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7章 サーベルを持った猫
1 将来の夢
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◇◇◇◇◇
レネはいつも二階の窓から、一階にある店の入り口を見下ろしていた。
一階は両親が営む日用雑貨屋だ。
午前中はアネタと二人で近所のイゴルさんの家で読み書きを習って、午後は外で友達と遊んだりしている。
家にいる時は、ある人物が店にやって来るのをずっと待っていた。
(あっ、来た!)
背の高いたくましい男が店の中へと入って行くのを確認すると、急いで階段を下り店の中へと入って行く。
レネの姿を見つけると、男の鋭い眼光から一瞬にして険が抜ける。
自分が男にもたらした変化を確認する、この瞬間がたまらなく好きだ。
なんだか特別な存在になった気がした。
レネは迷わず男に抱き着いた。
「バルっ!」
「よう、元気にしてたか?」
バルと呼ばれた男は微笑み、レネの頭を優しく撫でる。
(やっぱり今日もかっこいい!)
「もう、この子ったらお客さんに……いつもすいません……」
レネの母親は申しわけなさそうにバルに謝る。
「いや、かまわないよ」
最初のころ両親は叱りつけていたが、『俺も子供は大好きだから、叱らないでやってくれ』とバルが言ってから、もう諦めている。
客がかまわないのなら、好きにさせるしかない。
バルとレネが仲良くなったのは、友達の家から帰る途中にレネが、人攫いに連れて行かれそうになっていた所を、たまたま通りかかったバルに助けてもらった時からだ。
ときどき行っていた日用雑貨屋の息子だと気付き、家まで送りとどけてくれた。
人攫いたちを次々と倒していくバルは、とても強くてかっこよかった。
その姿は、姉が読んでいる本に出てくる騎士にそっくりだった。
レネの父親は背も低くて細いが、バルは、たくましい身体付きをしていて背も高い。
きりりとした男らしい顔つきで、本に出てくる騎士のようにとても優しい。
次に店に来るまでに、レネは一生懸命バルの絵を描いて助けてくれたお礼にと渡した。
するとバルは、思っていた以上にとても喜んでくれたのだ。
それからというもの、レネはバルが店に来るのをいつも心待ちにしていた。
「今日は姉ちゃんはどうした?」
「上で編み物してるよ。大きくなったら編み物屋さんになるんだって」
姉は時間があると、二階の日当たりのよい窓際で編み物をしている。
最初に、バルが店に入って来るのを教えてくれたのは、姉だった。
それ以来、レネはいつも窓際で目を光らせて店の入り口の様子を見張っている。
「そうか。レネは大きくなったらなにになりたいんだ?」
「バルみたいに強くなって、お姫様を護る騎士になりたいっ!」
母親から聞いた。バルは騎士様でとても強くて、人を護る仕事をしているのだと。
「おお、騎士になりたいのか。でも誰が店を継ぐんだ? 姉ちゃんは編み物屋さんだろ?」
そうだ……自分が騎士になったら、この店はどうなるのだろうかと……レネは少し困った。
「姉ちゃんがここの店も続けるよ」
困った時はいつも姉がなんとかして助けてくれる。
心配することはない。大丈夫だ。
「そうなのか。姉ちゃん忙しくなるな」
バルは笑いながらも、レネの気になることを言った。
姉にだけ、この店を押し付けていいのか……?
バルの言葉を聞いて、レネに少し後ろめたい気持ちが湧いてくる。
「でも姉ちゃんはがんばり屋さんだから大丈夫」
そう、きっと姉はがんばってくれるはず。
だって、自分は姉も憧れる騎士になるのだから、応援してくれるはずだ。
「だから、バルに剣を教えてほしいんだ」
レネはずっとお願いしたかったことを、勇気を出してバルに言ってみた。
「こら、レネっ! お客さんに困ったことを言っちゃダメ」
今度こそ、母親はレネを叱りつける。
バルは母親の方を見て、目配せして苦笑いする。
大人同士がこういう顔をする時は、嘘をつく時だ。
レネは知っていた。
こうやっていつも大人たちはレネを子供扱いして相手にしてくれない。
「わかった。でも剣の道は厳しいぞ。レネはまだ身体が小さいから大きくなってからにしような」
嘘だ。バルは適当にごまかして、いつまでたっても自分に剣は教えてくれないだろう。
「ちゃんと約束してよっ、僕は強くなりたいんだっ!」
バルの目を見て、必死に訴えた。
それから一年後、バルとレネの関係性を大きく変えるできごとが起こる。
レネはいつも二階の窓から、一階にある店の入り口を見下ろしていた。
一階は両親が営む日用雑貨屋だ。
午前中はアネタと二人で近所のイゴルさんの家で読み書きを習って、午後は外で友達と遊んだりしている。
家にいる時は、ある人物が店にやって来るのをずっと待っていた。
(あっ、来た!)
