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9章 ネコと和解せよ
15 平行線
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◆◆◆◆◆
帰り道、二人っきりになってもやはりこの話題になる。
「お前、なにしたんだよ?」
「お前が寝てる時に色々あったんだよ。別に大したことじゃない」
レネは昨夜のことをまったく覚えてない。
こんな美味しい展開があっていいのかと思う反面、こんな無防備でいいのだろうか? という不安もある。
自分のような男がいたら、レネを酔わせてしまえば簡単に手を出すことができるではないか……。
昨日はじめて会った祖父とダニエラという男装の麗人には、自分の下心を簡単に見抜かれ、昨夜手を出したのも完全にバレてしまった。
誂われはしたが、二人がおおらかな人間で助かった。
だが、こんな外見の割には繊細なところのあるバルトロメイは、朝食の間じゅう針のむしろ状態だった。
自分でも、なんであんなに大胆な行動をしてしまったのかはわからない。
レネみたいな極上の得物が、無防備に転がっているからいけないのだ。
「なんだかオレだけ除け者じゃん」
どうやらレネは朝食を食べている間も、ずっと自分だけ知らないことの話をされるのが面白くなかったようだ。
「酔っ払ってたから仕方ないだろ」
「お前、オレが知ったら団長に言いふらすと思ってるんだろう?」
「は?」
(——こいつはどうでもいい所で勘が鋭い)
痛い所を突かれてもごまかし通すしかない。
レネを取り戻すためなら団長の座を辞任してまで決闘を挑む男に、手を出したのがバレたらどうなる?
この前のように剣を腹に貫通させたくらいではきっと済まないだろう。
だがこちらにも言い分があった。
「それ言うなら、お前だって俺に黙ってたことがあるだろ?」
「え?」
レネがまるでなんのことかわからない顔をする。
「お前、先代が禿げてることワザと黙ってて、俺の反応を見て後ろで笑ってたろ?」
「——うっ……」
黄緑色の視線が泳ぎはじめた。
(わかりやすい奴だ……)
「お前は血が繋がってないからって、高みの見物か? いいさ、俺だって禿げてきたら爺さんみたいに潔く剃ってやるさ。男は髪じゃない」
まるで自分に言い聞かせるようにバルトロメイは唱える。
「——ごめん……」
レネは俯いたまま謝罪を口にすると、なにやら言い辛そうに言葉を続ける。
「だってさ……男前で……剣も強くて……性格までいいってさ……いいとこばっかりじゃん……オレが喉から手が出るほど欲しいものばかり持ってる。——禿げるくらいいいじゃん……」
思わぬ言葉に、バルトロメイは胸を締め付けられる想いに駆られる。
まさか自分をそんな風に思ってくれていたなんて……。
「レネ……」
(——だが俺が喉から手が出るほど欲しいのは——お前だ……)
これを素直に言えたらどれだけいいだろうか。
伝えたとしても、この青年はこの言葉の意味などきっと理解しない。
レネはバルトロメイのような男になりたくて、そしてバルトロメイはレネを違う意味で手に入れたいのだ。
なにかが起こらない限り、二人の思いは交差することなく平行線だ。
友情は生まれたとしても、バルトロメイが思う愛は育めない。
(——切ねえ……)
「あっ……でも、オレの一番憧れは団長で、その次はゼラだ」
謝って来たかと思えば、自分の気持ちを吐露して照れてしまったのか、少し顔を赤くして次に吐かれたセリフがこれだ。
「なんだよそれ……」
団長はよいとして、ゼラとは、あの漆黒の肌を持つ長身の美男のことか。たしか団員最強と噂で聞いた。
自分の剣の師の名が出てこないところに、レネの心の屈折を感じる。
まあいい。
今回の旅でレネとの距離は近付いた。
触れることにも成功した(同意は得ていないが……)。
少々強引だったが、後悔はしていない。
あれをオカズにしばらくは食っていける。
この先どうなるかはわからないが、これからも一緒にレネといることを許されただけでも嬉しかった。
「なにさっきから考え込んでんだよ。さっさと帰らないと次の仕事に間に合わないぞっ」
