菩提樹の猫

無一物

文字の大きさ
上 下
96 / 473
5章 団長の親友と愛人契約せよ

エピローグ

しおりを挟む
◆◆◆◆◆

 バルチーク伯爵家の領地は、ドロステアの南にある港街だ。
 私は父親からここでの謹慎を言い渡された。
 現在はメストに滞在する父と代わり、兄が実務をこなしている。


 今でもテプレ・ヤロでのことが忘れられない。

 皮肉にも、兄と同じように誘拐されようしていた私を、助けてくれたのは……溜息が出るほど……美しい青年。
 あんなにか弱く男に押さえつけられていたのに、嘘のように次々と男たちを倒していく姿は、まるで水を得た魚のように生き生きとしていた。

 レネはいったい何者なんだろう?
 ハヴェルの愛人というのはたぶん仮の姿だ。

 山小屋から救出されたその足で、私はザメク・ヴ・レッセの自分の部屋にある小さな暗室へ入った。
 この個室は貴族たちの歪んだ性癖を満たすために造られた小部屋で、特殊なガラス越しに隣の寝室の様子を覗くことができるようになっている。

 私はレネの様子をいつでも覗けるように、隣の部屋へと招待していたのだ。

 そして、そこで私は目撃した。
 ハヴェルと使用人の二人が、意識の無いレネを全裸にし、無垢な蕾が蹂躙されていないか確かめていた瞬間を……。
 うつ伏せになった股の間から、押しつぶされてちょこんと顔を出した淡い色の性器。
 尻の肉を開いた時に、淡いピンク色をした慎ましい蕾からチラリと珊瑚色の粘膜が覗いていた。
 
 
 私は脳裏に残るその場面を思い出しながら自分を慰める。

「っ……はッ……ぁッ……」

 レネが蹂躙されてないとわかった時の二人の安堵のしかたは、尋常ではなかった。
 本人も言っていたように、レネは本当に男に抱かれたことがないということを、あのとき私は確信した。

 ふと、気が付けば……はしばみ色の瞳がこちらを覗き込んでいる。

「ごめん。覗くつもりはなかったんだけど……でも相手なんかたくさんいるだろうに意外」

 兄が監視役にと付けた青年に、自慰を見られてしまったようだ。
 しかし、狼のような美しさのあるこの青年こそ、女が黙っておかないだろうと私は思う。

「——私の抱きたい肉体が、目の前にいないから……仕方ないだろ?」

「やっぱこんな地方じゃメストみたいな洗練された女はいないってか……」

「……ふん」

 わざわざ口には出さないが、女ではない。

「やっぱりそうか。俺も親父があっちにいるんだよ……あんたの謹慎が明けたら一緒について行こうかな……」

 騎士団を退団しいくつかの土地を渡り歩いた後、バルチーク家に来たようだが、私はこの男のことをまだあまりよく知らない。
 だが、堅苦しい騎士団上がりの割には、砕けていて付き合いやすかった。
 この男だったら、ずっと側に置いておくのも悪くはない。

「——もし一緒に行くなら……人探しをしてくれないか?」

 ハヴェルのまわりを探っていけば、レネは見つかるだろうか?
 
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

侯爵令息は婚約者の王太子を弟に奪われました。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

Ωの皇妃

永峯 祥司
BL
転生者の男は皇后となる運命を背負った。しかし、その運命は「転移者」の少女によって狂い始める──一度狂った歯車は、もう止められない。

彼の理想に

いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。 人は違ってもそれだけは変わらなかった。 だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。 優しくする努力をした。 本当はそんな人間なんかじゃないのに。 俺はあの人の恋人になりたい。 だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。 心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

処理中です...