背の高いたくましい男が店の中へと入って行くのを確認すると、急いで階段を下り店の中へと入って行く。
レネの姿を見つけると、男の鋭い眼光から一瞬にして険が抜ける。
自分が男にもたらした変化を確認する、この瞬間がたまらなく好きだ。
なんだか特別な存在になった気がした。
レネは迷わず男に抱き着いた。
「バルっ!」
「よう、元気にしてたか?」
バルと呼ばれた男は微笑み、レネの頭を優しく撫でる。
(やっぱり今日もかっこいい!)
「もう、この子ったらお客さんに……いつもすいません……」
レネの母親は申しわけなさそうにバルに謝る。
「いや、かまわないよ」
最初のころ両親は叱りつけていたが、『俺も子供は大好きだから、叱らないでやってくれ』とバルが言ってから、もう諦めている。
客がかまわないのなら、好きにさせるしかない。
バルとレネが仲良くなったのは、友達の家から帰る途中にレネが、人攫いに連れて行かれそうになっていた所を、たまたま通りかかったバルに助けてもらった時からだ。
ときどき行っていた日用雑貨屋の息子だと気付き、家まで送りとどけてくれた。
人攫いたちを次々と倒していくバルは、とても強くてかっこよかった。
その姿は、姉が読んでいる本に出てくる騎士にそっくりだった。
レネの父親は背も低くて細いが、バルは、たくましい身体付きをしていて背も高い。
きりりとした男らしい顔つきで、本に出てくる騎士のようにとても優しい。
次に店に来るまでに、レネは一生懸命バルの絵を描いて助けてくれたお礼にと渡した。
するとバルは、思っていた以上にとても喜んでくれたのだ。
それからというもの、レネはバルが店に来るのをいつも心待ちにしていた。
「今日は姉ちゃんはどうした?」
「上で編み物してるよ。大きくなったら編み物屋さんになるんだって」
姉は時間があると、二階の日当たりのよい窓際で編み物をしている。
最初に、バルが店に入って来るのを教えてくれたのは、姉だった。
それ以来、レネはいつも窓際で目を光らせて店の入り口の様子を見張っている。
「そうか。レネは大きくなったらなにになりたいんだ?」
「バルみたいに強くなって、お姫様を護る騎士になりたいっ!」
母親から聞いた。バルは騎士様でとても強くて、人を護る仕事をしているのだと。
「おお、騎士になりたいのか。でも誰が店を継ぐんだ? 姉ちゃんは編み物屋さんだろ?」
そうだ……自分が騎士になったら、この店はどうなるのだろうかと……レネは少し困った。
「姉ちゃんがここの店も続けるよ」
困った時はいつも姉がなんとかして助けてくれる。
心配することはない。大丈夫だ。
「そうなのか。姉ちゃん忙しくなるな」
バルは笑いながらも、レネの気になることを言った。
姉にだけ、この店を押し付けていいのか……?
バルの言葉を聞いて、レネに少し後ろめたい気持ちが湧いてくる。
「でも姉ちゃんはがんばり屋さんだから大丈夫」
そう、きっと姉はがんばってくれるはず。
だって、自分は姉も憧れる騎士になるのだから、応援してくれるはずだ。
「だから、バルに剣を教えてほしいんだ」
レネはずっとお願いしたかったことを、勇気を出してバルに言ってみた。
「こら、レネっ! お客さんに困ったことを言っちゃダメ」
今度こそ、母親はレネを叱りつける。
バルは母親の方を見て、目配せして苦笑いする。
大人同士がこういう顔をする時は、嘘をつく時だ。
レネは知っていた。
こうやっていつも大人たちはレネを子供扱いして相手にしてくれない。
「わかった。でも剣の道は厳しいぞ。レネはまだ身体が小さいから大きくなってからにしような」
嘘だ。バルは適当にごまかして、いつまでたっても自分に剣は教えてくれないだろう。
「ちゃんと約束してよっ、僕は強くなりたいんだっ!」
バルの目を見て、必死に訴えた。
それから一年後、バルとレネの関係性を大きく変えるできごとが起こる。
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