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9章 ネコと和解せよ
14 虫刺され
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◆◆◆◆◆
「う゛う゛~~~~~~~」
起きてから頭がガンガンと痛い。
オレクから勧められるままに飲まされて、その後の記憶がまったくない。
朝起きてバルトロメイに『昨日のことを覚えてるか?』としきりに訊かれたのだが、なにも覚えてないのだ。
(情けない……)
「おいおい二日酔いかよ?」
昨日の行った居酒屋は朝と昼は食堂として店を開けている。
レネたちが店へ向かうと、先にオレクたちがなに食わぬ顔でお茶を飲んでいた。
「——まさかレネ……昨日のこと覚えてないのか?」
「え……!? なに?……オレなにか変なことした?」
ダニエラが思わせぶりに言うものだから、レネも真剣に悩んでしまう。
「したというより、された側だよなバルトロメイ?」
急に話を振られたバルトロメイが、お茶を吹き出す。
「なにやってんだよ、お前」
オレクが面白い玩具を見つけた子供のようにバルトロメイを小突く。
七十過ぎの爺さんは今日も朝から楽しそうだ。
「レネ、お前二日酔い以外にどっか具合が悪いとかないか?」
ダニエラも目を爛々と輝かせながらレネをジロジロと見つめる。まるで視姦されているようで居心地が悪い。
「え? 具合? 虫刺されくらいしかないけど……?」
今朝風呂に入っている時に気がついたのだが、胸や太ももに赤い跡が散っていた。
それを聞いたオレクが、ダニエラの横で肩を揺らしながら笑いはじめた。
(——さっきから……なにがそんなに面白いんだ?)
「こんな時期に? どこ刺されたんだよ?」
顔を引き攣らせながら、今日もきっちり男装しているダニエラが訊いてきた。
なにか必死に堪えているようだが、気のせいだろうか?
だがレネには、この女が考えていることなどわからない。
「……胸とか太ももとか……首も刺されてた」
すると、ダニエラの眉間にしわが寄る。
(なにかいけないことなのか?)
レネはダニエラが笑いを堪えるのに、自分の太ももを一生懸命つねっていることなど知らない。
「毒虫とかかもしれないぞ。どれ、ちょっと見せてみろよ」
「えっ! 毒虫?」
痛くも痒くもなんともないが、こんな経験は初めてなので、ダニエラに言われるがまま首筋にかかった髪を払いのけ、赤くなった跡を見せた。
「あー本当だ。赤くなってる。でも痛みとかはないんだろう?」
「うん。痒くもなんともない」
「じゃあ大丈夫だ。でも害虫がいたんだろうな」
「でかいのがな」
オレクが口を挟む。
「おいバルトロメイ、顔色が悪いぞ。お前も二日酔いなのか?」
ダニエラは楽しそうに、叱られた飼い犬みたいに縮こまっているバルトロメイい目を遣る。
「……いいえ」
「だよな。昨日は酔っ払ったレネをお前が宿まで連れて帰ったもんな」
「えっそうなの……ごめん」
なんだか悪いことをさせてしまった。
「いいんだよ。こいつは。それ以上の見返りをもらっているはずだ」
そう言いながら、オレクは孫の頭を叩いた。
「いてっ……」
なぜかバルトロメイは反論もせずされるがままだ。
さっきから、どうも自分だけ話の輪の中に入っていない。
「なんだよ……やっぱりオレ、昨日酔っ払ってる間に変なことしたんだろ?」
「いや、ただ寝てただけだから安心しろ」
オレクに言い切られると、それ以上訊くわけにもいかないので、レネは話題を変える。
「そういえば……団長からの手紙はなんだったの? 途中で刺客から襲われたんだけど?」
「ああ、あれはこの手紙の情報を俺に知られたくない連中の仕業だろう。昨日手紙を俺が読んだ時点でやつらの役目は終わった」
「ふ~~ん。なんかよくわかんないけどオレクが狙われるとかはないんだよな?」
今度はオレクたちに刺客が行ったら、いくら強いとはいえ七十過ぎの老人だ、心配にもなる。
「俺を直接ねらった時点でそいつらの正体がバレるからな。こっちには手は出してこない。お前らももう狙われることはないから安心しろ」
「わかった。オレクが言うならもう気にしない」
この問題は自分たちの領域の話ではないようなので、レネはこれ以上考えるのをやめる。
レネの生きる世界では、知らないことが身を助けることもある。
とにかく深入りはよくないのだ。
「ああ、そうしてくれ」
「いつ牧場に戻るの?」
バルナバーシュから訊いてこいと言われていたことを思い出し、慌てて尋ねる。
「あと五日くらいここら辺でゆっくりしたら戻ると言っといてくれ」
「わかった。じゃあオレたち帰るから」
二日酔いで馬など乗りたくは無ないいが、仕方ない自業自得だ。
「ああ、お前……狼には気を付けろよ」
「は?」
ここら辺に狼が出る場所でもあるのだろうか?
