がいいです」
「あの……その八班の休みの日って今わかりますか?」
ハミルがおずおずと尋ねると、事務員は壁に掛けてある黒板を指さした。
労働日○
休日●
↓
12345678910
1班 ●○○○○○○○〇●
2班 ●●○○○○○○○○
3班 ○●●○○○○○○○
4班 ○○●●○○○○○○
5班 ○○○●●○○○○○
6班 ○○○○●●○○○○
7班 ○○○○○●●○○○
8班 ○○○○○○●●○○
「あそこに書いてあるのが、シフト表で●が休日です。因みに今日は6番なので……運がいいですね。明日と明後日が八班の休日です」
「ということは、明日になって居住地内を探せばマルツェルさんが見つかるかもしれないんだな」
カレルが顎に手を遣りながら考え込んでいる。
「見つかるといいな」
ベドジフはハミルに声をかけた。
「ええ」
ハミルが今までにない真剣な顔で頷く。
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