先を行くレネから声をかけられ、バルトロメイはすぐに馬の脚を早めた。
帰り道、二人っきりになってもやはりこの話題になる。
「お前、なにしたんだよ?」
「お前が寝てる時に色々あったんだよ。別に大したことじゃない」
レネは昨夜のことをまったく覚えてない。
こんな美味しい展開があっていいのかと思う反面、こんな無防備でいいのだろうか? という不安もある。
自分のような男がいたら、レネを酔わせてしまえば簡単に手を出すことができるではないか……。
昨日はじめて会った祖父とダニエラという男装の麗人には、自分の下心を簡単に見抜かれ、昨夜手を出したのも完全にバレてしまった。
誂われはしたが、二人がおおらかな人間で助かった。
だが、こんな外見の割には繊細なところのあるバルトロメイは、朝食の間じゅう針のむしろ状態だった。
自分でも、なんであんなに大胆な行動をしてしまったのかはわからない。
レネみたいな極上の得物が、無防備に転がっているからいけないのだ。
「なんだかオレだけ除け者じゃん」
どうやらレネは朝食を食べている間も、ずっと自分だけ知らないことの話をされるのが面白くなかったようだ。
「酔っ払ってたから仕方ないだろ」
「お前、オレが知ったら団長に言いふらすと思ってるんだろう?」
「は?」
(——こいつはどうでもいい所で勘が鋭い)
痛い所を突かれてもごまかし通すしかない。
レネを取り戻すためなら団長の座を辞任してまで決闘を挑む男に、手を出したのがバレたらどうなる?
この前のように剣を腹に貫通させたくらいではきっと済まないだろう。
だがこちらにも言い分があった。
「それ言うなら、お前だって俺に黙ってたことがあるだろ?」
「え?」
レネがまるでなんのことかわからない顔をする。
「お前、先代が禿げてることワザと黙ってて、俺の反応を見て後ろで笑ってたろ?」
「——うっ……」
黄緑色の視線が泳ぎはじめた。
(わかりやすい奴だ……)
「お前は血が繋がってないからって、高みの見物か? いいさ、俺だって禿げてきたら爺さんみたいに潔く剃ってやるさ。男は髪じゃない」
まるで自分に言い聞かせるようにバルトロメイは唱える。
「——ごめん……」
レネは俯いたまま謝罪を口にすると、なにやら言い辛そうに言葉を続ける。
「だってさ……男前で……剣も強くて……性格までいいってさ……いいとこばっかりじゃん……オレが喉から手が出るほど欲しいものばかり持ってる。——禿げるくらいいいじゃん……」
思わぬ言葉に、バルトロメイは胸を締め付けられる想いに駆られる。
まさか自分をそんな風に思ってくれていたなんて……。
「レネ……」
(——だが俺が喉から手が出るほど欲しいのは——お前だ……)
これを素直に言えたらどれだけいいだろうか。
伝えたとしても、この青年はこの言葉の意味などきっと理解しない。
レネはバルトロメイのような男になりたくて、そしてバルトロメイはレネを違う意味で手に入れたいのだ。
なにかが起こらない限り、二人の思いは交差することなく平行線だ。
友情は生まれたとしても、バルトロメイが思う愛は育めない。
(——切ねえ……)
「あっ……でも、オレの一番憧れは団長で、その次はゼラだ」
謝って来たかと思えば、自分の気持ちを吐露して照れてしまったのか、少し顔を赤くして次に吐かれたセリフがこれだ。
「なんだよそれ……」
団長はよいとして、ゼラとは、あの漆黒の肌を持つ長身の美男のことか。たしか団員最強と噂で聞いた。
自分の剣の師の名が出てこないところに、レネの心の屈折を感じる。
まあいい。
今回の旅でレネとの距離は近付いた。
触れることにも成功した(同意は得ていないが……)。
少々強引だったが、後悔はしていない。
あれをオカズにしばらくは食っていける。
この先どうなるかはわからないが、これからも一緒にレネといることを許されただけでも嬉しかった。
「なにさっきから考え込んでんだよ。さっさと帰らないと次の仕事に間に合わないぞっ」
先を行くレネから声をかけられ、バルトロメイはすぐに馬の脚を早めた。
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