(……狼)
でもつい最近、狼に遭遇したような……。
なにか自分の中から、大事な記憶が抜け落ちている気がするが、よく思い出せない。
「ははっ、そんな難しく考え込むなよ。なあ、バルトロメイ」
「イテッ」
オレクはまたバルトロメイの頭を叩いた。
「お前も気を付けろよ。俺はなんとも思わんが、親父に知られたらタダじゃ済まないぞ」
「……わかってます」
バルトロメイはなんだか不貞腐れた顔をしている。
(こいつ、なにかしでかしたのか? 親父って団長のことだよな?)
「私は応援してるからな、がんばれよ!」
ダニエラは笑いながら、先ほどから困り果てた大型犬と化している青年の背中をバシンと叩いた。
(この女はなにを応援してるんだ?)
やはりレネには、この男装の麗人がなにを考えているのかさっぱりわからない。
なんだか妙に楽しげな二人と別れると、レネとバルトロメイは帰路についた。
「う゛う゛~~~~~~~」
起きてから頭がガンガンと痛い。
オレクから勧められるままに飲まされて、その後の記憶がまったくない。
朝起きてバルトロメイに『昨日のことを覚えてるか?』としきりに訊かれたのだが、なにも覚えてないのだ。
(情けない……)
「おいおい二日酔いかよ?」
昨日の行った居酒屋は朝と昼は食堂として店を開けている。
レネたちが店へ向かうと、先にオレクたちがなに食わぬ顔でお茶を飲んでいた。
「——まさかレネ……昨日のこと覚えてないのか?」
「え……!? なに?……オレなにか変なことした?」
ダニエラが思わせぶりに言うものだから、レネも真剣に悩んでしまう。
「したというより、された側だよなバルトロメイ?」
急に話を振られたバルトロメイが、お茶を吹き出す。
「なにやってんだよ、お前」
オレクが面白い玩具を見つけた子供のようにバルトロメイを小突く。
七十過ぎの爺さんは今日も朝から楽しそうだ。
「レネ、お前二日酔い以外にどっか具合が悪いとかないか?」
ダニエラも目を爛々と輝かせながらレネをジロジロと見つめる。まるで視姦されているようで居心地が悪い。
「え? 具合? 虫刺されくらいしかないけど……?」
今朝風呂に入っている時に気がついたのだが、胸や太ももに赤い跡が散っていた。
それを聞いたオレクが、ダニエラの横で肩を揺らしながら笑いはじめた。
(——さっきから……なにがそんなに面白いんだ?)
「こんな時期に? どこ刺されたんだよ?」
顔を引き攣らせながら、今日もきっちり男装しているダニエラが訊いてきた。
なにか必死に堪えているようだが、気のせいだろうか?
だがレネには、この女が考えていることなどわからない。
「……胸とか太ももとか……首も刺されてた」
すると、ダニエラの眉間にしわが寄る。
(なにかいけないことなのか?)
レネはダニエラが笑いを堪えるのに、自分の太ももを一生懸命つねっていることなど知らない。
「毒虫とかかもしれないぞ。どれ、ちょっと見せてみろよ」
「えっ! 毒虫?」
痛くも痒くもなんともないが、こんな経験は初めてなので、ダニエラに言われるがまま首筋にかかった髪を払いのけ、赤くなった跡を見せた。
「あー本当だ。赤くなってる。でも痛みとかはないんだろう?」
「うん。痒くもなんともない」
「じゃあ大丈夫だ。でも害虫がいたんだろうな」
「でかいのがな」
オレクが口を挟む。
「おいバルトロメイ、顔色が悪いぞ。お前も二日酔いなのか?」
ダニエラは楽しそうに、叱られた飼い犬みたいに縮こまっているバルトロメイい目を遣る。
「……いいえ」
「だよな。昨日は酔っ払ったレネをお前が宿まで連れて帰ったもんな」
「えっそうなの……ごめん」
なんだか悪いことをさせてしまった。
「いいんだよ。こいつは。それ以上の見返りをもらっているはずだ」
そう言いながら、オレクは孫の頭を叩いた。
「いてっ……」
なぜかバルトロメイは反論もせずされるがままだ。
さっきから、どうも自分だけ話の輪の中に入っていない。
「なんだよ……やっぱりオレ、昨日酔っ払ってる間に変なことしたんだろ?」
「いや、ただ寝てただけだから安心しろ」
オレクに言い切られると、それ以上訊くわけにもいかないので、レネは話題を変える。
「そういえば……団長からの手紙はなんだったの? 途中で刺客から襲われたんだけど?」
「ああ、あれはこの手紙の情報を俺に知られたくない連中の仕業だろう。昨日手紙を俺が読んだ時点でやつらの役目は終わった」
「ふ~~ん。なんかよくわかんないけどオレクが狙われるとかはないんだよな?」
今度はオレクたちに刺客が行ったら、いくら強いとはいえ七十過ぎの老人だ、心配にもなる。
「俺を直接ねらった時点でそいつらの正体がバレるからな。こっちには手は出してこない。お前らももう狙われることはないから安心しろ」
「わかった。オレクが言うならもう気にしない」
この問題は自分たちの領域の話ではないようなので、レネはこれ以上考えるのをやめる。
レネの生きる世界では、知らないことが身を助けることもある。
とにかく深入りはよくないのだ。
「ああ、そうしてくれ」
「いつ牧場に戻るの?」
バルナバーシュから訊いてこいと言われていたことを思い出し、慌てて尋ねる。
「あと五日くらいここら辺でゆっくりしたら戻ると言っといてくれ」
「わかった。じゃあオレたち帰るから」
二日酔いで馬など乗りたくは無ないいが、仕方ない自業自得だ。
「ああ、お前……狼には気を付けろよ」
「は?」
ここら辺に狼が出る場所でもあるのだろうか?
(……狼)
でもつい最近、狼に遭遇したような……。
なにか自分の中から、大事な記憶が抜け落ちている気がするが、よく思い出せない。
「ははっ、そんな難しく考え込むなよ。なあ、バルトロメイ」
「イテッ」
オレクはまたバルトロメイの頭を叩いた。
「お前も気を付けろよ。俺はなんとも思わんが、親父に知られたらタダじゃ済まないぞ」
「……わかってます」
バルトロメイはなんだか不貞腐れた顔をしている。
(こいつ、なにかしでかしたのか? 親父って団長のことだよな?)
「私は応援してるからな、がんばれよ!」
ダニエラは笑いながら、先ほどから困り果てた大型犬と化している青年の背中をバシンと叩いた。
(この女はなにを応援してるんだ?)
やはりレネには、この男装の麗人がなにを考えているのかさっぱりわからない。
なんだか妙に楽しげな二人と別れると、レネとバルトロメイは帰路についた。
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